Research Abstract |
現在の抗がん標準治療は臨床試験のエビデンスに基づいているものの、患者個々人に関して見た場合、その治療法が真に最適化されたものになっているとは言えない。塩酸イリノテカン(CPT-11)はカーバメート型のプロドラッグであり、主として肝臓や小腸に存在するカルボキシエステラーゼ(CES2)によって切断・活性化され、活性代謝物であるSN-38へと変換される。SN-38はさらに、グルクロン酸転移酵素(UGT)によってグルクロン酸抱合体(SN-38G)へと代謝されて解毒を受ける。そのため、この解毒経路を主に担う酵素であるUGT1A1の遺伝子多型に着目した研究が行われてきた。その結果、UGT1A1プロモーター領域の多型であるUGT1A1*28、またエキソン1の多型であるUGT1A1*6とUGT1A1*27を有する患者においては、SN-38の解毒能力が低下していることが明らかにされ、これらの遺伝子多型を判定するための体外診断薬が上市されている。一方で、SN-38の血漿中濃度を決定する要因としては、CPT-11からCES2による切断活性化によって生じる速度も関与するため、CES2の活性個人差が重要な役割を果たしている可能性も想定され、塩酸イリノテカンの、より安全な個別化医療の実施には、直接血漿中SN-38濃度を測定する方が適切である可能性も考えられた。そこで、東京大学医学部附属病院において、転移再発結腸・直腸癌に対してFOLFIRI療法を受けている患者を対象として、血中濃度モニタリングを副作用回避の指標とし得るかを検証することを目標に検討を開始した。LC-MS/MSによってCPT-11,SN-38およびその代謝物であるSN-38G、また、CYP代謝によって生成する不活性代謝物であるAPCおよびNPCの血漿中濃度を、一斉定量する手法を確立した。またこれまでの東大病院での検討も含めて、投与後2時間後のSN-38血漿中濃度を基準とした場合は、25ng/mLを境界として高い群では副作用が強い傾向にあると考えられる。APCやNPCなどの不活性代謝物が副作用に関連する傾向は見出されていない。今後、より症例を集積して検討を進めたい。
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