捕食回避のための托卵は多種の共存を促進するか?―ダニ類を用いた実証―
Project/Area Number |
22K06385
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 45040:Ecology and environment-related
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
長 泰行 千葉大学, 大学院園芸学研究院, 准教授 (90595571)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,160,000 (Direct Cost: ¥3,200,000、Indirect Cost: ¥960,000)
Fiscal Year 2024: ¥520,000 (Direct Cost: ¥400,000、Indirect Cost: ¥120,000)
Fiscal Year 2023: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
Fiscal Year 2022: ¥2,860,000 (Direct Cost: ¥2,200,000、Indirect Cost: ¥660,000)
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Keywords | 托卵 / 捕食者ー被食者間相互作用 / ギルド内捕食 / 捕食回避 / 生物多様性 |
Outline of Research at the Start |
自然界には、捕食者から卵を保護する種もいれば保護しない種もいる。本研究では、それらの種の共存機構として、卵を保護しない種が他種に卵を保護してもらう托卵に注目する。実験に用いるキイカブリダニとミヤコカブリダニの卵は同じ場所で観察されるが、キイでのみ卵の保護が知られている。ミヤコカブリダニはキイカブリダニと同じ場所に産卵し、自身の卵をキイカブリダニに保護してもらう托卵をすることで、卵捕食者の存在下でキイと共存しやすくなるという仮説を検証する。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ミヤコカブリダニ(以下、ミヤコ)が卵を保護する習性をもつキイカブリダニ(以下、キイ)に托卵することで、両者の卵を捕食するミカンキイロアザミウマ(以下、アザミウマ)とともに共存しやすくなる、という仮説を検証するものである。本年度は、キイがミヤコの托卵に対して産卵選好性および卵の保護をどのように変化させるかについて検証を行った。 キイがミヤコの卵そのものに対してどのような反応を示すか調べたところ、卵2個に対しては避けなかったが、20個に対しては忌避を示した。この反応は、托卵をしないチリカブリダニ(以下、チリ)の卵に対しても同様だった。キイは自分の卵がある産卵場所に好んで産卵する。そこにミヤコの卵を2個追加すると、キイは自身の産卵場所への選好性がなくなり、20個追加すると避けるようになった。一方、チリの卵を追加しても、キイは自身の産卵場所に好んで産卵し続けた。キイが自身の卵を守っている場所にミヤコやチリの卵を追加し、托卵がキイの卵の生存に及ぼす影響を検証したところ、ミヤコの卵が20個あるときのみキイの卵の生存率が低下した。また、キイの卵をミヤコおよびキイの幼虫と一緒にしたこところ、ミヤコの幼虫がいる時のみキイの卵の生存率が低下した。つまり、ミヤコの卵の存在ではなく、孵化した幼虫による卵の捕食によって、キイの卵が低下することが明らかになった。これらの結果から、托卵するミヤコの個体数が多いほど、キイは自身の卵を保護することが出来なくなり、産卵場所を放棄しやすくなることが示唆された。 これらの成果は、第83回日本昆虫学会で招待講演、第68回日本応用動物昆虫学会で一般公演で発表された。また、関連する内容の論文は、国際学術誌であるFunct Ecol, Oecologiaに掲載され、Anim Behav, Exp Appl Acarolへの掲載が決定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、卵を保護する種(キイカブリダニ、以下、キイ)と保護しない種(ミヤコカブリダニ、以下、ミヤコ)が卵捕食者(ミカンキイロアザミウマ、以下、アザミウマ)とともに自然界で共存する機構として托卵が重要な役割を果たすことを示すため、以下の3点、(I) アザミウマによる卵捕食のリスクに対するミヤコの産卵選好性、(II) ミヤコの産卵に対するキイの産卵選好性と卵の保護、(III) アザミウマによる卵捕食のリスクに応じたキイ・ミヤコ・アザミウマの共存、について注目して研究を行う計画である。 (I)の研究内容は昨年度実施し、その成果として本年度、Functional Ecologyにおいて学術論文として公表した。また、その新規性から、数多くの新聞においてその成果が紹介された。一方、研究計画で本年度に予定した(II)の研究内容は、上述の「研究実績の概要」で説明した通り、キイが托卵されたミヤコの卵の数に応じて産卵場所を変化させ、それは自身の卵の生存率の低下を防ぐことにつながることが示された。これに関連する成果は、学会発表や学術誌を通じた社会に向けて公表された。 上記のような理由から、本研究課題の進捗状況はおおむね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題を推進していくうえで最終年度は、卵捕食者(ミカンキイロアザミウマ、以下、アザミウマ)キイカブリダニ(以下、キイ)・ミヤコカブリダニ(以下、ミヤコ)・アザミウマの共存、について検証を行う予定である。その際、キイとミヤコにとって餌であり卵捕食者でもあるアザミウマ幼虫の齢期や密度を検討する。アザミウマ1齢幼虫よりも2齢幼虫の方が卵捕食が強いことは知られているが、卵捕食が強すぎるとキイが卵を保護することが出来なくなる可能性がある。予備実験として、卵捕食が起きた場合にキイの産卵場所への反応やミヤコの托卵がどう変化するかを調べる。一方、本年度の研究結果よりキイの産卵場所にミヤコの卵が多く産卵されると、キイは産卵場所を放棄することが分かった。そのため、キイとミヤコを1:1の比率でアザミウマとともに維持し、キイあるいはミヤコの存在によってアザミウマと共存しやすくなるかどうかを調べる。キイのみではアザミウマは食い尽くされるが、キイとミヤコがいることによってアザミウマを含めた3種が共存しやすくなるという結果を予想している。 昨年度は、共同研究者でもあるオランダ・アムステルダム大学のArne Janssen博士のもとを訪問し、実験方法、結果の解析、実験の解釈などについて議論を行う予定であったが、先方と都合が合わず訪問できなかった。円安や航空運賃の高騰などの問題もあるが、今年度こそは研究をまとめるにあたって研究打ち合わせを行いたと考えている。もし無理な場合には、時差の問題があるもののオンライン会議などで対処する予定である。
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Report
(2 results)
Research Products
(17 results)