境界誘起型量子開放系の定常状態における整流作用の統一的理解と新たな輸送特性の探索
Project/Area Number |
22K03458
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 13010:Mathematical physics and fundamental theory of condensed matter physics-related
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
鈴木 秀則 日本大学, 歯学部, 講師 (60408698)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
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Budget Amount *help |
¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
Fiscal Year 2024: ¥260,000 (Direct Cost: ¥200,000、Indirect Cost: ¥60,000)
Fiscal Year 2023: ¥390,000 (Direct Cost: ¥300,000、Indirect Cost: ¥90,000)
Fiscal Year 2022: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
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Keywords | 量子開放系 / 非平衡定常状態 / 輸送特性 / 定常状態 |
Outline of Research at the Start |
量子スケールでの輸送現象の詳細な解析は,量子デバイスにおける情報や熱の制御に対して貴重な知見を与えるものとして重要な課題である。本研究では,量子開放系の中でも「境界誘起型の定常状態」に焦点を絞り輸送特性の詳細な解析を行い,熱流やスピン流の整流作用の統一的な理解および新奇な輸送特性の探索を目的とする。解析にあたり,流れの期待値からの計算される整流係数などの考察に加えて,新たな視点としてフィッシャー計量や状態間距離といった情報幾何学的考察に基づく概念を導入する。本研究を推し進めることで,境界誘起型の定常状態を記述する際の統一的な原理の探索に向けての基礎を築く。
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Outline of Annual Research Achievements |
境界誘起型の量子開放系の典型例の一つとして、有限サイズの量子スピン系における定常状態の密度行列を数値的に求めて系の物理量について詳細な調査を行ったところ、系を流れるスピンカレントとエントロピー生成率の間に比例関係があることが予見された。この関係はrepeated interaction protocolに基づく境界誘起型非平衡状態の定式化の手法に基づいて解析的に証明された。加えて、repeated interaction protocolでの系の境界での物理量に関する期待値を考慮する際には、系と外界が接触している時間内の平均値としてとらえることが重要で先行研究における外界から系へのスピンカレントの定式化の際の数因子の誤りが判明した。この、エントロピー生成率とカレントの関係性は、系の時間発展の定式化において普遍的に成り立つ関係性を示唆すると考え、重要な結果のひとつであり、今後、整流作用との関係性にまで踏み込んで解析を進めていく。 系の境界で接触している、流れを誘起する外界に加えて、系を熱平衡状態へと導こうとする熱浴が接触した場合に対して、数値的な解析を試みた。熱浴の効果の定式化としては、系の状態変化を表す量子マスター方程式における散逸項を系の固有状態間を詳細つり合い条件を満たすように遷移するモデルで表現した。熱浴との接触が十分に弱い範囲では、熱浴が高温の極限では系への影響はほとんどないが低温では系は熱平衡に近い状態となるが、両者の境界となるパラメータ領域が、流れを誘起する散逸項と熱浴の散逸項の係数の最大値の比較から得られる表式により判断できる可能性を示した。系のエントロピー生成率の熱浴との接触からの寄与が発生し始める領域と、先の表式で得られる領域を比べると十分によく整合しており、この関係は熱浴の定式化をより詳細なもので考慮しても成立するのではないかと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題において2022年度は、有限サイズ系の数値解析から、境界誘起型の輸送現象における整流作用の本質的な要因の探索、新たな輸送特性の探索へとつなげていく計画であった。数値計算に関しては、大規模な系に対しては対応していないものの、少数スピンの系に対して効率的に計算を進めていく環境と手法を構築し、今後の研究計画にも支障ない状態であると認識している。 整流作用の要因の探索については少し遅れていると考える。エントロピー生成率とカレントの関係性や、未だ成果としてまとまってはいないが、系のカレントの大小に系のエネルギー準位の分布が関わっているのではという兆候を数値的に見出しているなど、境界誘起型の輸送現象そのものに対する理解は進んでいるものの、得られた知見と整流作用との関係性に対しては今後の課題である。 新たな輸送特性の探索としては、熱浴との接触を加えた境界誘起型の定常状態に対する数値解析からいくつかの重要な知見を得ることができている。 以上、構築された数値計算の環境や境界誘起型の輸送現象そのものの理解は進んでおり、これらのことが、今後の整流作用に関する本質の要因の探索の手がかりとして有効であろうと思われることから、本研究課題全体としてはおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに引き続き、数値計算による結果を基にして整流作用の統一的理解への解析を進めていくことになるが、これまでに得た境界誘起型の輸送現象に対する知見に基づき、整流作用の本質的な要因の探索に対して重点を置いて解析を進めていく。また、情報幾何学的に定義した距離の概念を解析に導入するにあたって、以前に我々が古典系に対して適用した方法を素朴に量子開放系に適用すると、量子振動による散逸のない密度行列の変化を距離として取り込んでしまい、エントロピー生成などの系の状態変化に関する物理量との関係性について明確な議論ができなくなるが、これまでと別の量を変数としたフィッシャー計量の計算から、定常状態間での情報幾何学的距離と系のカレントや整流作用との関係性についての解析を試みる。学会や国際会議等への参加、関係分野の研究者との議論などから情報の収集に努め、これまでと異なる観点からも境界誘起型の輸送現象・整流作用に対する解析を行い、本研究を推進していく。 熱浴との接触の効果についても熱浴の定式化をより詳細に考慮し、現実的な量子デバイスで起こり得る状況に近づけての解析も視野に入れ、新たな輸送特性についての探索を続けていく。
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Report
(1 results)
Research Products
(2 results)