Social Ethics of Caring for Memories: in terms of decentration and disaggregation starting at HIROSHIMA
Project/Area Number |
22K00040
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 01010:Philosophy and ethics-related
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
川本 隆史 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 名誉教授 (40137758)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,160,000 (Direct Cost: ¥3,200,000、Indirect Cost: ¥960,000)
Fiscal Year 2025: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2024: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2023: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2022: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
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Keywords | 記憶 / ケア / 社会倫理学 / 脱中心化 / 脱集計化 / 記憶のケア |
Outline of Research at the Start |
本研究は、《正義vsケア》の論争を追跡してきた年来の研究成果に立脚して《記憶のケア》の社会倫理学の錬成を企図している。 研究代表者は、「記憶」を〝生き物〟のように見立て、これを世話する営みを「記憶のケア」と名づけ、被爆地・広島の「記憶」へとつとに適用しようとしてきた。 被爆にまつわる辛い記憶であればあるほど、固定観念へと凝固して当事者を呪縛し、ステレオタイプの証言や沈黙を強いる傾向を免れない。そうした記憶の修復を図るところに「記憶のケア」の眼目がある。 《脱中心化》と《脱集計化》の新機軸を活用して、《記憶のケア》を社会のあり方を見直す規範的原理へと鍛え上げるのが、本研究の根本目標である。
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Outline of Annual Research Achievements |
本プロジェクトは、《正義vsケア》の論争を追跡してきた年来の研究成果に立脚して《記憶のケア》の社会倫理学の錬成を企図するものである。 研究代表者は、「記憶」を無機質の情報ではなく〝生き物〟のように見立て、これを世話し手入れする営みを「記憶のケア」と名づけ、被爆地・広島の「記憶」に適用しようとしてきた。被爆にまつわる辛い記憶であればあるほど、固定観念へと凝り固まって当事者を呪縛し、ステレオタイプの証言や沈黙を強いる傾向を免れない。そうした記憶の修復を図るところにこのケアの眼目がある。《記憶のケア》を社会のあり方を見直す規範的原理へと鍛え上げるに際して、①当事者や現場を中心から《ずらし、ひろげる》=《脱中心化》および②ひと括りにされた量や概念を《ほぐし、ばらす》=《脱集計化》という二つの新機軸を活用していきたい。 交付期間2年目の研究実績の筆頭には、日本倫理学会第74回大会の共通課題《ケア》の総合司会を務め、その総括を同学会『年報』73集に寄せたことを挙げねばならないだろう。次いで「ケア」と「不正義」をめぐる出版動向のサーベイ(『神奈川大学評論』104号所収)の執筆を通じて、「ケアの倫理」の核心をなす「不正義への抵抗」というモチヴェーションを取り出すことができた。なお「ケアの倫理」を首唱したキャロル・ギリガンの名著『もうひとつの声で』の共訳(初刷2022年10月21日)がこの間も読者の輪を順調に広げており、2023年9月23日には第6刷を重ねるにいたっている。増刷のたびに関係各方面から賜ったご意見を訳文に反映する作業も怠っていない。また「記憶のケア」に関わる複数の論考も、この期間中に公表している(『現代思想』2023年5月臨時増刊号および2024年3月臨時増刊号ほか)。 以上に列記した実績をもって、3年目となる次年度以降の研究推進の態勢がしっかり固まったものと総括できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の「概要」で言及したように、ギリガンの『もうひとつの声で』の共訳(2022年10月刊行)が幅広い層の読者を勝ち得たことが、本研究プロジェクトをバックアップし続けてくれた。その一つの集約点ともなったのが、「倫理思想史的な視野」および「実践的な視角」から《ケア》を捉え返そうと企図した2023年10月の日本倫理学会の共通課題である。司会者の私は、ギリガンの「ケアの倫理」の源流がヘブライズムにさかのぼれることやその実践的含意が「世代継承性」(エリクソン)の組み換えにまでつながることに注目を促した。 さらに『もうひとつの声で』の29年後に刊行された『抵抗への参加』(邦訳2023年9月)を手がかりに、著者が「ケアの倫理」の強調点を「苦しみの緩和」から「不正義への抵抗」へと急進化している姿勢をクローズアップするとともに、「ケアの倫理」の言葉遣いだけを流用・消費するような「ケア・ブーム」の到来に強い警戒感を表明するに及んでいる。私の危惧は『毎日新聞』2024年3月11日夕刊文化面の記事にも取り上げられた。 また倫理学者・鷲田清一氏や社会学者・立岩真也氏との交流を振り返るエッセイをにおいて、《記憶のケア》の手法を自覚的に用いている。なお研究成果としてはカウントできぬものだが、『朝日新聞』2023年11月22日朝刊オピニオン&フォーラム面に私に対するロング・インタビューが掲載された(「原爆投下なぜ不正か」)。ロールズの原爆攻撃不正論証(『ディセント』1995年夏号)の意義を解説した記事ながら、本プロジェクトとも密接な関連を有する主張を含んでおり、小さからぬ反響を巻き起こしている。 以上に列記した二年目の研究成果および関連動向を勘案するならば、「おおむね順調に進展している」とじゅうぶん評価し得るだろう。そして折り返し点となる三年目以降の研究の強固な基盤が整備されたと確信している。
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Strategy for Future Research Activity |
申請時に掲げた以下の三つのアプローチを活用して、本研究の実施・点検・整備を繰り返す所存である。 1.【「証言活動」や「被爆体験の継承」を実践する各種現場の実態調査】――複数の研究機関を定点観測の拠点に定め、定期的に調査出張を続ける傍ら、以前交付された科学研究費のプロジェクトとの連続性を図るべく、初等・中等教育の現場において「被爆証言」や「戦争体験」がどのように学ばれているのかも実地検分していく。 2.【「記憶のケアの社会倫理学」に関連する文献の収集と読解】――人文学のプロジェクトである以上、あくまでも文献研究が主軸となる。「世界という大きな書物」(デカルト)を読み解くことを怠ってはならないが、「この世界の片隅で」(山代巴が1965年に編んだ論集のタイトル)で語られ、綴られている小さな声や手記の細部にまで、耳を澄まし目を凝らす基本姿勢を保持したい。 3.【国内の研究機関・研究協力者との連携】――本研究は研究代表者の個人研究として遂行される。とは言え新奇性に富んだ「記憶のケアの社会倫理学」を主題とするため、代表者独りの力のみでは目標を達成し得るものではなく、隣接分野の研究者や実践家の助力を仰がねばならない。その際、これまで築き上げてきた人的ネットワークが当座の頼りとなるが、本研究を通じて新たなつながりが創出されることも期待している。
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Report
(2 results)
Research Products
(22 results)