Project/Area Number |
21K13251
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Research Category |
Grant-in-Aid for Early-Career Scientists
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
Basic Section 06020:International relations-related
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Research Institution | Kobe University (2022-2023) Waseda University (2021) |
Principal Investigator |
大内 勇也 神戸大学, 法学研究科, 特別研究員(PD) (30775416)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,680,000 (Direct Cost: ¥3,600,000、Indirect Cost: ¥1,080,000)
Fiscal Year 2025: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2022: ¥1,170,000 (Direct Cost: ¥900,000、Indirect Cost: ¥270,000)
Fiscal Year 2021: ¥390,000 (Direct Cost: ¥300,000、Indirect Cost: ¥90,000)
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Keywords | 人権 / チリ / 国際規範 / 国際政治 |
Outline of Research at the Start |
国際政治学においてチリ軍事政権による人権問題は、国際社会による迅速な対応が状況改善を実現した成功例とされる。しかし実際には、17年間にわたる軍事政権の人権侵害はむしろ長期的といえる。なぜ、国際社会の早い反応と国内状況の改善にこのような「時差」があるのだろうか?本研究は、1970年代に国際人権規範が定着化の途上にあったことを踏まえ、国際人権規範の変化とチリ国内の人権政治の連動メカニズムを明らかにする。特に、国連におけるチリの人権問題の位置付け、チリ政府の認識・意思決定、そしてチリ国内の反体制派の認識・行動に着目し、チリの人権状況改善の過程でこれらが互いにどう影響していたのかを明らかにする。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、1973年から1990年まで続いたチリの軍事独裁政権による人権問題を取り上げ、国際社会の早い非難とチリ国内の人権運動活発化と状況改善の「時差」に着目し、その要因解明を目的としている。 本年度はまず、当時の国際人権規範について以下の点を明らかにした。まず、チリの人権問題に対する国連決議は、冷戦下の東西対立に基づく政治的非難として採択され始めた。しかしその政治性ゆえに、チリ問題からより一般的に人権保障の制度化を試みると内政不干渉を重視する多くの国が積極性を失い、人権をめぐる議論は停滞した。それにも関わらずチリに対する決議が繰り返し採択されたことにより人権問題の非難が常態化し、1980年代後半にはチリをも含む多くの国が国連の人権決議採択の正当性を認めるようになっていた。 この発見の意義は、政治的動機づけが国際人権規範発展の契機となったこと、また、国連での人権規範共有が進んだのが1980年代後半であったことを実証的に示した点にある。そして、チリの人権問題をめぐる国際政治の歴史的位置付けに関する再解釈を提示した。 また、チリ国内の人権規範については国際人権規範の受容経緯を解明するため、転換点となる1983年の全国的な反政府デモの発生過程を分析した。そして、チリ国内では国際社会で問題となっていた拷問などの自由権だけでなく、貧困や保健・衛生といった経済・社会的権利が重視されていたことが確認された。この点から、国際的非難と国内人権運動活発化の「時差」を説明する一要因として、経済・社会的権利の要求による動員拡大という解釈が示唆された。 この発見の意義は、当時のチリの主要人権問題を自由権に絞った分析に修正を促す点にある。これまでチリの人権状況は自由権を中心に評価されてきたが、市民は経済・社会的権利も重視しており、この視点を人権運動形成要因の分析に持ち込んだことは重要な進展であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の作業は引き続き、国連における人権規範の変化を明らかにするため、文献資料及び一次資料の収集・分析を進め論文執筆・学会報告を行なった。 一次資料はデジタルアーカイブスで公開されているものを中心にその収集と読解作業を継続した。調査対象機関は総会、経済社会理事会、人権委員会であり、その議事録、決議、報告書を分析した。安全保障理事会資料についても一通りの分析を行ったが、チリの人権問題をめぐる議論はあまり確認されなかった。 膨大な資料を消化する必要があったため進捗状況は予定よりもやや遅れているが、当初の予測に沿った形で国連における人権規範の変化を確認できた。この分析結果は論文としてまとめ日本国際政治学会で「国連における人権規範の変容―ピノチェト体制下のチリを事例に」として報告し、現在は学術誌に投稿・発表するための修正作業を進めている。 また、チリ国内の人権に対する認識の分析については主に文献調査を行った。文献調査ではチリの人権運動、反体制運動、チリの経済・社会状況に関する研究を中心に整理した。本年度の後半からは米国スタンフォード大学において在外研究を行なっており、日本では入所困難な所蔵資料へのアクセスが可能となった。とりわけ、人権運動に関する同時代のスペイン語文献を多く所蔵していることからそれらの収集分析に多くの時間を割いた。特に主要人権NGOを創設したカトリック教会の影響力の大きさから、カトリックにおける人権思想や教会とチリ国家の関係についても調査・分析を進めている。また、人権運動の主要な担い手であった貧困層の組織化の分析により、自由権中心の人権運動の解釈から経済・社会的権利に着目した分析へと射程を広げる必要が生じたことから、新たな文献調査等により作業が予定よりもやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進についてはまず、国連におけるチリの人権問題と国際人権規範の発展に関する論文をまとめその成果を学術誌に投稿・発表する。 その上で今後は、チリ国内の調査・分析を中心に作業を進める。第一に、チリ国内社会の国際人権に対する認識の分析をさらに深める。ここまでの分析で、チリの人権運動が1980年代以降に拡大した契機として、経済・社会的権利という問題認識の重要性が示唆されている。したがって、今後はその認識変化の具体的な経緯とその影響の解明を目指す。特に、カトリック教会による貧困地域の組織化と人権教育に着目し、当時のチリの人権運動の形成過程を解明する。そのために文献調査に加え、現地での一次資料調査を行う。特にカトリック教会が創設した当時の主要人権NGOであるビカリアの活動に焦点を当て、サンティアゴにあるビカリアのアーカイブスを主な調査対象地とする。ビカリアは当時の活動記録だけでなく人権問題に関するメディア記事も膨大に収集保存していることから、人権問題に対する認識が自由権から経済・社会的権利へと拡張していく過程を実証的に示す十分な材料が入手できると考えられる。 第二に、当初の軍事政権の支持勢力の人権問題に対する認識変化を解明するため、中小企業や中間層の姿勢について文献調査を開始する。左派のアジェンデ前政権が企業国有化などの社会主義政策を進めたため、企業や中間層は当初軍事クーデタを支持した。そして、軍事政権による新自由主義的経済政策により経済成長したことでその支持を継続していた。しかし1982年の経済危機で多くの企業が破綻し中間層の生活状況も悪化したため、経済・社会的権利を重視した人権の要求に加わっていき、人権運動の拡大要因の一つとなったと考えられる。このような、チリの企業や中間層における人権規範の退行・回帰過程の実態、そしてその要因解明のための調査を開始する。
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