Research Abstract |
【目的】スフィンゴシン1-リン酸(Sph-1-P)は,多彩な細胞応答を発揮する脂質メディエーターであり,血中のSph-1-Pの動態や,Sph-1-P代謝に関わる各種物質の濃度を明らかにすることは,臨床(病態)生理学的に貴重な情報を得ることが示唆される.われわれは,健常者における血漿中のSph-1-P濃度の測定法を確立し,健常者中には386.8±55.5nmol/L(平均±S.D.)含まれること,男性で有意に高値であること,赤血球の数と相関があることを報告した(Annals of clinical biochemistry 45:356-363, 2008).本研究の目的はスフィンゴ脂質代謝産物のさらなる解析にあり,健常人や各種疾患患者などのSph-1-PやSph-1-P関連代謝産物として知られているスフィンゴミエリン(SM)やリゾホスファチジン酸(LPA),関連酵素であるリゾホスフォリパーゼD(lysoPLD)活性,オートタキシン(ATX)抗原量などを網羅的に解析し,将来の臨床検査へ応用可能とするべく研究をおこなった. 【方法】東京大学大学院医学系研究科・医学部倫理委員会で承認を受けた計画に基づき,健常者,慢性肝疾患患者の血漿・血清中のスフィンゴ脂質関連代謝産物を測定し解析した.また動脈硬化モデルマウスのSph-1-P受容体(S1P2)をノックアウトし,血中のSph-1-P測定をおこない,動脈硬化とSph-1-Pおよびその受容体の関連を解析した.(Sph-1-Pの測定)OPAプレカラム誘導体化HPLC法(Annal. Clin. Biochem. 45:356-363, 2008)にて測定した.(LPA, SMの測定)汎用の自動分析装置を用いて,酵素法によりLPA (Clin. Chim. Acta 333:59-67, 2003)およびSM(未発表)の測定をおこなった.(LysoPLD活性およびATX抗原量の測定)LysoPLD活性は比色法(Clin. Biochem. 40:274-277, 2007),ATX抗原量はイムノアッセイ法(Clin. Chim. Acta 388:51-8, 2008)により測定した. 【結果】慢性C型肝炎と診断された肝疾患患者(n=15)の血漿中Sph-1-P濃度を測定したところ,280.3±29.6nMと健常者に比べて有意に低値を示した(p<0.001).さらに,血漿中Sph-1-P濃度は,肝繊維化マーカーとして知られるヒアルロン酸と有意な負の相関を示した(p<0.001).(Clin. Chim. Acta 411:765-770, 2010).また,S1P2が動脈硬化症におけるマクロファージの炎症促進反応に関与していることを示した(J. Clin. Invest. 120:3979-3995, 2010).
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