Project/Area Number |
22K00898
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 03020:Japanese history-related
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
藤目 ゆき 大阪大学, 大学院人間科学研究科, 教授 (60222410)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤井 豪 東京外国語大学, 世界言語社会教育センター, 講師 (70886217)
駒込 武 京都大学, 教育学研究科, 教授 (80221977)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
|
Budget Amount *help |
¥3,380,000 (Direct Cost: ¥2,600,000、Indirect Cost: ¥780,000)
Fiscal Year 2024: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
Fiscal Year 2023: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
Fiscal Year 2022: ¥1,950,000 (Direct Cost: ¥1,500,000、Indirect Cost: ¥450,000)
|
Keywords | 朝鮮戦争 / WIDF / 占領軍 / 民間人被害 / 慰安婦 / 機雷爆発 / 公娼制度 / 冷戦 / 升井登女尾 / 小山房子 / ガソリンタンク投下 / 大高根軍事基地 / 元山 / 門司港 |
Outline of Research at the Start |
本研究は、女性史・子ども史の角度から朝鮮戦争時代に光をあてる実証研究である。 第二次世界大戦が終結した1945年、国際団体WIDFが創設され、日本の女性運動や子ども擁護運動、平和運動の形成・発展に影響を与えた。冷戦を背景に1940年代末には日本の軍事化が進み、朝鮮戦争下には対米戦争協力と日本国憲法の矛盾がジェンダー規範や教育環境にも露呈し、女性と子どもの生活の中にもその矛盾が暴力性を帯びて表出する。大衆運動団体は朝鮮戦争開戦までに引き潮となり、朝鮮戦争下には弾圧や分裂によって縮小し低迷していった。女性と子どもの擁護運動が再び高揚するのは、朝鮮戦争が停戦を迎えた1953年以後である。
|
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度には、研究課題「朝鮮戦争の社会史」の調査研究を進め、次のような実績を挙げた。 第1に、朝鮮戦争下の女性史に関連して、別項に記載したシンポジウム及び刊行物において連合国対日占領米軍・韓国軍・駐韓米軍による性的「慰安」施設設置や女性に対する犯罪・虐待の諸相を明らかにした。これらを通して、韓国在住の朴貞愛氏や金貴玉氏、在日朝鮮人研究者の宋連玉氏との研究交流を深めた。また、その過程において、「軍中楽園」と呼ばれる戒厳令時代の台湾における性的慰安施設や、台湾におけるフェミニズムに大きな転換点となった公娼自救会に関する調査についても、新たな一歩を進めることができた。 第2に、宮城県仙台市、新潟県新潟市・上越市名立区、韓国のソウルと仁川、沖縄県那覇市・宮古島、高知県室戸市三津海岸などを訪れ、現地調査を実施した。国内調査では、女性と子どもの被害を中心に朝鮮戦争前後の民間人被害事件や機雷爆発事件に関する文献資料と口述資料を入手した。韓国調査においては韓国の研究者たちと米韓同盟70周年企画展示を見学して研究交流を行い、また1950年の仁川上陸作戦の民間人被害に関する調査のために月尾島などの故地を訪ねた。 第3に、『占領軍による人身被害調査資料集 』(第2期 全3巻、六花出版、2023年12月)編集・解説を行い、2023年12月に刊行した。この資料集(全3巻)は2021年に刊行した第Ⅰ期の資料集(全6巻)に続くもので、占領軍被害に対する国家補償を請求する運動を展開した被害者や支援者たちが遺した資料(第7巻)と、公文書に記録された被害状況を伝える資料(第8巻)、占領軍被害に対する官庁側からの対応を示す公文書類(第8巻・第9巻)を集成したものである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題「朝鮮戦争の社会史」において特に重視する三つの小テーマについて、2023年度の調査と研究において次のような成果をあげた。 第一は、国際民主女性連盟(WIDF)と朝鮮戦争が戦後日本女性運動史に与えた影響を考察するというテーマである。2023年度はWIDFとつながりのある女性運動のなかで重要な役割を果たした日教組に調査の焦点をしぼった。占領軍の進駐と女性政策、新潟県訓導精神障害被疑事件、機雷爆発、性売買のひろがり、米軍基地拡張阻止闘争といった諸事象とそれらに対する日教組、とくに女性教員たちの対応について資料を収集した。 第二は、朝鮮戦争最中の国連軍による軍事作戦に起因する女性と子どもたちの被害というテーマである。2023年度には従来の占領軍被害の研究を深めるとともに、機雷漂流・爆発事件に新たに注目した。占領期の日本近海には、第二次世界大戦中に日本軍が敷設した機雷に加えて、米軍が展開した機雷封鎖作戦によって多大な機雷が存在しており、これらの処理が旧日本海軍を実質的に存続させる理由づけとされ、朝鮮戦争開戦に伴い日本特別掃海隊が朝鮮近海に派遣された。朝鮮戦争が始まると日本海においてソ連製の機雷が発見されるようになる。これらの機雷の漂着・爆発によっの子どもを含め多数の民間人が死傷し、地域の生活が脅かされた。 第三は、朝鮮戦争時代の民間人、とくに女性と子どもに対する暴力の重層的で複合的な構造を解明することである。2023年度には、前年度までに個別のトピックスを設定して取り組んできた調査・研究をふまえて、内外の研究者との交流や討論を行うことによって、個別的な事象をつないで全体像を構想するという面においても前進することができた。 以上のことから、本研究課題はおおむね順調に進捗していると評価できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究蓄積をふまえ、個々の事象の連関性を解明して全体像を描き出すことをめざす。そのため研究分担者・研究協力者の間の対話と討論を系統的に行い、朝鮮戦争と日本の戦後国家像を東アジアの空間的・時間的連続性の中で把握し、研究成果をまとめる。 南基正『基地国家の誕生』(東京堂出版、2023年)は朝鮮戦争を契機として日本が米国のための「基地国家」となったと指摘する。これに対して本研究では、政治家や旧軍人の言動や民間人被害についての研究蓄積を基礎として、同書とは違う戦後国家像を描き出したい。 その際、朝鮮半島と日本・沖縄と共に、もう一つの戦域たる台湾にも視野を拡げ、政治的受難や民間人被害を考察する。韓国の「共匪」討伐、日本のレッドパージ、台湾50年代白色テロ、基地周辺の事故や女性や子どもの弾拾い、性暴力、犯罪といった諸相を通して、比較・関係史的な研究を行う。 また、「8・15終戦」史観や「突然、朝鮮戦争が始まった」といった歴史の断絶を強調する歴史観に対抗して、日本のポツダム宣言受諾から朝鮮戦争実質参戦へと至る過程の連続性を人々の実体験を通して実証的に解明する。帝国日本が19世紀末から組織した日本・台湾・朝鮮の公娼制度が第二次大戦後には冷戦に照応した国家的性売買統制へ再編成されていったという事象もとりあげる。 本研究会では女性や子ども、卑賎視され他者化される人々をめぐる思想史的アプローチをも重視する。朝鮮戦争は19世紀に起源があり、1953年の停戦以降も終わっていない。朝鮮戦争の終結への道の探求という意味で、近現代史における台湾の「賤民的境遇」を意識化し、その境遇を自覚的に引き受けようとする人々が民主主義を深化させていると指摘する呉叡人『台湾、あるいは孤立無援の島の思想』(みすず書房、 2021年)は、本研究の推進にも有益な視点を与える。研究会ではその観点から同書の合評会も行う。
|