Project/Area Number |
22K00042
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 01010:Philosophy and ethics-related
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
御子柴 善之 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (20339625)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,030,000 (Direct Cost: ¥3,100,000、Indirect Cost: ¥930,000)
Fiscal Year 2025: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,170,000 (Direct Cost: ¥900,000、Indirect Cost: ¥270,000)
Fiscal Year 2023: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2022: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
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Keywords | 実践 / カント / 倫理学 / 道徳性 / 義務論 |
Outline of Research at the Start |
本研究では、「実践とはなにか」という問いを探究し、「道徳性」が人間の実践的態度に内在してのみ見いだすことができることを明らかにする。従来、「実践」概念は、さまざまな他の概念と対比して多様に論じられてきた。そこで、広く従来の哲学的言説を批判的に検討することで、そもそも「実践」という態度でなにが理解されるべきかを明らかにする。その際の方法は、近代哲学、特にカント実践哲学に定位することである。これによって、「実践」を意識のことがらから区別する現代的動向に対して、まさに〈意識のことがら〉としての「実践」の回復を試みる。さらに、それを地球環境問題における未来世代に対する倫理に適用する。
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Outline of Annual Research Achievements |
本年度の主要な実績は、海外研究発表、論文執筆、倫理学書、環境倫理学に関する書籍の翻訳、研究会実施の刊行に代表される。第一に、研究代表者が、ドイツ連邦共和国で開催されたDeutsch-japanischer Dialog in der praktischen Philosophieにおいて研究発表を行った。この研究発表に基づいて、論文「カントと常備軍論争」を発表した。第二に、研究代表者が『カント 実践理性批判』(角川選書)を刊行した。同書は、「実践」をテーマにする本研究にとって中心的な成果である。第三に、ドイツ語の環境倫理学書を邦訳する作業を遂行した。この翻訳は、すでに2022年度に準備が開始されていたが、本年度はさらに正確さを期した検討を行った。第四に、大学院生4名をリサーチアシスタントとして雇用し、研究組織を形成した。これらのアシスタントとともに、2022年度から「実践」哲学研究会を組織し、各学期1回の研究会を開催している。2023年8月1日に2023年度第1回「実践」哲学研究会を開催した。発表者と発表題目は以下のとおりである。渡辺浩太「スポーツ実践における善と違反の問題」、逢坂暁乃「自殺への抵抗:ボンヘッファー神学と実践」、山下航「世界市民の実践―外的立法の観点からみたカントの永遠平和構想」。また、2024年2月5日に第2回「実践」哲学研究会を開催した。発表者と発表題目は以下のとおりである。山下航「難民の権利―カントの法/権利論を手がかりとして―」、逢坂暁乃「罪の引き受けと実践-ボンヘッファー『倫理』を手がかりとして―」、渡辺浩太「道徳的実践としてのスポーツ倫理」、道下拓哉「〈理論と実践〉とはいかなる区別か:『判断力批判』「第一序論」を手がかりに」。いずれも、哲学・倫理学における「実践」概念を検討するものであり、当該概念の多面性を明らかにすることに寄与するものだった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の2023年度における進捗状況は、たいへん良好であると言うことができる。リサーチアシスタントの研究成果を研究会で2回発表できたこと、また、本研究の中心概念である「実践」に直接的にかかわる『カント 実践理性批判』を刊行できたこと、さらに、本研究の最終段階で検討されるべき環境倫理の実践という問題を目がけて、翻訳作業を実現できたことが有意義である。 リサーチアシスタントたちは、それぞれの専門分野との関係において「実践」概念を検討し、その彼方に「道徳性」概念を復権させることを企図している。それぞれの内容は、カント平和論からスポーツ倫理にまで広がっているが、いずれも「道徳性」概念に肉薄するものである。これらの研究から見えてきた「実践」概念は、それが非理想的状況に定位しつつも、それでも理想的に思考されるものである。 研究代表者が刊行した『カント 実践理性批判』は、カントの著作『実践理性批判』の解説書であり、コメンタリーとしての性格をも併せ持つ。同書にかんする著作は世界的に見ても希少であり、多くの読者に歓迎されている。カントの同書は「純粋理性の実践的使用」を批判的に取り出すことを企図したものだが、それが実現することが道徳性を実現することであることから、同書は本研究の核心に位置づくものである。 さらに、「実践」概念を環境倫理学に適用するための準備として、ドイツの環境倫理学書の翻訳作業を遂行できた。同書については、すでに刊行を引き受ける出版社を見つけ、翻訳権を取得している。ただし、すでに全体の下訳は終えているが、2023年度に行った訳文の再検討に思いの他、時間を要し、2024年度に予定していた刊行を翌年度に延期することが必要になった。しかし、同書の重要性を鑑みるとき、不十分な訳書として刊行することは、けっして望ましくない。この際、十分な時間をかけて、訳書を完成へと導くことが必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、今後の推進方針として三つの柱を据えている。 第一に、2024年度もリサーチアシスタント3名を雇用し、研究組織を形成・維持する。また、リサーチアシスタントを中心に同年度以降も毎学期1回、「実践」哲学研究会を開催し、さまざまな倫理学的分野における「実践」概念や「道徳性」概念を彫琢していく。さらに、リサーチアシスタントには、下の第三の課題において、訳文の彫琢に参加してもらう。今年度は、特にこの作業に多くの時間を割くことになるだろう。 第二に、2024年度には、研究代表者がカントの歴史哲学的な諸論考を検討し、その理解を深める。「実践」のことがらは、「理論」のそれと異なり、歴史と不可分だからである。まず、カントの啓蒙思想について検討し、それを9月にドイツ連邦共和国で開催される国際カント学会で発表する(招待講演)。次に、カントの平和論を再検討し、その成果を11月に東北大学で開催される日本カント協会第49回大会で発表する(基調講演)。いずれの研究においても、「道徳性」概念が裏面のキーワードになる。というのは、啓蒙も平和も、それ自体が道徳性を実現するものではなく、それを準備するものだからである。 第三に、2022年度に開始したドイツの環境倫理学書の翻訳作業を継続する。すでに下訳とも言うべき訳文はほぼ出来上がっており、研究代表者による訳文検討も大部分終了している。今年度は、それをさらに磨いて、日本語として問題なく読めるものに改善する。この著作の邦題は、『未来世代への負債を問う』(仮題)とする。この訳書は、環境倫理において、未来世代に向けた「実践」の議論における倫理学的根拠づけを、包括的な観点から行ったものとして、SDGsが語られる今日、多くの関心を集めるはずである。すでに、2025年度に出版することを出版社とも合意している。
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