スピン偏極STMで探る層状反強磁性体のスピンフラストレーション
Project/Area Number |
21K04881
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 29020:Thin film/surface and interfacial physical properties-related
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
川越 毅 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (20346224)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
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Budget Amount *help |
¥4,030,000 (Direct Cost: ¥3,100,000、Indirect Cost: ¥930,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2022: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
Fiscal Year 2021: ¥2,210,000 (Direct Cost: ¥1,700,000、Indirect Cost: ¥510,000)
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Keywords | スピン偏極STM / 反強磁性磁区形成 / スピンフラストレーション / Cr(001)薄膜 / 層状反強磁性 / Cr(001)表面 |
Outline of Research at the Start |
層状反強磁性を示す物質の典型であるCr(001)薄膜表面を観察対象として、表面欠陥・モホロジーとナノ磁気構造の相関をスピン偏極走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いて、実空間で分解能の極限ナノ領域まで観察する。研究代表者が長年蓄積してきた高品位な磁性超薄膜作成技術と高性能のスピン偏極STM装置利用が本研究の鍵である。異なるCr膜厚や成長条件の違いを用い、欠陥や表面モホロジーが異なるCr超薄膜を作製し、反強磁性体特有のスピンフラストレーションや磁区・磁壁の発現機構を徹底解明し、スピントロニクスへの応用の具体的展望を発信する。
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Outline of Annual Research Achievements |
Cr(001)薄膜ではらせん転位密度がバルクCr(001)表面の100倍以上あるため、多彩なスピンフラストレーション(SF)が観察される可能性がある。本年度はこれまで磁気像観察が困難であった10原子層厚(1.5nm)Cr(001)薄膜のスピン偏極STM像観察に挑戦した。10原子層厚Cr(001)薄膜はAu(001)清浄表面上に室温でCr蒸着後、520K熱処理することにより、原子レベルで平坦なテラスを有する高品位なエピタキシャルCr(001)薄膜を作成し、スピン偏極STM観察は超高真空下・室温でFe/W探針を用いて行った。 スピン偏極STM観察では形状像と磁気像を同じ場所で同時に観察することができる。形状像から、原子レベルで平坦なテラス、単原子ステップ、らせん転位などが明瞭に観察された。磁気像では(a)1原子層異なるごとに磁化方向が反転する層状反強磁性に加え(b)2個のらせん転位間、(c)3個のらせん転位を結ぶ領域でSFが観測された。b)とc)の結果は、両者ともにこれまでに観測されたらせん転位に伴う層状反強磁性特有のスピンフラストレーションである。これまで膜厚3 nm以上のCr(001)薄膜で、層状反強磁性が室温で観測されているが、10原子層厚であっても室温で依然として層状反強磁性が観測された。 さらに(d)これまでCr(001)薄膜で観測されたことのない b)とc)とは大きく異なるSFが観測された。観測された形状像と磁気像を詳細に調べた結果、新たに観測されたSFは“隣接する2組のらせん転位による量子化軸が90度回転した反強磁性磁区の形成とらせん転位近傍に限定されないSF”であることが分かった。観察された磁気像のSFが、隣接する2組のらせん転位による起因することを実証するためマイクロマグネティック・シミュレーションによる磁区構造の検証も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和4度以降はCr膜厚1.5 nm(10原子層)以下のCr(001)超薄膜に焦点をしぼり、a)高品位なCr(001)超薄膜の作成と欠陥と表面モホロジーの制御と評価b)スピン偏極STMによるCr(001)超薄膜の表面欠陥・モホロジーとナノ磁気構造との相関の実空間・ナノ領域での観察を継続して行っている。これまで磁気像観察が困難であった10原子層厚(1.5nm)Cr(001)薄膜のスピン偏極STM像の観察に挑戦した結果、明瞭な磁気像の観察に成功し、反強磁性磁区の形成とらせん転位近傍に限定されないスピンフラストレーションを観測した。反強磁性体特有のスピンフラストレーションや磁区・磁壁の発現機構の解明をマイクロマグネティック・シミュレーションによる磁区構造の検証も含め実験結果の解析も行うことができた。これらの結果は、2023年3月の物理学会で口頭発表を行った。 “Antiferromagnetic domain formation and spin frustration induced by adjacent paired screw dislocations in 10 monolayer-thick Cr(001) films”の題目でJapanese Journal of Applied Physics(応用物理学会英文論文誌)のRegular paperに投稿を行い、 2023年3月28日に論文がAcceptedされた。 現在はさらにCr膜厚の薄い7原子層以下のCr(001)超薄膜を中心に実験を継続している。これまで得られた研究成果をまとめ、成果発表を行うとともに、研究成果の論文投稿にも努める。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、研究代表者が長年開発・蓄積してきたスピン偏極STM/STS顕微観察法と分子線エピタキシー法による薄膜成長技術を駆使して、Cr膜厚10原子層以下のCr(001)超薄膜を対象として、スピン偏極STM/STSによるCr(001)超薄膜の表面欠陥・モホロジーとナノ磁気構造との相関の実空間・ナノ領域までの観察~反強磁性体特有のスピンフラストレーションや磁区・磁壁の発現機構の解明を目指す。実験は、現有の試料成長室、STM観察室を備えた超高真空STM/MBE装置を用いて行う。到達真空度は試料成長・STM観察室ともに5×10-9 Pa以下の超高真空である。試料成長室には、Kセル、電子ビーム蒸着源7元素、試料加熱ステージ、低速電子線回折およびオージェ電子分光器が設置されている。STM観察室にはオミクロン社マイクロSTM、探針用電子衝撃加熱、試料搬送装置が設置されている。すなわち試料の清浄表面作製とその評価、探針の清浄化、強磁性探針作成、STM観察が室温・超高真空下で可能である。しかし、さらに低温でのSTM観察が必要になった場合は、名古屋大学で現在整備を進めている低温STMを用いて共同研究を推進する予定である。
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Report
(2 results)
Research Products
(5 results)