Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
本年度はボトムアップ入力された音の音響パターン抽出処理機構の解明のために、母語音声獲得期の乳児の聴性誘発電位(AEP)を測定した。刺激音は3種の音(女性の発する/i/、ピアノ音、スペクトル包絡が母音と同じ-6dB/octの傾きをもつ合成音)とし、音色を決める静的要因であるスペクトル包絡のみが異なるように音の高さ、長さ、音圧などの音響要因を調整した。被験者である乳児にこれらの刺激音を順不同に提示した時の脳波を測定した。計測部位はFz、F3、F4、Cz、C3、C4、Pz、P3、P4、T5、T6及び眼電図2チャネルの計13か所とし、各刺激音についてアーチファクトのない反応が30回以上得られた被験者について、乳児の代表的なAEPであるP150、N250、P350、N450の潜時及び振幅に対し解析を行った。解析の結果、10ヶ月児ではP150、N250の潜時には音色ごとの差は見られなかったが、P350、N450の潜時は声、楽器音、合成音の順で短くなった。振幅は左半球上のチャネルでは声に対する振幅が、右半球上のチャネルではそれ以外の音に対する振幅が大きくなる傾向が見られ、この傾向は特に側頭部のチャネルで大きく見られた。以上より、生後10ヶ月で既にボトムアップ入力された音の音響パターン抽出はスペクトル包絡の形を基にして行われておりAEPの中でも後期成分であるP350、N450の挙動に反映されること、声とそれ以外での半球有意性はイントネーションなどの韻律をもたない単音の短時間の刺激提示でも生じることが示唆された。