Project/Area Number |
22K01122
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 05010:Legal theory and history-related
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
的場 かおり 大阪大学, 高等共創研究院, 教授 (50403019)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥2,600,000 (Direct Cost: ¥2,000,000、Indirect Cost: ¥600,000)
Fiscal Year 2024: ¥520,000 (Direct Cost: ¥400,000、Indirect Cost: ¥120,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,170,000 (Direct Cost: ¥900,000、Indirect Cost: ¥270,000)
Fiscal Year 2022: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
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Keywords | 後見 / 出版(プレス)の自由 / 検閲 / フランス革命 / ナポレオン / 王政復古 / 陪審制 / 出版(プレス)犯罪 / ジェンダー / 未成年 / 啓蒙思想 / 政治参加 / 成人 / プレスの自由 |
Outline of Research at the Start |
2015年には選挙年齢が18歳に引き下げられ、22年4月から民法や少年法における「未成年」の年齢・取り扱いが変更された。このように「成年」概念は現在、年齢に基づくものである。だが近代においてこの概念は女性や大衆を「未成熟」とみなし、彼らの自由・権利を奪う役割を果たした。確かに現行の法制度では「男性=成年=後見不要/女性=未成年=後見必要」という理解は破棄されたが、社会や人々の意識に潜んでいる。そこで本研究は、未だ大きなジェンダー・ギャップが見られる政治分野に焦点を当て、近代日本に影響を与えたドイツを中心に、「成年/未成年」をめぐる立法史を解明する。
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Outline of Annual Research Achievements |
18世紀末~19世紀初めのドイツ啓蒙主義者の中には、「後見人」と「被後見人」という関係を「検閲者(官)」と「表現者(執筆者/出版者)」の関係に見出すという人物もいた。この関係を批判的に捉えたカントについては、すでに本研究開始以前に検討した(「一九世紀初頭ドイツにおけるプレスの自由とプレスの濫用」『阪大法学』71巻3=4号)が、本年度は、ヴィルヘルム・トラウゴット・クルークW. T. Krug(1770~1842年)の議論に注目し、検証を行った。ライプツィヒ大学教授のクルークは、「カントの後継者」とも呼ばれることもある哲学者である。彼は、1815年に発足したドイツ同盟(1815~66年)でのプレス(出版)法制定にあたり、自ら作成したプレス法案をドイツ同盟議会に献呈したことでも知られる。 本年度は、クルークがプレス法案を作成するにあたって参考としたイギリス、フランスのプレス法制、なかでも、ドイツと同時期に立法整備を行っていたフランスとの比較を行った。そしてその研究成果を、以下の論文として発表した。 1本目の「19世紀初頭フランスにおけるプレスの自由と立法」『阪大法学』73巻4号では、フランス革命から1817年までのフランスのプレス法の変遷とその思想的背景を分析した。2本目の「19世紀初頭ドイツ・フランスにおける陪審制とプレス犯罪」桐山孝信・本多滝夫・奥野恒久・的場かおり編『民主主義の深化と真価」(文理閣)では、プレスの自由や検閲に関するフランスの議論がクルークやドイツ同盟の議論に与えた影響を明らかにした。 後者の論文では、プレスの内容(が違法か否か)を判断するのは、検閲官でも知識人でもなく、陪審員に委ねるべきという自由主義者たちの主張を検討することで、「陪審制」と「プレスの自由」の関係というテーマにも、研究の裾野を広げることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第一に、「被後見」と「後見」の関係を、プレス(出版)の自由という領域では、「表現者(執筆・出版者)」に対し、豊富な知識をもって執筆・出版者を教導してあげる「検閲者(官)」という構図として成立させる見解があったことを明らかにできた。この点に「検閲」の必要性の根拠を求めようとする見方に対し、他方では、行政による事前規制を否定し、プレスの内容は出版後に司法によるチェックを受ければよいという見方があり、19世紀初頭のフランス、ドイツではイギリスをモデルに「陪審制」の導入を求める動きがあった。国家権力・行政国家から個人の自由を防御するためのツールとして、陪審制にスポットが当てられる動きは、現代社会における「司法への国民参加」にもつながる、重要なテーマである。 第二に、「被後見」女性をめぐる研究は、ザクセン王国を対象に進めている。1838年1月にザクセンで制定された「性に基づく後見の廃止に関する法律」を解読するとともに、同法によって自ら財産管理を行うことができるようになった、ルイーゼ・オットー(1819~95年)への影響を考察している。彼女はドイツ女性解放運動の先駆者のひとりであり、彼女が同法をいかに評価したのか、同法の制定が彼女の活動・行動にいかなる影響をもったのかを、史資料から明らかにしている。この成果は来年度に公表予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は同研究課題の最終年度である。 ①被後見人としての「女性」:前述のように、ザクセン王国における1838年の法律とルイーゼ・オットーの関係を一つの事例として、研究成果を公表する。ルイーゼ・オットー、ザクセン王国といった個別の例のみならず、他のドイツ同盟国、また社会一般で、女性の「被後見」状態に対していかなる考え方や法制度の改変等が見られたのかという問題にも取り組むことも視野に入れ、研究の進展を図りたい。 ②被後見人としての「表現者」:表現規制に疎い稚拙な表現者を「被後見」の対象とみなし、検閲官や知識人が「後見人」となって表現者を教え導き、表現者が恥をかかないようにしてやる、という思想が、19世紀初頭のドイツにおいて検閲を正当化する根拠の一つとされていた。これに対し、表現に対する事前規制を否定し、陪審員による事後チェックを求める「陪審制」導入をめぐる議論と実態を、ドイツとフランスを対象に明らかにした。今後は、フランス、ドイツいずれの議論でも引用・評価された、イギリス(イングランド)におけるプレス犯罪への陪審制のあり方を検証する。 ③「キリスト教徒」と「ユダヤ教徒/ユダヤ人」の関係への適用可能性:「キリスト教徒/ドイツ人」と「ユダヤ教徒/ユダヤ人」との関係に、「後見」「被後見」の要素が見てとれないのかという問題意識をもち、研究を開始している。両者の関係は宗教や民族といった別の要素が介在しているため、単純な「後見ー被後見」というメカニズムで論じることは軽々であるとは思われるが、「被後見」というレッテルを貼り付けることで、(女性、障がい者といった)社会的弱者たる特定の集団を社会から排除してきたメカニズムの機能を再検討したいと考えている。
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