Project/Area Number |
22K01834
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 08010:Sociology-related
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
河村 倫哉 大阪大学, 大学院国際公共政策研究科, 准教授 (80324870)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
|
Budget Amount *help |
¥3,640,000 (Direct Cost: ¥2,800,000、Indirect Cost: ¥840,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2022: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
|
Keywords | リベラリズム / 文化 / 社会資本 / ネットワーク / 共存 / 多文化 / 自由主義 / エスニシティ / 政治理論 / 正義 / インターカルチュラリズム / 多文化共生 / 社会関係資本 |
Outline of Research at the Start |
本研究は、移民の受け入れが社会の分断を生んだとするポピュリズムに対抗すべく、インターカルチュラリズムの考え方を取り上げる。この考え方は、マジョリティとマイノリティの交流を積極的に促すことによって社会の分断を回避し、多様な人々の共存を図ろうとするものである。その実現のためには、人々に交流こそが共存にとって最優先の意義を持っているという理由と、障害を乗り越えて確実に交流を作り出す方法が提示されなくてはならない。本研究は、前者については「実質的機会の平等」という規範原理を、後者については「推移的ネットワークの構築」という政策を提示し、 その妥当性を理論研究とフィールド調査を通じて明らかにする。
|
Outline of Annual Research Achievements |
異なる人々が共存するには、形式的な機会ではなく実質的機会の平等が必要である。後者の不平等はなかなか目に見えず、それに不満を溜める人々が、しばしばエスニックな運動を起こす。しかし、人々に実質的機会の平等を保障するには、信頼や協力のような社会資本を人々は入手できなければならない。そして社会資本は文化横断的なネットワークから生み出される。そのような構想に基づいて、理論をさらに整備したのが2023年度の研究成果である。 第一に、本研究は異なる文化を共存させるための根本的な規範としてリベラリズムを再定式化した。文化に対して中立を貫こうとするリベラリズムには、苦境にある集団を適切に救済できないという批判がある。しかし、多文化主義のように文化を直接優遇すると、逆差別をもたらすなどの弊害がある。そこで諸々の文化に対する中立を意識しつつ、平等な機会を享受するのに必要な信頼や協力などは補うという新しいリベラリズムを考えたのが、本研究の第一の成果である。 そして第二に、ネットワークの形と作り方を明らかにした。ネットワークの基本的な形は、Min保守派―Min穏健派―Min進取派―Maj進取派―Maj穏健派―Maj保守派というものである(Minはマイノリティ、Majはマジョリティ)。ここで例えば穏健派は保守派と交流することで自分たちの文化をより確かなものとして守ることができ、進取派と交流することで、外的環境に適応していく術を学ぶことができる。このような相互利益を利用すれば、実効的につながりを作ることができることを明らかにした。 このような研究の意義として、共存実現の責任としっかり向かい合えるような理論になった。従来は諸々の文化に中立的であろうとすると、細かいニーズに対応できず、その逆もしかりであった。しかし、本研究は社会資本やネットワークを考慮に入れることによって、この二律背反を乗り越えられている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では二年目はすでに調査に着手していなければならなかったのだが、理論部分の構築に時間がかかり、調査は三年目にずれ込むこととなった。理論部分に時間がかかった理由は、多文化間の共存を実現させる責任と向かい合うためには、共存に役立つネットワークの形や、その作り方が明確化させなければならないと考えたからである。これまでのインターカルチュラリズムの理論もネットワークの必要性は強調していたものの、このような点を十分に明らかにしてこなかった。しかし、これらを明確化しておかないと、調査結果と理論に齟齬が生じた場合、理論の何を修正すべきなのか、判断に迷うことになる。そこで時間をかけてその点を整備した。 第一に、なぜネットワークは推移的な形が望ましいのかというと、一つにはネットワーク内の全員が同じ価値観を持つ必要がないということ、もう一つには、自分と少し異なった相手ならほとんどどのような人でも見つけることができるので、推移的ネットワークは社会の隅々まで張り巡らせることができるということが挙げられる。 第二に、推移的ネットワークの作り方だが、文化集団にいる人は皆、一方では自分たちの文化を維持したいと思い、他方では変化する環境に適合していきたいと思っている。この二つをどのようなバランスで追及するかによって、人々の立場は保守派、穏健派、進取派に分かれる。人々は自分と少し違うバランスを持った人々と交流すると、自分の文化を維持する力や環境に適応する力に刺激が得られる。このような利益に着目すれば、有効にネットワークを構築できる。 このような理論の整備に時間がかかったが、それは無駄ではなく、むしろこのような整備によって、現実と理論を厳密に比較することができる。このような視点を確保したことで調査の効率も上がると考えられ、現段階での若干の遅れは十分に挽回可能だと思われる。
|
Strategy for Future Research Activity |
過去二年間で、多文化間の共存を実現するために作るべきネットワークの形とその方法を明らかにしたので、これからはその理論がどれだけ役に立つのか、調査を通じて検討する。対象地は、文化横断的なネットワークの存在がある程度知られているマルセイユとバルセロナである。マルセイユでは移民二・三世の若者たちがマジョリティとマイノリティを媒介する働きをしており、バルセロナでは市がマジョリティの中から反うわさエージェントを育成し、移民に対する悪い噂を聞きつけると彼らが真実を教えることで、マイノリティとマジョリティが架橋されるようにしている。 調査の第一の点として、推移的ネットワークとは本当に構築可能かどうかを検証する。そのためにまず、現場の人々はどのような相互利益に基づいてネットワークを作ったのか、あるいはどのような障害に直面して作れなかったのかということを明らかにする。このようにネットワークを作れたところ、作れなかったところを聞き取ることで、存在するネットワークの形が明らかになる。それは断絶を含んだり、過度に稠密な個所があったりするので、推移的ネットワークとは異なっていることになるが、それらの比較を通じて、推移的ネットワークにすればもっと作りやすくなるのか、断絶したところも架橋できそうなのか、検討する。 第二に、ネットワークから十分に社会資本が生み出されるものなのか検討する。マルセイユやバルセロナでネットワークができたことにより、共存を妨げる難問がどれだけ解消されたのかを検討する。そして問題が軽減されたのだとしたら、どのような社会資本がネットワークから生み出されたのかを検討する。あるいは、問題があまり解決しなかったのであれば、どのような社会資本が足らなかったのか、その社会資本を生み出すにはどのように推移的ネットワークを発展させればよいのかを検討する。
|