全文電子データを用いた、キリシタン版に見る日本語語彙の階層性の研究
Project/Area Number |
21K13017
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Research Category |
Grant-in-Aid for Early-Career Scientists
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
Basic Section 02070:Japanese linguistics-related
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
中野 遥 上智大学, 基盤教育センター, 助教 (60870441)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,550,000 (Direct Cost: ¥3,500,000、Indirect Cost: ¥1,050,000)
Fiscal Year 2025: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2024: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2023: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2022: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2021: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
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Keywords | 日葡辞書 / 言葉の和らげ / 落葉集 / 中世語彙 / 漢語研究 / 資料論 / 宣教に伴う言語学 / 国語学 / キリシタン語学 / 辞書史学 / 語彙史 |
Outline of Research at the Start |
初年度にキリシタン版全体の電子データ化と日本語の同定作業、そして同時代日本語資料の電子データ化を進める。2年度にはそのキリシタン版電子データを用いて、キリシタン文献内での見出し日本語と説明に用いられている日本語との関係性について明らかにする。3年度には調査対象を日本語資料にも広げ、中世節用集、抄物、能楽伝書等の注釈とキリシタン文献の記述の関係性を調査する。注釈を含む日本語資料は様々である為、4年度も引き続き日本語資料とキリシタン文献の対照調査を行う。最終年度には、キリシタン文献の日本語に対するポルトガル語語釈に着目し、同時代ポルトガル辞書の記述と対照させながら、日本語語彙受容の様相を解明する。
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Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、これまでに作成していたローマ字本「言葉の和らげ」類の全文データを活用し、「言葉の和らげ」全体の見出し語と語釈内語彙に着目して、調査を行った。「言葉の和らげ」(以下、「和らげ」)は、キリシタン版宗教書に付属している、本文に対応した語彙集であり、本文で用いられている語彙の内、説明が必要と判断された語が見出し語に立項され、日本語やポルトガル語で説明や言い換えがされている。本研究課題では、この資料の特徴から、見出し語:語釈=難:易の関係であるという事を踏まえ、見出し語の語彙と語釈側の語彙の間の階層に着目をしている。2023年度は、2022年度までの研究も踏まえながら、語釈側に用いられている語彙、特に漢語語彙に着目して研究を進め、複数の口頭発表を行った。具体的には、次の点を指摘した。 ①「和らげ」は、漢語を見出し語に立項し、それに対する言い換えや説明を語釈に付す事が圧倒的に多いが、中には、語釈側にも漢語語彙を用いる事がある。語釈側に用いられている漢語が、見出し語に立項される例も存在してはいるが、見出し語と語釈の関係が完全に逆転してしまう例は存在せず、見出し語:語釈=難:易の関係である事に矛盾は生じない。 ②「和らげ」の語釈側に用いられている漢語語彙は、「和らげ」間である程度共通しており、更に、キリシタン版語学辞書類の日本語箇所や、キリシタン版本文の中でも使用が見られるものであり、「和らげ」語釈側にある漢語語彙は、キリシタン語学に於いて説明に用いる事が出来るような、比較的簡易な漢語群であったと考えられる。 ③更に、これらの漢語は、中世日本語辞書の中でも、見出し語や語釈の中で用例が見られるものが多く、当時の、基本的な漢語(釈義側に用いる事が出来る漢語)が、「和らげ」に現れていると考えられる。 この「基本的な漢語」については、特に、今後より幅広い日本の中世資料を調査していきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度までは、個別の「言葉の和らげ」に関する調査・考察が主となっていたが、2023年度は、これまで入力した全「和らげ」類の横断的な語彙の調査・考察を行った。2023年度は、本研究課題の主たる目的である、「和らげ」の中の見出し語と語釈の語彙の階層性についての研究を進める事が叶った。 漢語は、一般的に、特に、キリシタン語学に於いて、難易で言えば「難」に該当する語彙であるが、実際には、「和らげ」の語釈側に用いられる漢語がある事、また、その漢語は、キリシタン語学や中世日本語資料の中でも、ある程度安定して説明に用いられる傾向があると示す事が出来たのは、本研究課題の大きな進展であると言える。つまり、漢語の中にも難易の階層性があり、「易」に分類される漢語が、「和らげ」の語釈側に現れていると考えられる。 この研究は、「和らげ」の資料としての再評価も期待出来るものであると同時に、キリシタン語学に限らない、より普遍的な、「漢語の中の位相性」、つまり、漢語を理解・説明するのに用いる事が出来る基本的な漢語の存在についても迫るものであると考えられる。2023年度の研究により、本研究課題の意義は、より明確なものになったと考えている。 しかし、2023年度は、調査に時間がかかり、口頭発表でのみの成果報告となったのが心残りである。2024年度は、2023年度の調査に、更に幅広い日本側の資料(現在、能楽資料の調査を進めているが、その他にも抄物も取り上げる予定)の調査を加え、論文として公にする事を目指す。また、「和らげ」類全体を網羅的に扱った事で、翻って、各「和らげ」の編纂の傾向や語釈形式の特徴、見出し語と本文との対応などの調査は手が回らなかった。2024年度は、各「和らげ」の編纂傾向や特徴についても、再び注目をして、マクロな視点とミクロな視点、両方を意識して研究を進めたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は、2023年度の口頭発表での成果に加筆修正をした上で、論文としての刊行を目指す。2023年度に進めた研究は、本研究課題の軸となる、キリシタン語学に於ける語彙、特に漢語語彙の階層性を明らかにするものであり、論文化を急ぎ進めていきたい。 一方で、その漢語語彙の階層性が、ひとりキリシタン語学のみに見られるものではなく、中世日本語全体の中でも、延いては、日本語史全体の中にも存在し得るものであり、より幅広い日本語資料の調査も進めていく必要があると考えている。2023年度も、中世日本辞書の代表である古本節用集類との対照調査は行ったが、それだけではなく、例えば、中世の代表的日本語資料である、能楽資料や抄物資料も、検討する必要があるだろう。能楽資料は、当時の話し言葉との関係があり、抄物資料は、講義の中で行われた釈義や説明が記載されているノートであるため、両資料ともに、当時の話し言葉に於ける語彙、難易で言えば、「易」に該当する語彙が現れていると考えられる。ここに使用されている漢語と、「和らげ」など、キリシタン語学の中で説明に用いられている漢語とがどれだけ共通し、また異なるのか、調査を行いたい。これにより、本研究は、キリシタン語学だけの研究ではなく、中世語彙全体に関わる、より広がりのある研究としての意義も持ち得る。 また、ミクロな視点としては、2022年度までに特に行っていたような、個別の「和らげ」の見出し語の選出方法や語釈形式の問題についても、調査を進めていきたい。全文データを網羅的に扱った時には見えてこない、「和らげ」毎の資料の性格や位置づけも、検討する余地がある。この他、「和らげ」の記述だけではなく、それ以外のキリシタン語学辞書類の記述内容の精査・比較対照も行う事で、キリシタン語学に於ける日本語による釈義の特徴、日本語理解についても、明らかにしていく事も必要だと考えている。
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Report
(3 results)
Research Products
(13 results)