生物リズムと冬眠における周期の決定機構に関する数理・データ解析的アプローチ
Project/Area Number |
21K06105
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 43040:Biophysics-related
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
黒澤 元 国立研究開発法人理化学研究所, 数理創造プログラム, 専任研究員 (90550525)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
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Budget Amount *help |
¥3,640,000 (Direct Cost: ¥2,800,000、Indirect Cost: ¥840,000)
Fiscal Year 2025: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
Fiscal Year 2024: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
Fiscal Year 2023: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
Fiscal Year 2022: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
Fiscal Year 2021: ¥520,000 (Direct Cost: ¥400,000、Indirect Cost: ¥120,000)
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Keywords | 生物リズム / 冬眠 / 体内時計 / 数理モデル / 赤池情報量基準 / 温度補償性 / データ解析 / 周期 / ネットワーク / 波形歪み / 一般化調和解析 |
Outline of Research at the Start |
生物は、様々なスケールのリズムとともに生きている。神経活動リズムはミリ秒、体内時計は1日のスケールである。生物リズムは体内で必要不可欠な機能を担う。特に周期の長さは、体内時計の朝/夜型や睡眠障害と関係するなど重要な量である。研究が進み、タンパク質の立体構造、遺伝子産物の生成と分解、クロマチン構造などが、生物リズムに関係していると考えられている。しかしシステムの構成要素が多く複雑であるため、周期の決定機構は不明である。本研究は、我々が最近開発した周期と波形のひずみに関する数理と、生物学で用いられたことのない手法によるデータ解析の双方を駆使し、生物リズムと冬眠の周期の決定機構を解明する。
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Outline of Annual Research Achievements |
体内時計と冬眠の周期の決定機構について、実験データの解析と数理モデルによる研究を行った。生物リズムは、イオンチャネルやタンパク質の立体構造、遺伝子発現、クロマチン構造など様々なプロセスが関係しており複雑である。今年度は特に、精度の高い実験データを再現する数理モデルの推定と、数理モデルから導かれる予測の実験データを用いた検証を行った。具体的には次の課題に取り組んだ。(1) 冬眠中体温リズムの時系列解析、(2) 体内時計に関する数理モデル予測の検証。わかっていないことの多い冬眠現象を理解する上で、冬眠中の体温データは重要な手がかりを与えてくれる。私たちは最近、実験系研究者との共同研究により、シリアンハムスターの体温データを再現する数理モデルの推定を行い、2つの周期からなる簡単な数理モデルが実験データを精度よく再現できることを見出した(bioRxiv 2021)。今年度は、冬眠前後の体重などの値や、数理モデルのパラメータの中から冬眠期間を説明する因子を探索した。そして、私たちの数理モデルに含まれる短い周期の成分と、冬眠直前の体重との組み合わせにより冬眠期間を説明できることを見つけた(論文投稿中)。分子機構が比較的わかってきている体内時計で長年未解決とされている問題が、周期の温度補償性である。体内時計の周期は朝型/夜型、あるいは睡眠障害と関係する重要な量でもある。私たちはこれまでの数理モデルを用いた研究で、高温で反応が速くなるにも関わらず周期を安定化するためには、高温において遺伝子タンパク質のリズム波形がひずむ必要があると予測していた(Biophys J 2019)。今年度は、これまで詳細な定量化がされてこなかった既発表データを用いた解析を行った。そして、私たちの理論予測通り、高温で遺伝子タンパク質のリズムがひずんでいることがわかった(投稿準備中)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
生物リズムと冬眠の周期に関するデータ解析と数理モデルによる解析を行った。具体的に次のテーマについて研究が進んだ。(1) 冬眠中体温の時系列解析、(2) 体内時計に関する数理モデル予測の検証。近年、分子生物学的研究/解剖学的研究が活発に行われている冬眠現象において、ほとんどわかっていない問題の一つは、冬眠期間がどう決まるのかということである。私たちは実験系研究者と共同で、シリアンハムスターの体温データを再現する数理モデルを見つけることに成功していた(bioRxiv 2021)。このモデルのパラメータと、冬眠前後の体重など共同研究者の計測したシリアンハムスター個体のパラメータの中から、冬眠期間を説明する因子を探索した。そして、統計学でモデル選択によく使われる赤池情報量基準を冬眠の問題に適用し、数理モデルに含まれる短い周期の成分と、冬眠直前の体重との組み合わせにより冬眠期間を説明できることを見つけた(論文投稿中)。興味深いことに、冬眠前体重の軽い個体ほど、冬眠期間が長い傾向があった。この結果は、データを説明する数理モデルの推定にとどまらず、冬眠中の生理メカニズムを考える上で意味があると考えている。今年度は、分子機構が比較的わかってきている体内時計で長年未解決とされている、周期の温度補償性についても重要な結果が得られた。これまでの私たちの数理的研究で、周期と遺伝子タンパク質リズムの波形の関係について明らかにしていた。そして今回はじめて、体内時計の温度補償性に関する私たちの理論予測が、既発表の実験データで確かめられた。温度補償性については、温度非依存反応説などのメカニズムも提案されており、波形はこうした別のメカニズムと共存可能である。周期や振幅等に比べると定量化の行われていないリズムの波形が重要な生理現象において機能していることを理論・実験から示した成果と言える(投稿準備中)。
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Strategy for Future Research Activity |
体内時計と冬眠の周期の決定機構について、実験データの解析と数理モデルによる研究を引き続き行っていく。具体的には、次のテーマに特に集中して取り組む。(1) 様々な生物を対象とした冬眠中体温リズムの時系列解析、(2) 様々な振動モデルにおける周期の数理的解明。リスやクマのように一年の決まった時期にのみ 冬眠する「絶対冬眠型」においては、概年リズムの関与が解明されつつある。しかしハムスターのように低温環境におけばいつでも冬眠できる「任意冬眠型」においては、概年リズムが 関与するかどうかを含め、冬眠中の生体内の挙動は不明である。私たちはこれまでの研究で、シリアンハムスターの体温データを再現する数理モデルを推定している(bioRxiv 2021)。今後は、種を越えた、また冬眠タイプを越えた冬眠周期の決定機構を探索するため、リスなどの実験データを用いて冬眠中体温データの時系列解析を行っていく。 重要な未解決問題である体内時計周期の決定機構についても引き続き取り組んでいく。これまでの私たちの研究で、体内時計の可積分モデルについて、周期が波形のひずみの程度に比例することを見出している(Biophys J 2019)。また今年度の解析で、波形に関する理論予測が、体内時計の既発表実験データで確かめられた。今後は、生理応答で重要なErk系リズムのモデルなどに対して、波形と周期の関係を解析する。もしも体内時計以外の数理モデルにおいて、体内時計のモデルで見出された周期-波形の関係が成り立たない場合は、ネットワークのトポロジーの違いやパラメータの違いに着目した、数理モデルの解析並びにシミュレーションを行っていく。このようにして実験データの解析と数理モデルの両面から体内時計と冬眠の周期の決定機構にせまる。得られた成果は着実に論文にまとめていく。
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Report
(2 results)
Research Products
(5 results)