Project/Area Number |
22K00250
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 01070:Theory of art practice-related
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Research Institution | Akita University of Art |
Principal Investigator |
日野 沙耶 秋田公立美術大学, 美術学部, 助手 (00876245)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥1,430,000 (Direct Cost: ¥1,100,000、Indirect Cost: ¥330,000)
Fiscal Year 2024: ¥260,000 (Direct Cost: ¥200,000、Indirect Cost: ¥60,000)
Fiscal Year 2023: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
Fiscal Year 2022: ¥520,000 (Direct Cost: ¥400,000、Indirect Cost: ¥120,000)
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Keywords | 日本画 / 岩絵具 / 戦後日本画 / 星野眞吾 / パンリアル美術協会 / 人拓 / 絵画表現 / 日本絵画 / 戦後美術 / 現代絵画 / 技法材料 |
Outline of Research at the Start |
日本画は一般的に明治時代に誕生した伝統系の近代絵画を指すが、今日では岩絵具や和紙といった材料により定義づけられる傾向がある。特に岩絵具は、近代以降開発が進み、日本画を象徴するものとして画家に使用されてきた。しかしながら、材料に固執することで却って表現の可能性が狭められているのが現状である。本研究では、岩絵具が近代以前と以降、現代においてどのように使用されているかを、文献や作品実見により明らかにすることで、岩絵具による表現の限界や活用の可能性を考察し、岩絵具を象徴とする今日の日本画を再検討することを目指す。
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Outline of Annual Research Achievements |
令和5年度は戦後日本画から、特に星野眞吾の人拓画における岩絵具の使用法について調査を進めた。「人拓」とは、身体に糊を塗って和紙へ押し付け、そこに粗めの岩絵具を振りかけて作られる人間拓本であり、星野が独自に生み出した手法である。文献および聞き取り調査より、星野は岩絵具の接着に従来日本画で使用されてきた膠ではなく、ビニル糊(ポリビニルアルコール)を使用していたことが明らかとなった。人拓を再現してみると、粗い岩絵具は振りかけるという行為のみで容易に接着でき、色や濃度の変化の自由度も高くなった。また、膠液よりも粘度が高く乾燥速度が遅いため、岩絵具を振りかける作業を時間に余裕を持ちながら行うことが出来た。全身という広範囲に及んだ人拓は、従来の膠液では行えず、ビニル糊であったことで生まれた表現であることが想定される。この結果により、岩絵具を表現意図に応じて使用することが、岩絵具の活用の可能性を広げることに繋がる展望となった。その一方で、人拓画は材料固定による表現の制限も同時に示していた。星野は日本画材料を使用したリアルな描写を追求することを制作の根幹としており、モチーフを写実的な描写で表していたが、粒子径によって色味の異なる岩絵具ではその描写が困難であることを認識しており、岩絵具の不自由性について述べていた。1960年ごろから晩年にかけて制作された人拓画を見ても、粗い岩絵具が使用された人拓箇所は大きな変化は見られず、同じ画面に描かれた細密な写実描写は主に細かい粒子の顔料の絵具で描かれていたことから、岩絵具では写実描写を行うことが困難であり、作家の求める表現を制限したようにも受け取れた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
星野眞吾の人拓画について、実見調査、文献調査、技法再現を行い、岩絵具による表現の限界や可能性について追求した。この結果は論文としてまとめ、学術団体の雑誌へ投稿した。また、技法再現を通し、星野の人拓表現は、岩絵具の不自由性―塗り重ねのしづらさ、自らによる展色剤との練り合わせ―を部分的に解消するものであることも判明した。これを参考にして制作実践および発表を行い、岩絵具の新たな表現可能性を提示することができた。 現代作家の李禹煥の絵画作品における岩絵具の使用法や、作家の言説調査も進めた。言説や作品に関わる文献調査に時間を要し、描画再現実験を行えていない。方法の検討や描画材料の調達は済んでおり、令和6年度に取り掛かる準備はできている。以上から、研究はやや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和6年度は現代絵画、特に李禹煥の岩絵具を使用した絵画作品(《点より》《線より》《風より》《風と共に》《照応》《対話》シリーズ、1970~2010年)について調査を行う。対象作品群は、年代によって構成が変遷するとともに、岩絵具による表現手法や用いられる展色剤が変化している。その変遷・変化の起因について、言説調査および描画再現実験により考察し、岩絵具とその展色剤がもたらす表現効果を追求する。また、作家は作品だけでなくその周囲の空間との関係性についても言及している。本研究では周囲の空間までも含んで作品を捉え直し、その中における岩絵具という素材についても着目する。李禹煥美術館において作品とその展示空間を実際に体感することで、空間における岩絵具の効果を考察する。 令和6年度は本研究の最終年度にあたる。これまでの研究を通して明らかとなった岩絵具の使用法から今日の日本画を再考し、発表資料をまとめていきたい。また、岩絵具の表現効果を活用した制作実践を行い、新たな芸術表現を追求する。
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