ナッジの有効性の再検討:個人の情報処理スタイルや社会環境に着目して
Project/Area Number |
21K20283
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
0110:Psychology and related fields
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岩谷 舟真 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 助教 (20910706)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2024-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
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Budget Amount *help |
¥2,470,000 (Direct Cost: ¥1,900,000、Indirect Cost: ¥570,000)
Fiscal Year 2022: ¥1,170,000 (Direct Cost: ¥900,000、Indirect Cost: ¥270,000)
Fiscal Year 2021: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
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Keywords | ナッジ / 社会規範 / 評判 / デフォルト / 記述的規範 / ヒューリスティック / システマティック |
Outline of Research at the Start |
ナッジとは意思決定者がどの行動を行うかを選ぶ自由を担保しつつ、人々の行動を変える取り組みのことを言う。ナッジの1つに社会規範を呈示するという手法があり、納税や節電を促すなどの効果をあげてきた。一方、多数派の行動をとるほど利得が下がる場面でのナッジの有効性は十分に検討されていない。この場合、社会規範の呈示が却ってその行動を抑制しうる。本研究は個人の認知スタイルに着目し、個人の認知スタイルによって社会規範呈示の効果が変わる可能性を検討する。加えて、「自分(他者)を守るために行動をしよう」など自己・他者に目を向けさせるナッジの有効性が、社会環境の対人的流動性によって異なる可能性も検討する。
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Outline of Annual Research Achievements |
2つの観点で検討を行った。第1に、社会規範ナッジについての再検討を行った。社会規範ナッジとは、多くの人がある行動をとっているという情報を提示することで、人々にその行動を促すという手法である。本年度の研究では、感染予防行動に着目し、「多くの人が外出を行っている」という情報の提示が、人々の外出行動を促すのかどうかを検討した。社会規範ナッジの観点からは、多数が外出しているという情報を示されると、人々の外出意図は高まると考えられる。一方、感染リスクの観点からは、多数が外出しているという情報を示されると、却って人々の外出意図は下がると考えられる。実験の結果、(1)外出する者が多いという情報が提示されると、却って人々の外出意図が下がることが明らかになった。さらに追加分析の結果、(2)「感染予防行動をとらないと他者からの評判が下がる」という評判予測が人々の感染予防行動を促していること、(3)その効果はワクチンを接種していない者においてより顕著であることが分かった。 第2に、デフォルトナッジについての再検討を行った。デフォルトナッジとは初期設定の選択肢を変更することで人々の意思決定を変える取り組みであり、例えば「申込む」を初期設定とすることで申込率を高めることができる。本年は意思決定者の選好と実際に行った意思決定の一貫性に着目し、(4)意思決定にかける時間が短い者ほど本来の選好と一貫しない意思決定を行っていること、(5)その関連は「申込む」を初期設定とした選択アーキテクチャで顕著に見られることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ナッジの有効性、個人の情報処理のそれぞれの観点から興味深い結果が示されたと考えている。第1に、ナッジの有効性について、感染予防行動に関しては「他者が外出していない」という情報の提示が却って人々の外出意図を高めかねないという結果が得られた(1)。このことは感染予防行動を促進する局面において、社会規範ナッジの活用には慎重にならなければならないことを示しており現実的な意義を持つ内容である。また当初の計画以外の知見として、「感染予防行動をとらないと他者からの評判が下がる」という評判予測が人々の感染予防行動を促していること(2)、その効果はワクチンを接種していない者においてより顕著であること(3)が分かった。これらの結果は、現在学術論文として投稿準備中である。 第2に、個人の情報処理について、意思決定にかける時間が短い者ほど本来の選好と一貫しない意思決定が下されるということが分かった(4)。ナッジは意思決定者の選択の自由を担保するという点で従来のパターナリスティックな介入と異なっているので、選好と意思決定の一貫性は重要な論点である。選好と意思決定の一貫性が人々の意思決定にかける時間によって調整されることを示した本研究の結果は、今後のナッジの倫理的問題を検討する礎になると考えており、現在学術論文として投稿中である。 以上の通り、社会規範ナッジの有効性(1)、他者に目を向けさせるナッジの有効性(2・3)、情報処理スタイルとナッジの効果の関連(4)についてのそれぞれについて知見を得ることができたため、概ね順調に進呈していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
他者に目を向けさせるナッジの有効性について、「感染予防行動をとらないと他者からの評判が下がる」という評判予測の効果がワクチン接種者とワクチン未接種者とで異なるという結果が得られたが、両者を分かつ要因についてさらに検討を行う必要があると考えている。別途行った調査により、感染に伴うリスクの認知が評判予測の効果の強さを調整することが示されており、今後はその知見の頑健性について検討する必要がある。 情報処理スタイルとナッジの効果の関連について、本研究では意思決定にかける時間を測定するにとどまっており、情報処理スタイルを直接測定するには至っていない。例えばCognitive Reflection Test(Frederick, 2005)を通じて人々の情報処理スタイルを測定した上で、本来の選好とデフォルトナッジのもとでの意思決定の一貫性について検討するという方向が考えられる。
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Report
(2 results)
Research Products
(1 results)