Project/Area Number |
22K00360
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 02020:Chinese literature-related
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
星名 宏修 一橋大学, 大学院言語社会研究科, 教授 (00284943)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥1,690,000 (Direct Cost: ¥1,300,000、Indirect Cost: ¥390,000)
Fiscal Year 2024: ¥520,000 (Direct Cost: ¥400,000、Indirect Cost: ¥120,000)
Fiscal Year 2023: ¥520,000 (Direct Cost: ¥400,000、Indirect Cost: ¥120,000)
Fiscal Year 2022: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
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Keywords | 植民地 / ハンセン病 / 台湾 / 楽生院 / 『万寿果』 / 台湾文学 |
Outline of Research at the Start |
植民地台湾のハンセン病文学に関しては、すでに実施した「基盤研究C 18K00347」によって、基本的な理解はできている。しかし北條民雄の作品が台湾の療養所でも読まれていたように、植民地のハンセン病文学はけっして孤立していたのではなく、機関誌の交換や人的な交流によって「内地」の療養所ともリンクしていた。 本研究はその繋がりに着目することによって、台湾のハンセン病文学をより広い枠組みで考察するものである。例えば他の療養所にも呼びかけた「文芸特集」の試みや、ハンセン病に罹患した児童たちの作文など、楽生院以外の療養所のテクストとの比較検討によって、新たな視座を開きたい。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究は日本植民地統治下の台湾で創作されたハンセン病患者の文学創作を論じた「日本植民地期の台湾におけるハンセン病文学に関する基礎的研究」(課題番号18K00347)を基礎として、さらにそれを発展的に研究することを目的としている。具体的には台湾のテクストをそれ単独で扱うのではなく、同時代の「内地」の療養所の動向を視野に入れることで、植民地で創作された作品群を「帝国」規模のハンセン病文学の一環として考えようというものである。 2023年度は、台湾の療養所である楽生院で刊行されていた雑誌『万寿果』の分析をさらに進め、そこに収録された児童の作品群を検討した。その成果は土曜美術社が刊行している『詩と思想』の特集「ハンセン病と詩文芸」に「台湾・楽生院の児童詩を読む」として発表した。植民地の療養所に入所していた藩本、川崎静、陳揺金、田中正夫らの日本・台湾人児童が創作した詩や短歌、作文は、「内地」のテクストのみを対象としていた従来のハンセン病文学研究からは完全に欠落していたものである。 また11月には台湾の成功大学に招聘され、「閲讀《萬壽果》 日治時期的台灣漢生病文學」という講演を行った。これまでは植民地台湾のハンセン病文学を「台湾文学」あるいは「ハンセン病文学研究」という範疇のなかで進めてきたが、今回の招聘者が医学史の研究者であったこと、コメンテーターも台湾医療社会学の研究者であり、参加者の多くもそうした領域の研究者であった。これまで接点のなかった領域の研究者との議論だったことは、本研究課題の今後の進展にとって非常に有意義なものとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の初年度となる2022年度は、コロナ禍のために日本各地の療養所への資料収集が不可能となった。2023年度はコロナが五類となったが、高齢の入所者への配慮から各療養所に付設されている資料館の利用を制限しているところも残されている。 そうした状況に鑑み、本年度は国立ハンセン病資料館に積極的に足を運ぶことで資料調査に力を入れた。具体的には「研究概要の実績」に挙げた「台湾・楽生院の児童詩を読む」を執筆するために、同時代の日本「内」地の療養所における児童文学の状況の把握につとめた。 また台湾・成功大学での講演のために、植民地期の台湾におけるハンセン病政策と楽生院の成立について、そこで刊行された機関誌『万寿果』と、掲載された主な作品について中国語による発表資料を作成した。今回の講演内容は公刊されていないが、研究成果を対外的に公開していくうえで、重要な過程になったと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究も台湾での文学活動を中心としながらも、それを相対化するために、日本内地の全生病院や長島愛生園の入所患者で、『万寿果』の文芸特輯号に関わった書き手の創作に着目する。 まずは文芸特輯号で創作部門の一等を獲得した林八郎(三井平吉)が残した膨大な作品群を収集し、詩や小説を論じる。今村冬三は古典的な研究書となった『幻影解「大東亜戦争」―戦争に向き合わされた詩人たち』のなかで、「大東亜戦争期」の詩を「戦争詩」と「愛国詩」に区分した。この区分によると、戦時期のハンセン病療養所で創作されたのは「愛国詩」となる。戦意高揚とハンセン病者の戦争参加を熱烈に謳った林八郎の戦争詩にはどのような特徴が見られるのか、その独自性は何であるのかを検討する。 また全生病院の『山桜』の編集にあたっていた麓花嶺は、「「癩」と云ふ悲惨な事実の表面だけを極力誇張する事に努めて来た「癩文学」に飽き足らなくなった癩者自身が、必前の要求として「超癩文学」への飛躍を試み始めたのだと見られる」と論じている。今日もなお戦前のハンセン病文学は、北條民雄の作品が特権化され、北條のテクスト=「癩文学」であるかのように考えられているが、林八郎らの作品を「超癩文学」という新たなキーワードとすることによって、新たなハンセン病文学像を構築する。
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