Project/Area Number |
22K00393
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 02030:English literature and literature in the English language-related
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
石原 浩澄 立命館大学, 法学部, 教授 (70257806)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
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Budget Amount *help |
¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
Fiscal Year 2024: ¥520,000 (Direct Cost: ¥400,000、Indirect Cost: ¥120,000)
Fiscal Year 2023: ¥130,000 (Direct Cost: ¥100,000、Indirect Cost: ¥30,000)
Fiscal Year 2022: ¥130,000 (Direct Cost: ¥100,000、Indirect Cost: ¥30,000)
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Keywords | F.R.リーヴィス / 文芸批評 / 近代啓蒙主義 / 文学公共圏 / 文化の大衆化 |
Outline of Research at the Start |
主として英国における英文学研究の制度史をめぐっては、その成立当初より、歴史学や文献学・言語学に基礎を置いたアカデミックな探求こそ研究であるとする勢力と、作品の評価や鑑賞を主眼とする「批評」を重視する勢力とのせめぎあいがあった。本研究が対象とするF.R.リーヴィスという批評家は、後者「批評」勢力の急先鋒的人物としてとらえられてきたが、本研究は、あえて前者的な観点から、そのリーヴィスの批評活動を20世紀中盤の思想や歴史の文脈の中で考察していくことを目指すものである。
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Outline of Annual Research Achievements |
F.R.リーヴィスの文芸批評を活動時期の20世紀中盤という時代に位置づけて考察することを目的とした本研究の初年度にあたる2022年度においては、リーヴィスの批評活動に対する姿勢や思想と共通した特徴を有すると考えられる実存主義思想との関連について考察を行なうことを計画した。計画書にも記したように、実存主義の思想を「具体的なもの」という視点からとらえたJ.ヴァールの著述を足掛かりに検討を始めた。並行して、実存主義哲学に関する特徴を捉えていくために、M.ハイデガーの言語観に関する著作や、オルソン、マコーリーらの古典的な概説書に取り組んだ。また、バレットの実存主義批評からは、「非合理」の思想としての実存主義の特徴を捉えることができ、近代啓蒙主義批判としての実存主義運動の傾向をとらえることができた。デカルト、ヘーゲルに代表されるような近代知性の体系的な観念論を批判し、個別の生の経験に根差した具体的な生や存在の在り方に迫る思想潮流について考察をした。 実存主義の特徴をまとめる作業と並行して、リーヴィスの批評言説に関する検討も継続した。独自の言語論や哲学に関する言及が比較的増えてくる後期の著作を主に考察する中で、再度リーヴィスの「批評」概念に立ち返り、その特徴をいくつかの角度から再考した。大学英文科における主流の研究方式との対比(及び批判)、批評という「価値判断」の行為を重視したこと、その背景にある英国文化論とその歴史的経緯、などの考察から、近代の所産としての科学文明や文化の大衆化、それに対する危機感の背景には、実存主義の背景にある近代合理性批判と軌を一にするものがあることを確認できた。そして、リーヴィスの提唱する「批評」活動こそは、空虚な知識のもて遊びに対抗する、生における経験という具体的な行為であるという結論を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度の計画に沿って研究の結果を文書の形で発表することを計画していたが、それが実現できなかった。これが「やや遅れている」と判断する理由である。上記の項目の中で述べたように、リーヴィスの批評の性格・特徴と実存主義思想の背景や主張に類似点・関連性を見出すことはできた。個別具体的な文学テクストのパッセージを精査し、読者共同体(批評界、大学英文科、文芸雑誌などの空間)における討議という協働作業を通して、テクストの意味や詩を(再)創造していくというリーヴィスの批評と、普遍的かつ概念的な「本質」よりも個別具体的な「実存」に重きを置いた実存主義の思想に類似点を見出すことができる。このような両者の姿勢の根底には、普遍化・合理化の方向を目指して抽象化・標準化を推し進め科学を発展せしめた近代啓蒙の理性中心主義への批判を読み取ることが可能であった。両者はともに、標準化を推し進めて体系化や理論化への傾向に抗して、生きた人間の個別の差異や経験にこだわっていた。それは別言すれば、時には非合理的に映るかもしれないが、標準や普遍へと還元不可能な人間の生へのこだわりであった。 このような議論を展開して、時代思潮とリーヴィスの文芸批評との一定の共鳴関係を論じることは可能かもしれないが、考察を進める過程で、類似性の指摘に終わってしまうのではないかとの考えを抱くようになった。同時に、安易に実存主義思想とリーヴィスの批評が同時代的な事象であると論じていくことは控えるべきと考え、多方面からの考察を加えてみようと考えているのが現時点での到達点である。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の進捗状況の報告の中で記した現状での到達点の認識を踏まえ、今後の研究を推進していく。具体的には、申請時の研究計画の中で立てていた3つの研究主題を柔軟に相互参照や乗り入れを行ないながら、引き続きリーヴィスの文芸批評についての考察を進めていく。3つの主題を簡潔に確認しておくと、実存主義思想との関係、20世紀における大衆化批判という文脈、そして協働討議の空間としての公共圏と批評との関係である。もとより、申請書の段階でも、これらの論点は明確に峻別できる、あるいはされるべき論点では決してなく、相互に関連してくる問題系であることは指摘していた。一年目を終えて、これらの相互関連性をより意識するようになった。より具体的な手順としては、第三の論点、すなわち公共圏の論点を取り入れながら今年度の研究を進めたい。上述の点と重複するところもあるかもしれないが、リーヴィスの言論活動、特に「批評」という点に注目する場合、批評活動の協働性という点が重要になってくる。「責任ある」批評ということでリーヴィスが意味しているのは、詩や文学作品の解釈・判断を批評家や読者個人の内にとどめるのではなく、それを公的に(public)認知させるということである。リーヴィスの批評において、この解釈共同体としての読者層、すなわち公共圏は不可欠の要素である。 この点を加味しながら、第一の論点であった、実存主義思想を中心とした時代の文脈においてリーヴィスの文芸批評を考察していく。引き続き「具体性」という視点を重視したい。リーヴィスが批判した学究的な文学研究に対抗するものとして、「具体的な」文学経験としての批評をとらえていく。文学研究において、批評と文化研究の、いわば「覇権争い」を時代に沿って考察したノースの議論などを射程に入れたい。
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