Project/Area Number |
21K04895
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 29030:Applied condensed matter physics-related
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
乾 徳夫 兵庫県立大学, 工学研究科, 教授 (70275311)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,290,000 (Direct Cost: ¥3,300,000、Indirect Cost: ¥990,000)
Fiscal Year 2024: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2022: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2021: ¥1,560,000 (Direct Cost: ¥1,200,000、Indirect Cost: ¥360,000)
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Keywords | 反磁性 / 浮揚 / 力計測 / カシミール力 / グラフェン / ファンデルワールス / 計測 / ファンデルワールス力 |
Outline of Research at the Start |
方位磁石のような,微小な力で動く力検出器において問題となるのが摩擦である.このような摩擦を低減する一つの方法は,力検出プローブを浮揚させることである.接触部分をなくすことで,微小な力でも駆動させることが可能になる.しかし,既存の静電気浮揚や磁気浮揚なでは外部エネルギー源と制御が必要であり高密度集積化の妨げとなっている.よって本研究では反磁性を用いた高密度でも浮揚できる技術の開発を目指す.第一は反磁性体と強磁性体の反発力を利用する方法で,第二はファンデルワールス力を斥力化する方法である.斥力化に必要な条件を理論的に解析し,またその検証に必要な実験を行うことで,力検出の高感度に貢献する.
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Outline of Annual Research Achievements |
微弱な力の検出には物体の微小な変位もしくは微小な加速度の計測が必要になる.その際に問題となるのが重力と摩擦の存在である.この二つの影響を同時に低減させる方法の一つとして,空中浮揚が研究されてきた.その多くは電場と磁場を利用するものであるが,電磁気学の基本的な性質により,物体を制御することなく安定に空中浮揚させることは困難であることが知られている.例外は反磁性を利用した浮揚である.超伝導体上で磁石が浮揚する現象は,超伝導体がマイスナー効果で完全反磁性になり,かつピン止め効果が作用しているために実現している.超伝導浮揚では大きな力を生み出すことができるが,低温の環境が必要である.そこで,本研究では室温において反磁性と量子効果を組み合わせた浮揚により力計測の感度向上を目指している.力計測に用いるプローブはその質量が小さいほど,わずかな力に対して大きな応答が期待されるため,軽くてかつ大きな反磁性を有する物質が望ましい.その代表例としてグラフェンが挙げられる.グラフェンは既存の物質では単位面積あたりの引っ張り強度が最大で,かつ大きな反磁性と電気伝導を有するため力検出プローブとして優れている.しかし,グラフェンの反磁性については十分には理解されておらず,またその工学的応用例も少ない. 前述のように古典電磁気学の範囲では安定な浮揚は困難である,しかし,超伝導のように量子効果と反磁性を組み合わせれば,室温で安定な浮揚ができる可能性がある.そこで,本年度では量子電磁気学的な力であるファンデルワールス力と反磁性による生じる力を組み合わせることにより浮揚が可能になるかを調べた.また,微小な力計測にはカンチレバーが多用されているので,磁場中に配置されたグラフェンカンチレバーが振動することで生じる電流分布変化とそれに伴うポテンシャルエネルギーの変化についても考察した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究結果を5報の論文として報告した.(1)ファンデルワールス力は真空のゼロ点振動により電気双極子および磁気双極子が揺らぐことで生じる.よって,浮揚物体と磁石に作用するこれらの相互作用が重要になる.特に物体が小さい場合,物体の内部と物体間の相互作用が同等に重要となるため,表面間力と物体の内部状態との関係性について調べた.(2)単層グラフェンを反磁性で浮揚させる場合に問題となるのが,グラフェンの強い磁気異方性である.表面に対して平行な磁場を印加した場合に発生する磁気モーメントが極めて小さいため,重力と平行な方向に磁場を印加するとグラフェンは回転して落下する.しかし,カシミール効果をうまく利用することでこの回転を抑制することができ,安定な浮揚が実現可能であることを示した.(3)グラフェンを浮揚して力のプローブとして利用するためには,反磁性を解析する手段が必要である.そのためにタイトバインディングモデルが用いられてきたがサイズが大きくなると計算ができない.そこで,連続近似を用いてエネルギー固有値のサイズ依存性について議論した. (4) 浮揚により摩擦を低減した場合,エネルギー散逸が小さいため,望まない振動が持続する可能性がある.そのため,磁場中で振動しているグラフェンカンチレバーのポテンシャルと電流分布の変化について調べた.(5) グラフェン内の炭素原子間に作用する力は非線形であるため振動は複雑で解析的な結果を得ることが困難である.そこで一端が固定で他方が自由端である調和連成振動子に現れる統計的性質が,グラフェンにおいても有するかについて分子動力学シミュレーションを用いて調べ,変位量が小さくかつ振動方向が1次元の場合に単純な統計的見出した.以上,浮揚グラフェンをプローブして利用する際の解析手段が明らかになってきたが,今後は浮揚した状態での動特性を調べていく必要がある.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究によりファンデルワールス力と反磁性を組み合わせることによりグラフェンの浮揚が可能であることが示唆された.グラフェン反磁性は環状電流により生じるもので,電磁誘導に起因する.つまり磁場が時間的に変化することで電流が発生する.グラフェンを浮揚して微小な力の検出に使用する場合,プローブの振動や回転は避けれられないため,この電磁誘導について理解しておく必要がある.前年度は磁場中に置かれたカンチレバーが振動した場合について調べた.この場合グラフェンの磁気異方性が動特性を決定づける主要因であり,環状電流はグラフェン表面を垂直に貫く磁束蜜密度により決まる.つまりグラフェンが磁場の方向に対して回転すると電流に変化が生じる.しかし,グラフェン表面が磁場に対して常に垂直であっても,磁場の大きさが変化すれば電流が変化する.例えば,磁石表面の磁束密度は大きく表面から遠ざかると減少するので,磁石表面で浮揚した場合は上下振動により電流が変化する.このような背景により,本年度は磁場が時間変動する場合の磁気応答についてタイトバインディングモデルを用いて調べることとした.グラフェンの磁気特性,例えば磁気感受率はエネルギー固有値が計算できれば求めることができる.しかし,磁束密度の時間変化により電場が生じることから予想されるように,磁気モーメントの時間変化などは時間に依存するシュレディンガー方程式を解く必要がある.多くの場合解析解を得ることは困難であるため,摂動計算や数値計算を用いて解析を行う.加えて,グラフェンだけではなく,最近合成が進んでいるカーボンリングも研究対象とする予定である.カーボンリングは準一次元系であるため,任意のサイズで厳密に計算できれば,無摂動状態の波動関数が得られ信頼性の高い摂動計算を行うことができる.また,グラフェンとは異なる磁気異方性を有するので,安定した浮揚が期待される.
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