Project/Area Number |
22K00137
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 01050:Aesthetics and art studies-related
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Research Institution | Shokei University |
Principal Investigator |
畠山 真一 尚絅大学, 現代文化学部, 教授 (20361587)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
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Budget Amount *help |
¥1,950,000 (Direct Cost: ¥1,500,000、Indirect Cost: ¥450,000)
Fiscal Year 2024: ¥390,000 (Direct Cost: ¥300,000、Indirect Cost: ¥90,000)
Fiscal Year 2023: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
Fiscal Year 2022: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
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Keywords | 戦前物語マンガ / 初期映画 / スラップスティック / 古典的ハリウッド映画 / マンガのコマ割り / コンティニュイティ |
Outline of Research at the Start |
本研究は、古典的ハリウッド映画分析で用いられている理論的道具立てを用いて、1930年から1941年の期間に出版された戦前子ども向け物語マンガ (たとえば、『スピード太郎』や『のらくろ』シリーズなど。以後戦前子ども向け物語マンガと呼ぶ) に用いられているコマ割り技法を調査し、手塚作品に代表される戦後子ども向け物語マンガで用いられているコマ割り技法と、どのような差異があるかを明らかにすることを目的としている。調査・分析は、戦前子ども向け物語マンガおよび戦前の映画雑誌・映画論書籍にあたることによって、すすめていくことを予定している。
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Outline of Annual Research Achievements |
初年度については,田河水泡作品である『目玉のチビちゃん』と『のらくろ』(雑誌連載版および書籍収録版の両方) を映画技法の観点から調査・分析をおこなった。 『目玉のチビちゃん』については,冒頭のタイトルに「目玉のチビちゃん出演」といった映画のオープニング・タイトルを模した部分があるものの,1915年代までに完成されていた古典的ハリウッド映画で用いられていた映画技法を漫画に取り込んだものは,いくつかの例外を除けば,ほぼ見いだすことができず,いわゆる「初期映画」的な技法に対応する技法が使用されていた。また,視点を固定したままではあるものの,複数コマを用いて映画で言うところの1シーンを描写する箇所を見出すことができ,呉智英の言う1コマ=1シーンという一般化がこの時点ですでに崩れていることが確認できた。 『のらくろ』についても同様であり,カメラの運動をマンガ的に実現したコマ割りが散見されるものの,『目玉のチビちゃん』と同様にほとんど1915年以前の映画技法を想定することで説明可能であることが明らかになった。また,明らかに空間的なコンティニュイティが見られないコマ割りも観察でき,この意味でも初期映画的である。 さらに,1920年代における日本の映画受容状況を調査していくなかで,1929年に連載開始された『目玉のチビちゃん』,1931年に連載開始された『のらくろ』に古典的ハリウッド映画の技法がほとんど見られないことは,1920年代における日本の児童の映画体験およびアメリカ・アニメーション作品を経由してのスラップスティック作品からの影響が重要であったという暫定的な分析結果を得た。現在,この分析結果のとりまとめを報告すべく,論文を作成している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は,『のらくろ』を中心とする田河水泡作品を古典的ハリウッド映画研究の観点から分析するという目標であり,この目標については概ね達成することができた。 戦前の『のらくろ』作品については,全作品を古典的ハリウッド映画研究の視座から分析し,加えて,それ以前に発表された田河水泡作品の多く (『目玉のチビちゃん』など) の一次資料にあたり,同様の分析をおこなった。その結果,基本的に田河水泡作品はいわゆる「初期映画」的な映画技法を用いて,物語を展開していることが明らかになった。 さらに,1920年代から1930年代の日本における子どもの映画受容のあり方についても,ある程度の一次資料にあたることができ,少なくとも映画観客の20%以上がいわゆる「小人」であり,映画が子どもにとっての一次的な娯楽であったことを確認することができた。 これらの調査に基づき,田河水泡作品については,1920年代に日本に流入してきたアメリカ・アニメーション作品の技法やスラップスティック短編映画および1910年代から1920年代初頭にかけて成立したチャンバラ映画の技法などの影響が見られるのではないか,という暫定的な仮説を得た。 さらに,『のらくろ』における視覚的な語りに対し言語的な語り (「ふきだし」に記されるセリフ) の優越については,立川文庫から続く『少年倶楽部』の特質が関係しているという分析をおこなった。 これらの成果から,進捗状況としては,「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後については,初年度に得られた分析を学会発表等によって報告することによって,分析手法・分析結果に関するフィードバックを得るとともに,田河水泡作品に対して,次の4点について調査・分析をおこなう予定である: (1) アメリカ初期アニメーション作品の日本における受容; (2) 海外のマンガからの影響関係; (3) 1920年代の日本マンガや芸術運動からの影響関係 (1) については,権田保之助の著作や,『映画教育』や『婦人の友』といった当時の雑誌や新聞記事などに見られる言説を中心に調査をおこなう予定である。さらに,当時上映されていたアニメーション作品のリストを作成し,田河水泡作品への影響の可能性を精査したい。 (2) については,あらたに研究分担者となった三浦知志を中心としたプロジェクトを実施する予定である。とくに,翻訳・翻案マンガからの影響関係を分析し,アニメーション作品以外の影響の可能性について考察する。 (3) については,岡本一平作品および北沢楽天作品に見られる複数コマで物語を語る形式を持つ作品と田河水泡作品の同一性と差異を調査し,この水脈からの影響関係についても精査したい。さらに,1920年代にひとつの潮流をなしていた芸術運動であるダダイズム,未来派,ロシア構成主義との関連性 (田河水泡が参加していた「マヴォ」とのかかわり) についても分析を行うことを計画している。
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