南極藻類に見つかった新規長波長光利用メカニズムの解明と進化学的理解
Project/Area Number |
22K06380
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 45030:Biodiversity and systematics-related
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Research Institution | National Institute for Basic Biology |
Principal Investigator |
小杉 真貴子 基礎生物学研究所, 環境光生物学研究部門, 特任助教 (00612326)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
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Budget Amount *help |
¥4,160,000 (Direct Cost: ¥3,200,000、Indirect Cost: ¥960,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
Fiscal Year 2023: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
Fiscal Year 2022: ¥2,080,000 (Direct Cost: ¥1,600,000、Indirect Cost: ¥480,000)
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Keywords | 光合成 / 南極 / 極限環境 / 藻類 / エネルギー移動 / 赤外線 / 極域 / 光応答 / 多様性進化 |
Outline of Research at the Start |
光合成生物にとって生育環境の光特性(スペクトル特性と強度)は、進化における主要な選択圧のひとつである。弱光条件や強光条件、水中から陸上への進出に伴い光合成生物は光捕集系タンパク質を様々に多様化させることで適応進化を遂げてきた。本研究課題では、南極の過酷な陸上環境に生育する緑藻ナンキョクカワノリ(Prasiola crispa)に見つかった赤外線利用型光合成システムのメカニズムと進化学的側面を分子―生理―生態を繋ぐ解析で明らかにする。また、これまで見過ごされてきた極域生態系における赤外線利用型藻類の多様性の実態についても明らかにする。
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Outline of Annual Research Achievements |
ナンキョクカワノリ(Prasiola crispa)の赤外線利用型光合成システムの分子生物学的解析を行うため、ナンキョクカワノリのゲノムシーケンスデータとトランスクリプトームデータから遺伝子領域の予測とアノテーションを行った。解析の結果、10244個の遺伝子がアサインされ、BUSCOによるクオリティの評価では真核生物の必須遺伝子の86%がカバーされていた。Pc-frLHCをコードする遺伝子をアミノ酸配列から推定したところ、相同性の高い4つの候補遺伝子が特定された。 ナンキョクカワノリの培養株を用いて赤外線吸収型アンテナタンパク質(Pc-frLHC)の発現条件を詳細に調べるとともに培養株から精製したPc-frLHCの生化学分析と分光学分析を行った。これまでに基礎生物学研究所の大型スペクトログラフを利用してPc-frLHCの発現の光波長依存性を測定してきたが、その発現量は南極の生育環境下で採集したものに比べて非常に少なく短時間の照射処理で発現の有無を判断することが難しかった。今回得られたゲノム情報を元にリアルタイムPCR用に設計したプライマーを用いてPc-frLHCの発現量の比較を行うことで、Pc-frLHCの発現を誘導する波長と発現を抑制する波長が明らかになった。更に温度条件や培地組成を検討することで、培養環境でのPc-frLHCの発現量を大幅に増やすことに成功した。 培養株で発現させたPc-frLHCは野外採集株から精製したPc-frLHCと同様の複合体構造であることが示唆されたが、2つある赤外線吸収成分のうち長波長側の割合が少ないことが分かった。このことから、培養株のPc-frLHCは何らかの構造上の違いがあると考えられた。今後、培養株由来のPc-frLHCの構造解析や時間分解蛍光スペクトル解析を行うことで、野外株に見られる長波長吸収クロロフィルを特定する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ナンキョクカワノリのゲノム解析において十分なクオリティの遺伝子予測が行われたことで、これまで難しかった分子生物学的な解析が可能となった。 南極で採集したサンプルは量が限られているため、培養株を用いての研究に移行する必要があるが、これまでの培養実験ではPc-frLHCの発現量が野外採集サンプルに比べると非常に少ないことが問題だった。これについては、培養環境の光条件と温度を調整することでPc-frLHCの発現量を高めることができた。今後、多量の精製タンパク質を必要とする解析にも着手する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度に得られたナンキョクカワノリの遺伝子情報を元に、Pc-frLHCの発現メカニズムを明らかにする。具体的には、基礎生物学研究所の大型スペクトログラフを用いてPc-frLHCの発現の波長依存性を詳細に測定し、光合成活性を考慮した上でフォトレセプターの関与を推定する。Pc-frLHC発現過程におけるRNA-seqを行い、Pc-frLHCの発現に関わる遺伝子を推定する。また、Pc-frLHCの発現過程における光合成諸活性の変化を生理学的手法を用いて明らかにすることで、赤外線利用の機構と競合すると考えられる光エネルギーの調節機構がどのように制御されているかを推定する。 Pc-frLHCの構造解析においては科研費17K19431で取り組んだ結果、分解能3.13Åの分子構造モデルを取得することができたが、エネルギー移動過程を推定するために必要なクロロフィルaとクロロフィルbの同定が完了していない。そこで、タンパク質精製時のBuffer条件を検討し300 kVのクライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析でより分解能の高い分子モデルの構築を目指す。高分解能の分子構造モデルが得られた後、光化学系における励起エネルギー移動の理論研究を行っている研究者と協力し、Pc-frLHC内で起きているアップヒル型の励起エネルギー移動の詳細を解析する。 Pc-frLHCは光化学系II反応中心のアンテナとして機能していることが示唆されているが、Pc-frLHCと光化学系の超複合体の構造は明らかになっていない。そこで、Pc-frLHCを発現させた培養株からチラコイド膜を単離し、様々な界面活性剤を用いて超複合体の単離を試みる。超複合体が得られた後、Pc-frLHCから光化学系IIへのエネルギー移動の詳細を時間分解クロロフィル蛍光スペクトル解析により明らかにする。
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Report
(1 results)
Research Products
(1 results)