Project/Area Number |
22K01545
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 07050:Public economics and labor economics-related
|
Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
八塩 裕之 京都産業大学, 経済学部, 教授 (30460661)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
|
Budget Amount *help |
¥3,900,000 (Direct Cost: ¥3,000,000、Indirect Cost: ¥900,000)
Fiscal Year 2025: ¥390,000 (Direct Cost: ¥300,000、Indirect Cost: ¥90,000)
Fiscal Year 2024: ¥390,000 (Direct Cost: ¥300,000、Indirect Cost: ¥90,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,560,000 (Direct Cost: ¥1,200,000、Indirect Cost: ¥360,000)
Fiscal Year 2022: ¥1,560,000 (Direct Cost: ¥1,200,000、Indirect Cost: ¥360,000)
|
Keywords | 年金課税 / 私的年金 / ミクロ経済モデル / 節税 / 個人住民税 / 課税ベース / 高齢化 / 個人型私的年金 / 老後の資産形成 / 個人資産 / iDeCo |
Outline of Research at the Start |
本研究では、私的年金として近年注目を浴びるiDeCoを中心に日本の資産形成税制の実態と改革の方向性を探る。欧米では私的年金が高所得層の節税に使われて、国民全体の資産形成促進という政策目的を達成できないケースがあることが知られる。iDeCoがこうした失敗をしないためには、資産形成のインセンティブを検討してから制度設計をする必要がある。本研究ではまず、私的年金の加入に関するミクロ経済学のモデルを構築し、それをもとに制度のあり方を検討する。そのうえで、個票を用いた私的年金加入の実態分析を行う。分析を通じてiDeCoの加入における実態を明らかにするとともに、制度改革の方向性を検討する。
|
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では日本の年金課税について検討を行うが、2023年度は2本の研究成果を発表した。 1本目は、日本証券経済研究所が主催した証券税制研究会の研究成果をまとめた書物『日本の家計の資産形成 -私的年金の役割と税制のあり方-』が出版されたが、その一章を執筆した。その論題は「個人型私的年金の改革について -簡単なミクロ経済モデルを用いた分析-」である。この論文では、日本の私的年金であるiDeCoの問題点と改革について簡単なミクロ経済モデルを用いて考察した。iDeCoはアメリカの私的年金制度(401Kなど)をモデルに制度設計されているが、アメリカの401Kに対しては、多額の税収ロスが生じる一方で、国民全体の老後資産の形成という制度の目的が必ずしも達成されていない、といった批判がある。論文では、そうした制度の問題がどのような経済的インセンティブによって生じうるかを、簡単なミクロ経済モデルを用いて検討したうえで、日本のiDeCoの改革の方向性について検討した。 2本目は、日本租税研究協会が主催する税制基本問題研究会での報告をまとめた論文「高齢化が個人住民税課税ベースの与える効果」を『租税研究』第890号で発表した。2000年代では高齢化が進む地方部で勤労者の引退が進み、それが住民税の課税ベース侵食を誘発した実態が観察されたが、高齢化がより進んだ2010年代では、その問題はあまり見られないことを論じた。高齢化が進む東北や九州では若年労働者の不足が高齢者の引退延期で補われており、それが高齢化による課税ベース侵食が生じていない理由の一つと考えられることを示した。また、近年女性の就業率が増加しているが、その就業形態は非正規就業も多く、その結果、女性の就業増加は住民税の課税ベース増加に結び付いていない可能性があることをデータで示した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度は2本の研究成果を公表した。また、今後の展開も以下に述べるような状況であり、研究はおおむね順調に推移しているといえる。なお、2本の研究成果の内容は「研究実績の概要」で述べたとおりである。 本研究の中心テーマは私的年金を中心とする老後の資産形成に関する税制のあり方を検討することであるが、まずは、その実態をつかむための理論モデルの検討が必要であった。これまでの研究で、簡易なものではあるがミクロ経済モデルの検討がある程度進展した。今後は、これを踏まえてデータ分析を行い、理論モデルで検討したことが実際にデータで観察されるかを検証していくことになる。こうした展開は、当初の研究計画で想定したとおりであり、この点が「おおむね順調」という評価の大きな根拠となっている。 今後行うデータ分析では当初、民間の個票データを購入することを検討していた。しかし、国税庁保有行政記録情報(所得税及び復興特別所得税の確定申告書)を用いる国税庁との共同研究プロジェクトに本研究を含むテーマで応募、採択され、より網羅的な個票データの活用が可能となった。老後の資産形成を促す所得税制の活用状況は国税庁の個票データを用いることで、より網羅的に明らかにできる可能性がある。そこで、令和5年度の後半から国税庁の個票データの分析を本格的に開始した。令和6年度はデータ分析作業を引き続いて行い、令和7年度の研究最終年度に向けて研究を進めていく予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は、「現在までの進捗状況」で述べたように、一部当初の計画からの変更が生じている。すなわち、個票データで老後の資産蓄積を促す税制の活用状況を明らかにするため、当初は民間の個票データの購入を考えていた。しかし、国税庁保有行政記録情報(所得税及び復興特別所得税の確定申告書)を用いる国税庁との共同研究プロジェクトに本研究を含むテーマで応募、採択され、民間のデータよりも網羅的な望ましいデータを活用できる見通しがたった。そこで、民間のデータ購入はいったんストップし、まずは国税庁の個票データ(所得税の確定申告書データ)分析に注力する予定である。国税庁のデータは埼玉県和光市の税務大学校和光校舎にあるため、データ分析には現地に出向く必要がある。もともと民間のデータ購入用に研究の予算を確保していたが、民間のデータを使用する必要性がいったん弱まっており、その予算を埼玉県和光市への交通費にあて、現地に出向いて研究を推進する予定である。 分析は令和5年の後半より始めているが、所得税の確定申告書の利点は、何よりもデータが網羅的なことである。民間データの場合、データは数千人分のアンケート調査であり、サンプルが少ないうえにデータの対象が非常に偏っており、また、記入の誤差が生じるなどの問題がある。国税庁のデータではこれらの問題を大きく軽減できる利点がある。諸外国では老後の資産蓄積税制の活用実態が納税申告書で実際に分析されており、本研究でもこれらを参考にしつつ分析を進めていく。
|