Project/Area Number |
22K00473
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 02040:European literature-related
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
山本 浩司 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (80267442)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥3,900,000 (Direct Cost: ¥3,000,000、Indirect Cost: ¥900,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,170,000 (Direct Cost: ¥900,000、Indirect Cost: ¥270,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2022: ¥1,690,000 (Direct Cost: ¥1,300,000、Indirect Cost: ¥390,000)
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Keywords | グラーグ / 収容所文学 / 事物の詩学 / パスティオール / ビーネク / ヘルタ・ミュラー / コラージュ / ドイツ文学 / 比較文学 / ラーゲリ / メンシング / ルーゲ / ドイツ語圏文学 / 集合的記憶 / 現代史小説 / 証言とフィクション |
Outline of Research at the Start |
ドイツ人のソ連グラーグ体験は、ホロコーストの特異性テーゼに基礎を置く「想起の規範的な枠組」から外れ最近まで注目を浴びなかった。本研究では、20世紀の国際的なグラーグ文学の遺産と90年代以降の歴史学や文芸学の実証的な研究成果を踏まえつつ、「遅れてきた」ドイツのグラーグ文学が「遅れ」ゆえに勝ちえた独自性を浮き彫りにする。元流刑囚作家たちが沈黙を破って死の直前に記した回想録と 第二第三世代による史実にフィクションを織り交ぜたモデル小説を分析して、冷戦期になされた流刑経験の言語化の多様な試みを発掘するとともに、証言とフィクションを混交させる現代史小説が集合的記憶の更新にいかに寄与しうるか検証する。
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Outline of Annual Research Achievements |
研究の成果はまず2023年10月ブルガリア国立ソフィア大学の独文科創設100周年記念シンポジウムにアジアから唯一のゲストとして招かれて行った口頭発表に結実した。ドイツ語圏グラーグ文学第一世代の二人の作家ビーネクとパスティオールにおける晩年にいたるまでの失語と韜晦に注目し、彼らの文学が体験のリアリスティックな再現に甘んじず、周囲の事物へ関心を集中させ、羅列と並列を構成原理とすることで、因果律的なプロット重視の自伝形式の乗り越えを目指していたことを論証した。同じ文学研究セッションの研究者たちから有益なフィードバックを得られ、発表原稿に加筆訂正してソフィア大学編纂の記念論集に投稿した。 他に学術論文としては、ヘルタ・ミュラーのコラージュ詩における限界経験に関する学術論文をドイツで刊行された研究論集に発表した。コラージュという詩的方法が、コンベンショナルな物語をすり抜けて、ルーマニア独裁政権下の限界経験を表現するのにふさわしい形式であることを明らかにし、彼女がパスティオールの死まで共同で執筆していた『息のブランコ』の創作原理を理解する上での足がかりを得た。 慶應義塾大学藝文学会『藝文研究』に寄稿した論文では、ジャン・ケロールやロベール・アンテルムらフランスのナチス収容所文学の非コンベンショナルな語り方をめぐる議論を踏まえつつ、ビーネクの『細胞』をケストラー、ソルジェニーツィン、ベケットの批判的受容という観点で論じた。これにより、遅れてきたドイツ語圏のグラーグ文学が持つ美的革新性について整理整頓することができた。さらにビーネクがプレテキストとして参照しているケストラーの『日蝕』について、ドイツ語オリジナル版からの翻訳が出たのを契機に書評を書き、ドイツ語圏グラーグ文学が先行するテキストとどう取り組み、どのようなオリジナリティを出せているかケーススタディできたことも成果としてあげられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍を克服し海外出張が正常化するかと思われた矢先に、ロシアのウクライナ侵攻と欧州でのインフレ、円安ユーロ高の進行によって海外渡航費滞在費が高騰する中であったが、概ね当初計画通りに、ドイツ語圏の図書館(ベルリン州立図書館、フンボルト大学図書館、ドイツ国立図書館、オーストリア国立図書館など)に出張を果たし、資料の収集と整理にあたることができた。 その調査研究の中で、グラーグ文学における事物への関心の集中について、フランス語圏のナチ収容所体験文学の成果を参照する必要が新たに意識され、その研究成果を踏まえてソフィアの国際学会で口頭発表することができた。同学会では、「文学とマテリアルスタディーズ」領域でドイツ語圏の研究をリードする研究者たちと関係を築け、今後の共同研究の礎が作れたことも大いなる成果である。 アウトプットについては、第一世代のグラーグ文学に集中したきらいがあるが、第二世代による新しい文学についても読み込みは進めており、2025年度中に成果を口頭発表と論文の形で世に問うことができる見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
本務校よりサバティカルを取得し、2024年3月末よりドイツ、ベルリンのフンボルト大学とマルバッハのドイツ文学資料館で一年間の在外研究に従事できるという恵まれた環境に今年度はある。フンボルト大学の受け入れ教員は、2023年秋のソフィアの国際学会で同じセッションにいたフェッダー教授で、毎週コンタクトを取ってアドバイスを受けている。同教授の主催するコロキウムで研究構想の発表の機会も得られる見込みである。詩におけるリストというパスティオールも使った技法が今世紀の詩に関する議論でアクチュアリティを獲得していることを踏まえて、イルマ・ラクーザ、アン・コッテン、ミヒャエル・レンツらの議論を押さえて、パスティオールらグラーグ文学における並列性の原理についての考察を深めていく予定である。 研究のアウトプットについては、9月にトリア大学とフリブール大学共催の現代詩についての国際学会に招聘されたので、そこで詩におけるリストについて口頭発表を行う予定である。同発表は加筆訂正してドイツ語論集に投稿する。また早稲田ドイツ語学・文学会の機関誌『早稲田ブレッター』に21世紀のグラーグ文学についての見取り図がわかるような研究報告を投稿するつもりである。
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