Project/Area Number |
22K05236
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 35020:Polymer materials-related
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
戸谷 健朗 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 技術職員 (50397014)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥3,640,000 (Direct Cost: ¥2,800,000、Indirect Cost: ¥840,000)
Fiscal Year 2024: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2023: ¥390,000 (Direct Cost: ¥300,000、Indirect Cost: ¥90,000)
Fiscal Year 2022: ¥2,340,000 (Direct Cost: ¥1,800,000、Indirect Cost: ¥540,000)
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Keywords | 調光作用 / 非線形透過率 / 機能性高分子 / 光化学 |
Outline of Research at the Start |
本課題では、機能的な遮光性を示すスマートガラスとしてガラス素材に塗布できる機能性高分子の開発を目指す。機能的な遮光性は、夕刻時なども適度な光量を取り入れることで部屋の内部を明るくし、余分な電灯を必要としない。一方、夏季のように太陽光が強い時は、室内に透過する太陽光量をおさえ、室内の温度上昇を抑制するものである。調光機能を有する材料を成型加工に優れる高分子フィルムで実現することでガラスなどへの塗布が可能となる。
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Outline of Annual Research Achievements |
本課題では弱い入射光は透過し、強い入射光になると光を遮るような、強度によって透過率を変化させる機能性を有した有機材料の実現を目指す。将来的には、本材料をガラス等に塗布することで、入射する太陽光の量を快適なレベルに自発的に調節することが可能な、機能性材料の実現へとつながるものである。本課題では、太陽光レベルの光強度で、透過率が非線形に減少するような材料システムの構築を目指している。このような材料システムを実現させるためには、光励起した材料の励起状態の寿命を長くし、より小さな励起光強度の光で、より多くの励起状態密度を生成する必要がある。長寿命励起状態を実現するために、色素材料に禁制遷移である三重項-一重項間の遷移を備えているものを利用する。本年度は幅広いスペクトル領域に渡って調光機能を示すための材料探索を行った結果、ペリレンなどの芳香族系を中心とした化合物、3級アミンにより芳香族化合物を結合させた分子を新たな候補とした。長寿命励起状態を十分に満たすには、色素を包埋するマトリックス環境として、周囲の分子の熱振動が面上構造を持つ色素部位に、直接、影響を与えないようにすることが必要である。そのような環境を実現するために、これまでのノルボルレン骨格を中心とした強直な主鎖骨格材料の他に、繊維構造により強固に束を連ねた、セルロースナノファイバーを用いた系を新たに試みた。その結果、長寿命励起状態を実現させる環境としては、従来のノルボルレン型の高分子マトリックスと同等レベルの機能を有することがわかった。それ以上に、材料の耐久性に影響する酸素の透過性の部分で、大きな期待が持てることも判明した。 本年度は、本課題の成果発表として、①希少金属を必要としない、H,C,O,N元素のみからなる材料を用いた非線形透過率の研究と、②セルロースナノファイバーを用いた長寿命励起状態、に関する研究報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題では、太陽光レベルの光強度で、調光機能を発現する材料の先駆けとなるような材料の開発、および、システムの構築をめざしている。初年度は、色素を増感させることで、高密度の励起状態を形成させることを試みた。増感させるためのドナー分子として、希少金属であるIr金属を有する有機錯体の組み合わせを採用した。そして、可視スペクトルの中でエネルギーの高い側に位置する、青色入射光に対して10 mW/cm2レベルの強度で材料の透過率が、非線形にふるまう領域に達することを確認した。この強度領域から1割以上、透過率が減少した。ゲスト分子である色素は、ホストのポリマーに化学結合させることで、導入時の分散性の向上を狙い、いわゆる色素間の距離を制御できるよう試みた。 太陽光の調光作用を可視光全域で実現できるような材料系の実現を試みた。その手法として、2種類の色素をドープし、色素間のエネルギー移動を利用しながら、青色光を照射した際に、その他の波長領域も含んだ、可視スペクトル全般にわたって透過率が非線形に減少するような材料系の探索を行った。試料の組み合わせの結果、可視光長波長領域と可視光短波長領域の光でそれぞれ非線形な透過率を示せるような材料の組みあわせを見出し、これらの材料でほぼ一様に可視光線の透過率が減少することが示された。 ゲスト色素に対して、長寿命で高密度な励起状態を実現するような環境を提供するホスト高分子として、繊維構造により強固に束を連ねた、セルロースナノファイバーを用いた系を新たに試みた。このホスト材料では、色素を単純分散させることには成功しなかったが、セルロース鎖内に化学結合により、色素分子をつなげることで長寿命励起状態を実現させることに成功した。さらに、材料の性質として、耐熱性および、色素の寿命の抑制してしまう酸素分子の透過性の面で優れていることが判明した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で一通りの材料探索と、可視光全般で調光機能を有するような材料系の構築には成功した。しかしながら、その性能も含め、最終的な商業化まで視野に入れた場合、その一つ一つには大きな課題がある。最終年度ではこれら課題を改善する方法を試みると共に、さらにその先を見越した、新しいシステムの考案や、その候補の探索に充てる。 可視光全般に調光機能を有する材料系では、過渡吸収測定により、可視スペクトル全般にわたって透過率が非線形に減少することは確認できた。しかしながら、ゲストとして色素を2種類導入することにより、色素間のエネルギー移動に伴うエネルギーのロスは避けられなかった。これを改善する方法として、光学特性のシミュレーションを導入しながら、フィルムの多層化などにより色素の接触を避ける方法を検討する。 セルロースナノファイバーを用いたホスト高分子系では、長寿命励起状態は実現できたものの、ゲスト分子となる色素の導入量には限界があり、調光機能を低強度の光で発現させるには課題がある。現在、副反応による色素導入の阻害も起こるため、これらの改善方法を検討し、導入できる色素の増加を試みる。 本材料系で調光機能を保持させるにあたり、デメリットの一つとして、光吸収により非線形透過率を発現させる点がある。このような材料系の場合、入射する光は抑えられるものの、光を熱に変えることにより透過率を抑えているため、光入射面での発熱は抑えられない。これを改善するために、吸収ではなく反射・散乱による非線形透過率を付加することも必要であると考えている。現在の材料は光照射時に内部の屈折率が変化し、その結果、光の透過率が変化することが分かっている。今後は、材料を微粒子化し、光散乱体としてフィルムを作成することで、反射・散乱に起因した調光機能がどの程度向上するかを、光学シミュレーションと合わせて調査していく。
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