Research Abstract |
イソコモリグモの生息環境である砂浜海岸は,河川からの土砂の供給量の低下や護岸工事によって急速に失われつつある.イソコモリグモに大きな分散能力が備わっていれば,砂浜環境を復元すればその生息を復活させることができるだろうが,そうでなければいったん失われてしまえば砂浜を復活させてもイソコモリグモは復活できない.イソコモリグモの移動分散能力の大小を推定するため,本州および北海道の44箇所の砂浜海岸より採集した677個体を材料として,COI遺伝子による集団構造の解析を行った.検出された44のハプロタイプは,大きく6つの系統に別れ,それぞれの系統ごとにまとまった分布域を示した.また,ハプロタイプの構成比が同じ海岸の組み合わせは非常に少なく,44ヶ所の海岸のうち26ヶ所では固有のハプロタイプが発見されるなど,イソコモリグモ集団は生息する海岸ごとに集団が分化していることが示された.このことは,イソコモリグモの移動分散能力の低さを示しており,現在の生息地の砂浜環境を保つことが本種の保全上重要であることが明らかになった.先行研究で指摘されていたイソコモリグモ集団内に見られる外雌器(雌の外部生殖器)の形態差異について,種内変異なのか種間の違いなのかについて,多数の材料を用いて比較検討した.その結果,この形態の差と系統の間には関連がなく,さらには左右非対称に双方の特徴を併せ持つ個体も見つかったことから,個体変異であると結論した.
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