メキシコ先住民村落部における災害脆弱性の解明:民俗知を活かす地域防災モデルの構築
Project/Area Number |
22K12547
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 80010:Area studies-related
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
小林 貴徳 専修大学, 国際コミュニケーション学部, 准教授 (90753666)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
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Budget Amount *help |
¥1,170,000 (Direct Cost: ¥900,000、Indirect Cost: ¥270,000)
Fiscal Year 2024: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
Fiscal Year 2023: ¥260,000 (Direct Cost: ¥200,000、Indirect Cost: ¥60,000)
Fiscal Year 2022: ¥260,000 (Direct Cost: ¥200,000、Indirect Cost: ¥60,000)
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Keywords | 先住民コミュニティ / 災害をめぐる民俗知 / 資源化 / 集合的記憶 / 生活防災 |
Outline of Research at the Start |
本研究は、現代メキシコの先住民コミュニティに継承される災害に関する民俗知(被災の記憶や災害をめぐる伝承)を、社会に役立つ知識や知恵を供する資源(知的資源)として再評価し、多文化・多民族国家の成員たる先住民の社会参加に新たな展望を示すものである。 自然災害を多次元的なプロセスとして捉える本研究では、災害発生時に露呈する先住民コミュニティの災害脆弱性を通時的・共時的な実証的分析により明らかにする。そのうえで、公的機関が導入する標準化された防災対策では見過ごされがちな民俗知を、社会実装が可能な知的資源として積極的に活用し、来るべき災害に備える持続的な地域防災力の強化を探る。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、現代メキシコの先住民コミュニティに継承されてきた被災の記憶や災害に関する伝承の実証的分析をつうじ、社会に役立つ知識や知恵を供する資源(知的資源)として再評価し、多文化・多民族国家の成員たる先住民の社会参加に新たな展望を示すことである。 令和4年度には、被災後の生活再建の遅れの背景を探るため、ゲレロ山岳部の先住民族トラパネカの村落にて調査を実施した。研究実施一年目の計画に沿って、〔A〕被災の記憶のアーカイブ化と〔B〕集合的記憶の物語化という二つの柱のうち、〔A-1〕災害発生前後に関する証言のテキスト分析、〔B-1〕自然現象をモティーフとする説話の蒐集を進めた。 地域住民に対する聞き取り調査をとおし、2013年に発生した大規模土砂災害の経験、その後の生活再建のプロセスで直面した問題について複数の証言が得られた。そうした断片的な記憶をつなぎ合わせる作業によって、災害に対する脆弱性はコミュニティ内部で複雑に絡み合う利害関係に起因しているとの仮説が追認された。これは、地域社会に張り巡らされた緊張関係が、被災という危機的状況において表面化しうる実例として重要な成果である。 また、調査地域における公教育には防災学習の機会が欠如しており、それが災害発生時の公助依存を強めるとともに、自助の意識啓発や共助の仕組みづくりを阻害する要因となっていることが明らかとなった。そこで、持続的な生活防災を地域社会に創出・定着させることを意図して、初等中等教育機関と連携した取り組みに着手した。役場の市民防災課や学校教員とともに、若年層を対象とする防災ワークショップを企画し、具体的な実施方法について協議を重ねた。次年度以降の開催を想定したこのワークショップは、過去の災害に関する説話の絵巻物や防災啓発ポスターの制作など、生活に密着し、かつ地域住民の主体参加を促す活動で構成される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実施計画一年目の進捗状況はおおむね計画通り進行しているといえる。地元住民に対する聞き取り調査を主体とするフィールドワークでは、被災後の復興計画がいかに停滞しているのか重要な証言が得られた。連邦政府が投入する財源が地域住民のニーズとはかけ離れた災害対策に用いられたり、被災直後からコミュニティ内部に軋轢が生じ、生活再建の過程で住民のあいだの対立が深刻化したりという、当初の予測を超えて極度に政治化した実態が浮き彫りとなった。 聞き取り調査を順調に進めることができた要因として、これまでに地域住民との間に構築してきた信頼関係にくわえて、現地研究協力者との事前調整が十全に済まされていたことがあげられる。今後の展開でキーパーソンとなる地元行政や教育機関の担当者との連携状況も計画どおりであり、二年目の調査活動に向けた態勢は万全といえる。 他方で、想定を上回っていたのが、研究対象地域における生活インフラ整備の発展状況である。ここ数年のあいだに進められた連邦政府の振興政策によって村内の舗装状況が大幅に改善されたほか、電波塔建設による携帯電話の使用がはじまり、それが若年層にまで及んでいる。かつて公共の電話交換所が村に一か所あっただけだったことを考えると、webアプリを用いたメッセージの送受信がいつでもできる状況は、地域社会内部のコミュニケーションの質、量、速度を激変させたといえる。パソコンやインターネット、wifi環境を整えた世帯も日々増加傾向にある。次年度以降は、こうしたIT環境の整備が地域社会にどのような影響を及ぼしているのか見極めつつ、防災学習への活用を視野に入れた研究活動を進める。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度の取り組みに引き続き、〔A〕被災の記憶のアーカイブ化と〔B〕集合的記憶の物語化という二つの柱を中心課題として研究活動を推進するが、なかでも〔A-2〕被災の経験の仕方や語り方の世代別・村落別の比較分析については、とくに力を入れる。同じ災害を対象とする語り口の差異を、世代やジェンダー、エスニシティなど属性の違いに求め、得られるデータのテキスト分析を図る。統計上で必要となる標本数を確保するために、地元役場や学校機関、ならびに共同利用地管理組合の協力のもとアンケート調査を実施する方針である。今後の研究推進において、初等中等教育機関との連携はもっとも重視すべき項目である。とりわけ、小学校の理科や中学校の地学の担当教員の協力のもと、既存の教育に生活防災の学びを節合するプログラムの構想に着手する。 その一方、〔B-1〕自然現象をモティーフとする説話の蒐集については、その活動の範囲を広げる計画である。ゲレロ州山岳部の先住民族(ナワ、ミシュテカ、トラパネカ)だけではなく、同州海岸部の先住民族アムスゴや、植民地時代に奴隷として強制連行された人びとの子孫であるアフロ・ミスティソのコミュニティも視野に入れて研究調査に取り組むこととする。
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Report
(1 results)
Research Products
(1 results)