ヒッグス・セクターにおける新物理シグナルの発現と抑制機構
Project/Area Number |
22K03616
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 15010:Theoretical studies related to particle-, nuclear-, cosmic ray and astro-physics
|
Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
曹 基哲 お茶の水女子大学, コンピテンシー育成開発研究所, 教授 (10323859)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
|
Budget Amount *help |
¥4,160,000 (Direct Cost: ¥3,200,000、Indirect Cost: ¥960,000)
Fiscal Year 2025: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2024: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,170,000 (Direct Cost: ¥900,000、Indirect Cost: ¥270,000)
Fiscal Year 2022: ¥1,170,000 (Direct Cost: ¥900,000、Indirect Cost: ¥270,000)
|
Keywords | 暗黒物質 / ヒッグス粒子 / シグナル抑制機構 / ヒッグス / 電弱一次相転移 / 重力波 / 多重臨界点原理 / 素粒子標準模型を超える物理 / ヒッグス・セクター |
Outline of Research at the Start |
素粒子標準模型は、暗黒物質の存在やニュートリノ振動などの観測・実験的側面およびゲージ階層性問題など理論的側面の双方からその拡張が必然とされてきた。しかしLHC実験などの素粒子実験では未だに新粒子や新相互作用の兆候(シグナル)は見つかっていない。このような事実に基づき、本研究課題では新物理のシグナルを自然に抑制する機構について系統的に調べる。特にヒッグス・セクターの拡張によって見いだされる新物理シグナル抑制機構に注目し、その現象論的帰結と実験的検証可能性を検討する。またその抑制機構の起源となる基本理論、基本原理の手がかりについて調べる。
|
Outline of Annual Research Achievements |
素粒子標準模型に複素シングレット・スカラー場を一つ導入した、Complex singlet extension of the Standard Model (CxSM)について分析を行った。この模型ではスカラー・ポテンシャルがCP不変性をもつ場合に複素スカラー場の虚部が安定となり、暗黒物質の候補となる。一方で実部は電弱対称性の自発的破れによって標準模型ヒッグス場と混合し、2つの質量固有状態h_1, h_2を構成する。ここでh_1がLHC実験で観測されている、質量125GeVのスカラー粒子である。特にこの模型では暗黒物質と標準模型粒子(クォーク、レプトン、ゲージボソン等)の散乱はh_1およびh_2の媒介によってのみ起こる。そしてh_1, h_2の質量が縮退する場合に散乱振幅が抑制されることが知られており、既知の暗黒物質探索実験やコライダーによる新粒子探索実験の結果と無矛盾になる。これを「縮退スカラーシナリオ」と呼ぶ。 縮退スカラーシナリオはh_1によって媒介される振幅とh_2による振幅が相対的に逆符号であることから2つの振幅が相殺することにより実現される。今年度はこのような「相殺機構」が成立する起源を理解するために、対称性から許される最も一般的なスカラーポテンシャルを構成する項達に対して要請される「和則 (sum rule)」について分析した。その結果、相殺機構が成立するためのスカラー2点結合および3点結合の間の関係を見出した。これは、いわゆるGIM機構のような相互作用バーテックスにあらわれる「混合行列」のユニタリ性によるものとは異なる、非自明な結果である。また、結合定数達が和則を満たす場合に、相殺機構に対する量子補正の影響について調べた。その結果、相殺機構が少なくとも1ループ補正のレベルでは成り立つことを、ファインマン・ダイアグラムを具体的に計算することで示すことができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
CxSMにおいて成立する縮退スカラーシナリオは、標準模型を越える新粒子として導入される暗黒物質粒子(複素スカラー場の虚部)とCP-evenのスカラー粒子(複素スカラー場の実部)の質量が電弱スケールであっても、また他の粒子との相互作用が自然な大きさであっても、既知の実験結果と整合することを示している。これは多くの標準模型を越える素粒子模型が、新粒子の質量として実験結果と矛盾せぬよう、非常に大きなスケールであることや、非常に微弱な結合定数を要請することとは大きく異なった特長である。 従来、縮退スカラーシナリオにおける散乱振幅の相殺は、CP-evenのスカラー粒子(複素シングレットおよび標準模型ヒッグス)として質量固有状態の基底を取る際に現れる混合行列のユニタリ性(直交性)によるものと予想されていた。しかし、今年度我々が行った研究により、縮退スカラーシナリオでの相殺機構の起源は混合行列のユニタリ性ではなく、スカラーポテンシャルの構造に対する要請と2点および3点相互作用の結合定数の間の関係(すなわち和則の成立)であるという、非自明なものであることが示された。また、結合定数間の和則が成立すれば、縮退スカラーシナリオでの相殺機構は少なくとも1ループ補正の影響を受けない、ということも示された。これにより、研究対象としていた新物理のシグナル発現を抑制するメカニズムの一端が明らかにされ、予定していた研究計画が達成されたことになる。以上により、本研究課題は予定していた計画に沿って順調に進めることができたと言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
CxSMにおける縮退スカラーシナリオはこれまでの研究から暗黒物質探索実験、コライダー実験における新粒子探索実験の現状と整合する有力な仮説であるといえる。しかしながら研究進捗の過程でいくつかの課題が浮かび上がってきた。そのうちの一つは、暗黒物質直接探索実験と宇宙の電弱一次相転移の実現をリンクさせたときに生じる。宇宙の電弱一次相転移は標準模型の枠内では実現されず、スカラーセクターの拡張を要請される、ということが知られている。電弱一次相転移の担い手(の一つ)としてCxSMの複素シングレット・スカラー場に注目した時、相転移が「強い一次」であること、対称相(symmetric phase)と非対称相(broken phase)をわける泡生成の条件と縮退スカラーシナリオが共存することを要請すると、暗黒物質の熱的残存量の予言値が、観測値に満たないことがわかっている。すなわち熱的残存量の未達分を補う第2の暗黒物質候補が必要である。そこでその候補としてゲージシングレットのフェルミオンを導入し、縮退スカラーシナリオおよび強い電弱一次相転移の実現が両立するという要請の下、フェルミオン暗黒物質の性質や模型のパラメータについて定量的な分析を行う予定である。 また、CxSM以外の素粒子模型における縮退スカラーシナリオの適用可能性について調べる。 その候補として電弱二重項ヒッグスを2つ持つ模型(Two-Higgs doublet model)に注目し、同模型における縮退スカラーシナリオの成立可能性や模型の一般的な帰結、現象論的特長などについて調べる。
|
Report
(2 results)
Research Products
(12 results)