夏季高温時における水田の水管理がイネ葉温と穂温の形成に果たすメカニズムと効果
Project/Area Number |
21K05851
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 41040:Agricultural environmental engineering and agricultural information engineering-related
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
大上 博基 愛媛大学, 農学研究科, 教授 (80213627)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
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Budget Amount *help |
¥4,160,000 (Direct Cost: ¥3,200,000、Indirect Cost: ¥960,000)
Fiscal Year 2023: ¥130,000 (Direct Cost: ¥100,000、Indirect Cost: ¥30,000)
Fiscal Year 2022: ¥390,000 (Direct Cost: ¥300,000、Indirect Cost: ¥90,000)
Fiscal Year 2021: ¥3,640,000 (Direct Cost: ¥2,800,000、Indirect Cost: ¥840,000)
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Keywords | イネの葉温と穂温 / 夏季高温 / 気孔コンダクタンス / 電子伝達速度 / 光合成速度 / 品種間差 / 湛水深 / 水管理・灌漑 / 光合成 |
Outline of Research at the Start |
イネの個葉~群落~水田圃場を対象に,微気象学的および生理生態学的観測を基軸とし,イネ個葉の気孔環境応答と光合成特性をモデル化し,水管理条件の違いがイネ個葉の気孔応答と穂の蒸散に及ぼす影響,群落内部における温度・湿度等の微気象環境に及ぼす影響を再現する.また,水管理条件の違いが光化学反応に及ぼす影響を再現し,高温障害や収量低下に至るメカニズムを明らかにする.
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Outline of Annual Research Achievements |
水田とコンテナ植栽で,イネ品種ひめの凜(HR),コシヒカリ(KH),にこまる(NM)に今年度新たにヒノヒカリ(HH)を加えて実験を行った.各8~9個体の最上葉(止葉)と第2葉の気孔コンダクタンス(gs)と電子伝達速度(ETR)を午前と午後に測定(LI-600PF)し,最上葉のgs,光合成速度(P), ETRと非光化学的消光(NPQ)を測定(LI-6400)した.赤外線放射温度計(THI-300)を用いて,群落温度鉛直分布を10cm間隔で手測した.また,出穂開花期以降,各品種3コンテナに対し異なる湛水深を与えて比較した. 出穂前7日目から出穂後20日目の平均gs値は,両葉ともHR最高(一部有意)NM最低であった.また,最上葉の光gs曲線を比較すると,全PAR域でHRが最高でNMが最低であった.平均ETR値を比較すると,止葉はHRが最高(ns)で第2葉はHHが最高(NMと有意)であった.また,最上葉の光ETR曲線を比較すると,登熟期にHRのETRが他品種よりも明らかに高い以外は,品種間で明確な差はなかった.以上の結果は,昨年度の研究成果とほぼ一致した.最上葉の光P曲線を比較すると概してHRのPが最高であった.HRの高いgsが第一の原因で,比較的高いETRが第二の原因であると考えられた. 群落温度は概してHRが全層で最低であった.HRは高いgsで蒸散を促進し葉温を低下させる機能を備えていると評価できた.それに加え,密群落で植物体が互いに陰を作る群落構造も一因であると考えられた.さらにHRの穂温はNMおよびHHよりも低かったことから,低い葉温が周囲の穂温を低下させたと考えられた. 湛水深別に群落温度を比較した結果,群落下部において湛水深10cmの群落温度が最も低い傾向が認められたが,群落中~上部では有意な差がみられなかった.令和5年度は,水田圃場に異なる湛水条件を与えて追加実験を行う.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ひめの凜(HR),にこまる(NM)と新たにヒノヒカリ(HH)を加えた3品種イネを対象とするコンテナ植栽実験に,コシヒカリを含めた4品種を対象とする水田実験を追加し,個葉レベルの生理生態学的観測と圃場レベルの微気象観測を行った.また出穂開花期以降,コンテナの湛水深を2,5,10cmに設定した.分げつ期以降,雨天日以外の毎日,気孔コンダクタンス(gs),電子伝達速度(ETR),光合成速度(P),イネ群落温度の鉛直分布を測定した.植物体面積密度の鉛直分布は毎週測定し,収穫後に乾物重・収量を測定した.以上のように,研究計画調書に既述した計画を一部改善し,昨年度の追試実験を加えた. 実験の結果,HRのgsは他品種よりも高く(一部有意),ETRについて止葉はHRが最高(有意差無)で第2葉はHHが最高(HRと有意差無)であり,令和3年度の研究結果を概して支持する結果が得られた.続いて,品種ごとに最上葉のgs,ETR,Pのモデルを構築した.現在,これらのモデルを組み込み,群落微気象多層モデルの構築を進展中である.イネ群落温度は,概してHRが他品種よりも低かった.HRは高いgsで蒸散を促進し葉温を低下させる機能と,密な群落の構造的特徴を有すること,さらにそれらが穂温を低く制御する効果もあると考えられた.これらは,令和5年度に多層モデルを援用して検証する予定である.また湛水条件がgsやETRおよび葉温・穂温に及ぼす影響とその品種間差は,コンテナ植栽実験結果からは明確な差が見いだせなかったので,令和5年は水田圃場で追試を実施する. 愛媛県のオリジナル品種であるひめの凛が,他2品種と比較して極めて特徴的な生理生態学的特性を持つことは,計画当初の期待以上の知見であった.その研究成果の一部は,令和5年4月発行のJournal of Agricultural Meteorology に掲載された.
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度は,研究計画調書の「1研究目的、研究方法など (3)研究方法」に既述したように,過去2年の追実験を行い,気孔コンダクタンス(gs),電子伝達速度(ETR),光合成速度(P)に加えて非光化学的消光(NPQ),群落温度の品種間差および湛水深間差を検証する.ただし,極早生のコシヒカリは他品種と比較が難であることが分かったので,生育速度がほぼ等しい「ひめの凜」と「にこまる」を実験対象とする.また,本研究で目標とする水管理すなわち湛水深の違いが群落温度に及ぼす影響は,過去2年のコンテナ植栽イネを用いた実験では明確にできなかったので,コンテナ植栽よりも実験水田に重点を置くこととし,水田の一角にある程度の広さを確保した湛水深管理区を設置して上記の測定を行う. 水田実験と並行して,これまでに構築したgsやPのモデルを組み込み,群落微気象多層モデルの構築を進展させ,群落温度の測定値を再現したうえで,イネ品種の違いすなわち生理生態学的特性の違いと湛水深の違いが群落温度に及ぼす影響とそのメカニズムを数値実験で検討する.ただし,異なる湛水深を与えたモデルによる数値実験は,水田実験で湛水深の影響が実証できた場合に有効なので,当初計画時に期待していた違いが実験で明確にできない場合は,イネ品種の違いによる影響とメカニズムの検討に焦点を絞る. 一方過去2年間の実験では,環境温度とgsおよびETRの関係を目的とした測定を行わなかったが,高温耐性の品種間差を明らかにするためには,その測定が必要であることが分かった.とくに35℃を超える高温条件下での生理生態学的な応答を実験で示した研究は例を見ない.そこで上記の2品種を対象とし,LI-6400を用いてチェンバー内のサンプリング温度を制御し,温度~gs, ETR関係を品種間比較する.これは当初計画にはなかった新たな研究サブテーマである.
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Report
(2 results)
Research Products
(11 results)