スピン分極ラジカルのスピン波束崩壊時間測定を利用したラジカル反応速度測定の深遠化
Project/Area Number |
22K05029
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 32010:Fundamental physical chemistry-related
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
河合 明雄 神奈川大学, 理学部, 教授 (50262259)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
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Budget Amount *help |
¥4,160,000 (Direct Cost: ¥3,200,000、Indirect Cost: ¥960,000)
Fiscal Year 2024: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2023: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2022: ¥2,340,000 (Direct Cost: ¥1,800,000、Indirect Cost: ¥540,000)
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Keywords | ラジカル反応 / 速度定数 / パルスESR / スピン分極 / 光分解 / 付加反応 / フラーレン / レーザー |
Outline of Research at the Start |
ラジカルの反応速度定数は、ラジカル化学を知る上で重要な数値だが、液相中では正確で万能な測定法が確立していない。本研究では、様々なラジカル反応に対し、原理が単純かつ信頼されやすい速度定数決定法の完成を目指す。近年、私が有用性を明らかにしたスピン分極したラジカルの不対電子位相を制御してスピン波束をパルスESR観測する方法を利用し、観測対象ラジカルの種類を増やす。また、最先端のマイクロ波パルス整形法によるスピン波束形成の最適化や、スピン分極を強くする反応系のデザインで、提案する計測法の汎用性を高める。さらに、観測困難だった重要ラジカルの反応に知見を与え、計測法の発展に資する知識や技術を総括する。
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Outline of Annual Research Achievements |
溶液中でのラジカルの反応速度定数を正確に測定することを目指し、ラジカル生成法の開拓に取り組んだ。本研究での観測手段はESR法であるため、その低感度を克服する必要がある。そのため、スピン分極したラジカルの生成法を見出す必要がある。初年度は、このような方法として、オキシムエステルの光分解で生じるフェニルラジカルからの水素引き反応の利用を検討した。具体的には、355nmのYAGレーザーを用いたオキシムエステルの光分解を6種の溶媒中で行い、各々で溶媒の水素引き抜きラジカルの生成を時間分解ESR法で観測した。検討した水素をもつ溶媒では例外なく水素引き抜きラジカルのスペクトルは観測され、強度およびラジカルの選択的観測の両方の観点にいて問題ないことを示した。これらのラジカルは、いずれも可視紫外吸収分光法では観測が不可能なシグマラジカルであり、ESRを用いる優位性を明確に示すことができた。 つぎに、これらのラジカルが更に付加反応などを起こす過程について、その速度定数の正確な測定に取り組んだ。この実験では、パルスESRでラジカルにスピン波束を形成させ、そのスピンエコーを観測する。ラジカルが反応する場合、スピンエコーが緩和する時間が短くなるため、これを観測し解析することで速度定数を決定する。オキシムエステルの光分解を用いたラジカル生成法については、シクロヘキサン溶媒中でのシクロヘキサンラジカルについて、マレイン酸エルテルやフマル酸エステルへの付加反応速度定数を決定することができた。 以上の計画研究と並行し、パルスESR法がラジカルの生成と消失を実時間観測できることに着目し、オキシムエステルが分解して溶媒から水素引き抜きラジカルを生成させる過程を調べた。その結果、オキシムエステル光分解で生じたラジカルが引き続き二酸化炭素の脱離を経てフェニルラジカルを生成する過程を直接とらえることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、以下の3つの目的を定めて研究を推進している。 ① スピン分極発生現象の学理と ESR 高感度化に向けた実用化、② ラジカル反応速度定数のスピン波束測定による決定法の深遠化、③ 磁化の自由誘導減衰(FID)検出を利用した新しい速度定数計測法の開発 目的①に関しては、強くスピン分極したフェニルラジカルを生じるオキシムエステル光分解の利用を取り扱った。フェニルラジカルの水素引き抜きは予測通りに速く、溶媒からの高速の水素引き抜き反応が起こり、多くの溶媒中でスピン分極したラジカルの生成を実現した。また、オキシムエステル光分解過程の解明にも取り組み、反応中間体として仮定されていた過酸化ラジカルの生成およびその二酸化炭素脱離を、パルスESR法で直接観測できた。さらには、オキシムエステル光分解を用いたラジカル生成法で、ラジカル反応速度定数の決定を行っており、初年度での遂行を予定していた研究については十分達成できたと考えている。また、この研究内容は既に学術論文に受理され、公開されている。目的②に関しては、これまで速度定数決定を行っていなかったベンジルタイプのラジカルについて、そのスピンエコーをモニタした速度定数計測を実施した。初年度は、ラジカル重合などで極めてよく使われるジメトキシベンジルラジカルを研究対象とした。ベンジルタイプのラジカルは超微細構造が複雑で、一つのスピン状態に共鳴させたESR観測が難しい。今回、スピンエコー計測の実験条件などを最適化することで、フラーレンとの付加反応における速度定数決定に成功した。目的③については、いくつかのラジカルでFIDをモニタする計測法の開発に着手した。FIDの減衰速度と反応試薬の関係を Stern-Vomer Plot 解析し、速度定数決定を行なう実験を遂行中である。信号強度は十分高く、信頼度の高い速度定数が得られるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで実験実務上の問題であったオキシムエステル化合物の必要量入手について、初年度に解決したため、オキシムエステル光分解を用いる方法を広く展開する。これまでの研究では、溶媒からの水素引き抜きを利用してラジカルを生成させたが、今後はベンゼンなどの水素引き抜きが起こりにくい溶媒を用い、水素ドナー物質を溶解させることで、その物質のラジカルを生成させる。オキシムエステル光分解から生成するフェニルラジカルは反応性が極めて高いため、この方法により様々な種類のラジカルをスピン分極した状態で生成させることができる。フェノール類やアミン類などはもとより、水素ドナーとして活性の低い物資でもラジカル生成可能と考えている。 スピン波束を用いる方法以外の測定法開拓として、パルスESRによるFID観測を用いる方法を多数の反応系に対して実行する。この方法が広く一般的に適用可能かを精査し、新しい測定法としての確立を目指す。 スピン波束をスピンエコー観測で行う方法については、スピンエコーの強度が最大になるようなマイクロ波励起パルスの波形制御を検討する。ナノ秒オーダーのマイクロ波パルスに対して波形制御を行う実験に関しては、特殊な装置が必要であり、量子生命研との共同研究を利用する。初年度は、そのための準備として、量子生命研が管理する最新式のパルスESRをテスト使用した。研究2年度には、様々なパルス波形とスピンエコー強度の関係を調べる。これまでモデル反応系で用いてきたヒドロキシアルカンラジカルを対象とし、波形制御の効果について情報収集と総括を行う。
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Report
(1 results)
Research Products
(10 results)