Research Project
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
水産養殖が世界的な食料供給において重要な役割を果たしており、養殖技術の開発や普及が促進されているが、養殖魚介類の疾病が顕在化しており、甚大な被害を及ぼしている。現在知られている魚介類疾病に対する薬剤は、種類が限られているだけでなく、海洋環境に適さないなどの問題点を抱えている。そこで、元来海洋環境中に存在する軟体サンゴホロビオント(軟体サンゴおよび着生・共生する周辺微生物など)より、魚類疾病に対して効果を示す環境調和型の新たな防除剤候補の獲得を目指す。
本研究の目的は、養殖魚の疾病として広く知られている細菌感染症および寄生虫病に効果を示す防除剤候補の取得である。本研究の探索源として、沖縄県に広く生育する海洋生物であり、多様な生物活性物質を生産する軟体サンゴ、さらには宿主の軟体サンゴに着生・共生する微生物を含めた“軟体サンゴホロビオント”に着目した。初年度(昨年度)は、沖縄本島と周辺離島において軟体サンゴおよび関連微生物の採集を行った。調製した各抽出物について、各種活性試験および化学プロファイリング分析の結果に基づいてスクリーニングした結果、有望サンプルとして6種を選抜するに至った。今年度は選抜した抽出物に含まれる活性物質の単離と構造解析を主に実施した。また、軟体サンゴが生産する特徴的な二次代謝産物に絞ってメタボローム解析を行ったところ、6種の抽出物のうち4種については、過去に得られたものとは異なるパターンを示した。そこで、4種の抽出物に含まれる二次代謝産物の分析を優先的に行った。その結果、全ての抽出物に新規化合物が含まれていることが明らかとなった。現時点では9つの新規化合物の取得に成功しており、各種NMR法を用いて化学構造の解析を行った結果、いずれの新規化合物も軟体サンゴ由来の普遍的なセンブラン型ジテルペンではなく、珍しいC12化合物や新規骨格を有するジテルペンであることが判明した。C12化合物の一部にはVibrio属に対する抗菌活性が認められた。今後さらに微量成分の解析にも着手することで、新規活性物質の取得数は増えるであろう。
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
本研究では3年をかけて以下のI)~V)の研究項目を実施する計画である。Ⅰ)採集した軟体サンゴホロビオントから抽出物を調製する。Ⅱ)各種活性試験を用いて抽出物のスクリーニングを行う。Ⅲ)各種クロマトグラフィー法を用いて選抜抽出物より活性物質を単離し、機器分析法によって化学構造を決定する。Ⅳ)類縁体等との比較により活性に寄与する重要な化学構造の解析を行う。V)小型水槽を用いて養殖魚類に対する防除効果を評価する。初年度においては主にI)およびII)の研究項目に取り組んだ。沖縄県本島内の未調査区域および本島周辺の離島でサンプリングを実施し、今までに着手していない個体の採集を優先的に行った。その結果、現在までに50種を超えるサンプルを取得した。また、各種軟体サンゴの組織片より種々の微生物も単離した。その後、溶媒抽出を通じて調製した各抽出物を用いて、スクリーニングを行った。スクリーニング試験には、小型の甲殻類に対する簡易毒性試験、ならびに海水魚の病原菌となるビブリオなどに対する抗菌活性試験(ペーパーディスク法)を用いた。スクリーニングの結果、軟体サンゴ由来の抽出物6種を有望サンプルとして選抜した。今年度は、Ⅲ)の研究項目について重点的に着手し、選抜した抽出物に含まれる二次代謝産物の分析を行った。各種クロマトグラフィーを経て活性物質を単離した後、NMRやMSなどの各種分析機器を用いて化学構造の解析を実施した。今までに9つの新規化合物を含めて20 を超える二次代謝産物を取得した。現在は、取得した各新規化合物の詳細な化学構造(立体構造)の解析を進めている。
最終年度は、上記の研究項目Ⅳ)およびV)に取り組む計画である。そのためにも、まずは取得した新規化合物の化学構造を決定することが最優先課題となる。いずれの化合物も低分子でありながら、予想以上に複雑な化学構造を有しているため、NOESY法を含めた常法の解析だけでは相対立体配置を決めることができない。そのため、各種化学変換およびDFT計算などを駆使して明らかにする必要がある。続く活性評価を実施するためには、サンプル量を少しでも多く確保することが求められる。そこで、絶対立体配置の解析には、微量かつ非破壊的に測定可能なCDスペクトルを用いて決定する。また、新たに取得した化合物についてもNMRやMSなどの各種分析機器を用いて、化学構造を逐次明らかにしていく。構造決定が終わり次第、生物活性試験(小型甲殻類に対する毒性試験および魚の病原菌に対する抗菌試験)を用いて取得化合物の有用性を評価する。有望な活性を示した化合物については、類縁体との活性を比較することにより、活性の強弱に影響を及ぼす化学構造に関する基盤的知見を得る。最終段階においては、取得したシード化合物を小型水槽内に添加し、種苗(養殖魚の稚魚)や小型魚類に対する防除効果を評価する。次のステップアップ(新規薬剤候補の創製)につなげるためにも、構造の最適化に向けて大事な知見を得ることが最も重要となる。
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