Project/Area Number |
22K00193
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 01060:History of arts-related
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
浦上 雅司 福岡大学, 人文学部, 教授 (60185080)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥3,510,000 (Direct Cost: ¥2,700,000、Indirect Cost: ¥810,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,170,000 (Direct Cost: ¥900,000、Indirect Cost: ¥270,000)
Fiscal Year 2022: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
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Keywords | 17世紀ローマ美術 / 近世美術と市場 / 画家と購買層 / アートワールド / ローマ美術界 / 美術と庶民 / 美術愛好家 / 庶民と美術 |
Outline of Research at the Start |
17世紀初頭から中期にかけて、ローマの美術愛好家たちが、この時期のローマにおけるかつてない絵画の隆盛(室内装飾としての絵画の流行、絵画需要の拡大、絵画市場の成立、多様な画家たちの活動、庶民も巻き込んだ絵画への関心など)にどう反応したのか、彼らの絵画論や美術に関する著作、そして彼らの美術を巡る活動に、そうした新しい状況がどのように反映されているのか、近年、蓄積が進んだ17世紀ローマ美術界に関する社会経済史的研究成果も踏まえつつ再検討する。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究の課題は、17世紀ローマにおける美術愛好家を、経済・社会・文化的な綜合体としての「美術界」に位置づけてその特質を再検討する、というものである。こうしたローマの「美術界」の構成員は、作品の制作者、販売者、仲介業者、購買者、批評家などだが、従来の研究で、この都市における「美術愛好家」として注目されてきたのは、批評家も含めて、もっぱら高位聖職者や裕福な階級の人々だけであった。 だが、16世紀末から17世紀にかけてこの都市では、サン・ピエトロ大聖堂を始めとして多くの聖堂で新しい祭壇画が多数制作され、それらの公開時にはあらゆる社会階層の人々が詰めかけたことが同時代の記録から知られる。絵画が比較的安価な室内装飾品として庶民階級にも普及しつつあった17世紀初頭のローマ「美術界」では、「庶民」もかつて無かったほどの存在感を示し始めていたのだった。 この前提から、令和5年度も,同時代の「美術愛好家」の著作や、「美術界と庶民」を取り上げた様々な時代の文献を読解することを中心として本研究は進められた。本年度は特に、ドイツ語による文献を集中的に検討した。17世紀ローマではリュベンスやバンボッチォなどドイツ語圏の美術家たちも活躍していたためである。 18世紀末の事例だが、ドイツの画家ティッシュバインが、ローマに滞在中、居酒屋で、酔客たちがラファエッロとダヴィッドの画家としての優劣を巡って口論し、喧嘩沙汰になったことを報告しているのは極めて興味深い発見だった。17世紀初頭のローマで新たに公開された祭壇画や壁画を見た庶民が、自分なりに、それらの作品を審美的に評価していたことが十分に推測されるからである。 またベッチュマンの論考など、関連領域におけるドイツ語圏の美術史研究家の著作を渉猟することによって、当時のローマ「美術界」をより多角的に考察することができたのは大きな収穫だった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和4年度は、年度の最後となる令和5年3月にニューヨークとワシントンで作品調査を行い、具体的な事例によって知見を深めることができた。また、研究実績の概要でも述べたように令和5年度はドイツ語の文献を集中的に調査・研究し、知見を深めることができた。 本研究の契機となった「美術界」の概念は、そもそもドイツの美術史家、批評家Isabelle Grawの著作High Priceから発想したものだが、ドイツ語圏の「美術界」研究を参照することによって、当該時期のローマに留まらないより広い世界を視野に入れつつ本研究の内容を深める可能性を獲得することができた。特にW・Kemp編のDer Betrachter ist im BildやT・FrangenbergのDer Betrachterなど、17世紀初頭のローマ美術界と直接関係する受容美学的研究を参照できたのは大きな成果だった。 令和6年度も、イタリア語や英語に留まらず、ドイツ語の研究論文を多数検討し、より多角的な観点から17世紀初頭のローマにおける美術愛好家の活動を考察する予定である。具体的にはWolfgang Reinhardの16世紀から17世紀にかけてのローマにおけるカトリック教会とローマ社会との関係を社会学的観点から論じた著作や、Oskar Baetschmannによる美術世界と庶民の関係を論じた通史的研究(Das Kunstpublikum)などが、令和6年度、本研究を新たな視点から展開させる契機となる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究者はイタリア美術史を専門としており、本研究においても、同時代のものも含めて、イタリア語の文献や英語の文献を主に研究対象として取り上げてきた。本研究の契機となった「美術界」の概念は米国の美術批評家・哲学者アーサー・ダントーが普及させたこともあって、特に英語圏の研究者たちが多角的に論じてきた。イタリア語圏以上にドイツ語圏では英語圏に次いで多くの刺激的論考が公開されている。 美術愛好家など、美術の生産者ではなく、その受容者に重点を置いて考察する「受容美学」はドイツ、コンスタンツ大学の研究者ヤウス(「挑発としての文学史」)に端を発しており、ドイツ語圏での研究が受容美学研究をリードしてきた。美術史へのその応用でもドイツ語圏の研究は多い(そうした事情は、スヴェトラーナ・オールパースの論考Ut pictura noesisで早くから指摘されていた)。また「美術界」の経済史的研究は、オランダの17世紀美術を対象に、同国のJ. M. Montias やN. de Marchiなどによって始められたものでもあって、ドイツ語圏の研究者たちも速やかにその方法を取り入れていた。 このような研究事情を考慮に入れるとき、17世紀初頭のローマ美術界という個別の事象における「美術界」や「美術愛好家」の位置づけを包括的かつ多角的に検討しようとすれば、ドイツ語文献を渉猟し,検討することは必要不可欠と思われるようになった。ドイツ語圏の「美術界」研究を参照することによって、当該時期のローマだけでなく、より広い世界を視野に入れつつ本研究の内容を深める可能性を獲得できるのである。 令和6年度の研究は、これまで遅れていたドイツ語文献の調査をより本格的に行い、その成果を取り入れることによって、これまで以上に多角的かつ包括的に17世紀初頭のローマにおける美術愛好家の活動を考察する予定である。
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