Project/Area Number |
22K06310
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 44050:Animal physiological chemistry, physiology and behavioral biology-related
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
松本 幸久 東京医科歯科大学, 統合教育機構, 准教授 (60451613)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,160,000 (Direct Cost: ¥3,200,000、Indirect Cost: ¥960,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,170,000 (Direct Cost: ¥900,000、Indirect Cost: ¥270,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,690,000 (Direct Cost: ¥1,300,000、Indirect Cost: ¥390,000)
Fiscal Year 2022: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
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Keywords | フタホシコオロギ / 長期記憶 / 加齢 / 嗅覚学習 / 次世代 / メラトニン |
Outline of Research at the Start |
「子の出生時の親の歳が、子の認知機能に関わる」という現象が、ヒトを含めいくつかの動物種で報告されている。申請者は最近、昆虫のフタホシコオロギの嗅覚報酬学習系において、「老齢の親コオロギから生まれた子では長期記憶形成能が低下する」という現象を見出した。ただしこの現象の特徴、原因、改善法についてはほとんどわかっていない。本研究は行動薬理学的手法や分子生物学的手法などを用いてこれらの問題の解明を目指す。
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Outline of Annual Research Achievements |
「子の出生時の親の歳が、子の認知機能に関わる」という現象が、ヒトを含めたいくつかの動物種で報告されている。近年、申請者は昆虫のフタホシコオロギにおいて、「老齢の親コオロギから生まれた子では嗅覚報酬学習の長期記憶形成能が著しく低下する」ことを発見した。本研究の初年度において、この「子の記憶能力に影響する親の加齢効果」現象は3世代目では回復すること、父親コオロギよりも母親コオロギの加齢の影響がより強いことがわかった。 本研究の2年目にあたる本年度は、「子の記憶能力に影響する親の加齢効果」が、嗅覚報酬学習以外の学習課題でも一般的に見られる現象であるかを調べるために、成虫脱皮3週齢の老齢親から生まれたG1(老齢Jr.)に嗅覚罰学習訓練を行い、1日後の長期記憶を調べた。その結果、老齢Jr.では嗅覚罰学習の長期記憶が全く形成されず、「子の記憶能力に影響する親の加齢効果」は、学習パラダイムに関わらず一般的に見られる現象であることが示唆された。 次に、抗酸化剤であるメラトニンの長期投与が、老齢親から生まれた子の記憶形成能の低下を改善できるかどうかを調べた。親コオロギ(G0)が成虫脱皮から25日齢の老齢コオロギになるまでメラトニンを飲み水に混ぜて与え、その卵から孵ったG1(メラトニン投与老齢Jr.)の長期記憶を調べたところ、正常なレベルの長期記憶が形成された。すなわち親への抗酸化物質の長期投与が、子の記憶能力低下を改善できたと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、コオロギの嗅覚報酬学習で見られる「子の記憶能力に影響する親の加齢効果」が、嗅覚報酬学習以外の学習課題でも見られる現象なのかを調べた。申請者は、匂い刺激と罰刺激(食塩水)を連合させる嗅覚罰学習パラダイムをすでに開発している。そこで、成虫脱皮3週齢の老齢親から生まれたG1(老齢Jr.)と、成虫脱皮1週齢の若齢親から生まれたG1(若齢Jr.)とをそれぞれ飼育し、成虫脱皮1週齢の時に、それぞれ嗅覚罰学習訓練を行い、1日後の長期記憶を調べ比較した。その結果、老齢Jr.の訓練1日後の学習スコアは若齢Jr.のものに比べ有意に低かった。すなわち、老齢Jr.では嗅覚罰学習の長期記憶が形成されないと言える。この結果から「子の記憶能力に影響する親の加齢効果」は、嗅覚報酬学習以外の学習課題でも一般的に見られる現象であることが示唆された。 次に、子の記憶形成能の低下を改善する方法を探索した。「子の記憶能力に影響する親の加齢効果」現象が親の生殖細胞の酸化ストレスによるダメージに起因するのであれば、メラトニンなどの抗酸化剤により予防できる可能性がある。そこで親コオロギ(G0)が成虫脱皮してから25日齢の老齢コオロギになるまでメラトニンを飲み水に混ぜて与え、採卵した。その卵から孵ったG1(メラトニン投与老齢Jr.)が成虫脱皮1週齢の時に嗅覚報酬学習訓練を行い1日後の長期記憶を調べた。対照群は同じタイミングで蒸留水を与えた老齢コオロギのG1(DW投与老齢Jr.)である。その結果、DW投与老齢Jr.では長期記憶が全く形成されなかったのに対し、メラトニン投与老齢Jr.では長期記憶が形成された。すなわち親へのメラトニンの長期投与が、子の記憶能力低下を改善できたと言える。 以上のことから、本年度の達成度を「(2)おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
抗酸化物質であるメラトニンを親コオロギに長期投与することにより、親コオロギが老齢時にできた子の記憶能力低下が改善されたことから、「子の記憶能低下現象」の原因は親コオロギの生殖細胞のDNAが加齢に伴い酸化ストレスダメージを受けたことによるものと申請者は考えた。そこで生殖細胞(精原細胞や卵母細胞)ついて、それらの染色体数、酸化ストレス量、発現遺伝子を調べる。染色体数は性腺(精巣や卵巣)をスライドグラス上に押しつぶし、ギムザ染色した後に顕微鏡観察して調べる。加齢に伴う発現変動遺伝子(DEGs)は、性腺からRNAを抽出してRNA-seq解析を行い、DEGsをKEGG pathway解析、Gene Set Enrichment Analysisにて評価し、老化関連遺伝子群のネットワーク解析を行う。酸化ストレス量の測定では、酸化ストレスマーカーとしてスーパーオキシドジスムターゼ、グルタチオン、マロンジアルデヒドを、測定キットなどを使って測定する。いずれも老齢コオロギと若齢コオロギの生殖細胞で調べ、両者の間で比較する。 老齢コオロギのG1(老齢Jr.)では、報酬学習でも罰学習でも、長期記憶が形成できないことがわかった。すでに申請者は、コオロギの長期記憶形成にはNO-cGMP系、cAMP系などのシグナル伝達系が重要な働きをしていることを見出している。そこで老齢Jr.の脳ではこれらのシグナル伝達系の働きが低下している可能性がある。それを確かめるために、老齢Jr.が成虫脱皮10日齢の時に脳を取り出し、これらのシグナル伝達系で働く生体分子をそれぞれ測定する。例えばcAMP, cGMPなどの低分子は高速液体クロマトグラフ質量分析器(LC-MS)で測定し、NO合成酵素、PKAなどの酵素はリアルタイムPCRでmRNAの発現量を測定する。対照群の若齢親から生まれたG1(若齢Jr.)でも同様の測定を行う。
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