1642年から1685年における、印刷本と手稿を中心としたソロモン王の表象
Project/Area Number |
22K00382
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 02030:English literature and literature in the English language-related
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
笹川 渉 青山学院大学, 文学部, 教授 (10552317)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥2,340,000 (Direct Cost: ¥1,800,000、Indirect Cost: ¥540,000)
Fiscal Year 2024: ¥520,000 (Direct Cost: ¥400,000、Indirect Cost: ¥120,000)
Fiscal Year 2023: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2022: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
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Keywords | 雅歌 / ソロモン王 / George Sandys / John Milton / スチュアート朝 / 王党派 / 手稿 / 初期近代イギリス / 詩集 / 初期近代イングランド / イギリス文学 / 初期近代 |
Outline of Research at the Start |
本研究課題は、1642年に始まるイングランド内乱期から、1685年にチャールズ2世が逝去する間に出版された文学作品において、ソロモン王が表象されることの政治的・宗教的意義を解明することにある。王党派と、反王党派・プロテスタントによる文学テクストを主な研究対象とし、内乱期から王政復古期までのソロモン王のイメージ形成を通時的に明らかにすることで、ソロモン王に言及した非政治的に思われるテクストが、政治的な意味を担っていたことを論じる。
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Outline of Annual Research Achievements |
2023年度の研究実績は以下の2点である。1点目は、大英図書館で、ジョージ・サンディスの『雅歌の意訳』が手稿に筆記された例を確認できたことである。例えば、Lansdowne MS 489では、女王に捧げられた献呈詩の後に本文が筆記されており、筆記者は王家への賛美を目的としてこの作品を受容していたことが窺える。同様の例として、大英図書館所蔵Sloane MS 1009/2では、ジェイムズ2世に捧げる詩の次に、女王への献呈詩とともに『雅歌の意訳』が筆記されている。『雅歌の意訳』と女王への献呈詩をあわせて読むことで、キリストと教会の寓意と解釈されてきた『雅歌』に描かれる若者とおとめは、スチュアート朝の国王と女王と読み替えられ、『雅歌』は王権神授説を踏まえた言説を強固にするための役割を果たしていたことが裏付けられた。 2点目の実績として、研究成果を「『雅歌』の「解釈」をめぐって――ミルトンの『失楽園』とサンディスの『雅歌の意訳』」のタイトルで、研究会で口頭発表をしたことである。本発表では、ジョン・ミルトンの『失楽園』(1667)で引喩される『雅歌』が、王党派的、プロテスタント的の2種類の解釈が提示されていることを述べ、その文脈を17世紀に繰り返し出版されたサンディスの『雅歌の意訳』を比較しながら議論したものである。『雅歌の意訳』については、2022年度に調査した1641年版、1642年版、1676年版の共通点と相違点をもとに、『雅歌』が国王賛美のために利用されていたことを指摘した。また、1676年版で初めて出版された女王への献呈詩が、1640年代に作成されたとされるオックスフォード大学ボドリアン図書館所蔵の手稿MS Rawl. poet. 153にすでに収められていることを指摘し、手稿文化での受容からも、『雅歌』が早くから国王賛美のためのテクストとして利用されていたことを論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記の進捗状況である理由は以下のとおりである。本研究課題では、1年目に「国王不在の内乱期から共和制下(1642年から1659年)」と、2年目に「王政復古からチャールズ2世の逝去まで(1660年から1685年)」の2期に分けて、文学および視覚資料でのソロモン王の表象の多様性と特徴を明らかにすることを計画しており、これまでの2年間を通じてそれぞれの年度に資料を収集し、国王と『雅歌』の関係を追究してきた。例えば、MS Rawl. poet. 153、Lansdowne MS 489、Sloane MS 1009/2などの手稿の分析を通じて、ジョージ・サンディスの『雅歌の意訳』が王党派的な文脈で読まれていたこと、換言すれば、旧約聖書の『雅歌』に描かれ、キリストと解釈されていた若者を国王とみなされていたことを裏付けることができた。また、視覚資料の面でも、17世紀に作成された、『ソロモンの審判』に刺繍されたソロモン王がチャールズ2世に類似していることを、アシュモリアン博物館所蔵の複数の工芸品から確認できている。 しかし上記の研究成果について、2022年度はその一部を論文として、2023年度は研究発表を通じて研究成果を公表できたものの、論文として公表するには至らなかった。またソロモン王の表象とスチュアート朝の王権の繋がりについて、特に王権を批判する側からの例を文献で十分に確認するに至っていない。これは2023年8月に予定していたオックスフォード大学ボドリアン図書館での調査が、図書館の改修工事と重なったため実施できなかったことにもよる。当初の計画では、各年度の成果を論文として公表することを目指しているため、2023年度に研究成果を論文として発表できなかった分を、研究期間が最終年度の予定である2024年度にまとめられるように努める。
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Strategy for Future Research Activity |
研究期間が最終年度の予定である2024年度は、2回の研究会での口頭発表と2本の論文執筆により、研究成果をまとめることを目指す。2023年度に論文として執筆予定であったサンディスの『雅歌の意訳』から読み取れるソロモン王とスチュアート朝国王の関係は、2024年度の研究発表を通じて深化させ、論文として投稿する予定である。また、この研究内容は「国王不在の内乱期から共和制下(1642年から1659年)」が中心となっているため、「王政復古からチャールズ2世の逝去まで(1660年から1685年)」の期間を中心とした研究発表を別途おこない、2024年度中に論文としてまとめる予定である。 以上の計画を推進するため、当初の研究計画で記載している未確認の資料の調査を進める。具体的には、2023年度に閲覧できなかったオックスフォード大学ボドリアン図書館所蔵MS e. Mus. 201でサンディスの『雅歌の意訳』が筆記された例や、ソロモン王について反国王派からの言及、また王政復古以降のソロモン王について王党派が言及した文献を調査する予定である。王党派が国王を賛美するためにソロモン王を用いた例のひとつは、教区牧師ジョン・ボディントンによる『神秘のソロモンの戴冠式と結婚式』に認められる。この書は旧約聖書『雅歌』3章11節の註解という形式を取った、チャールズ2世がポルトガル女王キャサリン・オブ・ブラガンザと結婚したことを祝した文献である。1640年代から流布していたサンディスの『雅歌の註解』も国王賛美の性格を持っていたが、この書からも、王政復古以降でも『雅歌』といえばイングランド国王が自然と連想されたことがわかる。この文献をさらに読解し、国王賛美をおこなうためのソロモン王表象の一例として、『雅歌』が大きな役割を演じていたことを確かなものとする。以上の計画を通じて、本研究課題のまとめをおこないたい。
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Report
(2 results)
Research Products
(2 results)