ドイツ語圏における日本の伝統音楽の受容-日本音楽に関する独語文献の分析を通して-
Project/Area Number |
22K12999
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Research Category |
Grant-in-Aid for Early-Career Scientists
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
Basic Section 01050:Aesthetics and art studies-related
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
田辺 沙保里 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 基幹研究院研究員 (20913271)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,680,000 (Direct Cost: ¥3,600,000、Indirect Cost: ¥1,080,000)
Fiscal Year 2026: ¥390,000 (Direct Cost: ¥300,000、Indirect Cost: ¥90,000)
Fiscal Year 2025: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
Fiscal Year 2024: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
Fiscal Year 2022: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
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Keywords | 独語圏における日本音楽研究 / ハインツ=ディータ・レーゼ / 外国人による日本音楽研究 / 比較音楽学と民族音楽学 / 日本音楽研究史 / 日本音楽受容 / アドルフ・フィッシャー / 義太夫節 / ドイツ語圏 / 仲介者 / 比較音楽学 / 異文化受容 / 日本の伝統音楽 |
Outline of Research at the Start |
本研究は、日本の伝統的な音楽文化が、異文化でどのように記述されたのかを検証することにより、西洋、特に比較音楽学が萌芽した独語圏における日本音楽受容の一端を明らかにするものである。 16世紀の旅行者、明治期の御雇外国人、20世紀初頭の学者など、異文化の橋渡しを行った様々な仲介者による、雅楽、声明、平家、能楽、浄瑠璃等に関する記述は、音楽学の資料としては今まで軽視されてきた。他方で、海外の研究者による優れた日本音楽研究を活用しきれていないという現状もある。これらの文献を収集、解読することで、日本音楽受容の遷移を明らかにし、異文化接触の場で形成された日本音楽表象の解明への展開を目指す。
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Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、昨年度にケルンで収集した文献資料の解読作業が主な活動となった。その中で特に着目した文献が、1901年に出版された月刊誌に掲載されたアドルフ・フィッシャー(Adolf Fischer 1856-1914)の執筆による「日本の舞台芸術とその発展」である。ここには、20世紀初頭に書かれた数少ない文楽についての記述が見られたので、現在調査を進めている。 日本音楽に関する独語文献を調査する過程で、雅楽や能に比較して文楽についての記述は非常に少なく、特に義太夫節に関するまとまった出版物は現時点で見つかっていない。そのような状況下で、元ケルン日本文化会館(独立行政法人国際交流基金海外拠点)職員であるハインツ=ディータ・レーゼ(Heinz-Dieter Reese 1952-2024)は、1979年の修士論文「十八世紀の義太夫三味線の最初の稽古本『浄瑠璃三味線ひとり稽古』について―訳譜と復原の試み―」において、三味線、特に義太夫三味線についての資料、文献を調査し、楽器についての詳しい解説や五線譜への採譜を行なっており、これは独語圏での浄瑠璃に関する先駆的な研究であると言える。しかしながら、彼自身がこの論文の内容は不十分であり、慎重な検討が必要であるため出版はできないと断念し、未完のままとなっている。今年度の渡航で初めてその内容の閲覧が叶い、義太夫節の一次資料を丹念に翻訳した膨大な分析が残されていることが判明した。未完とはいえ「西洋の耳目を通して日本音楽がいかに受容及び研究されたのかを明らかにする」という本課題に合致し、1970年代にケルンで隆盛した民族音楽学における日本音楽研究の重要な一端を担っていると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度の渡航調査で、研究協力者であるハインツ=ディータ・レーゼ氏が自宅書庫に多数の日本音楽関連のドイツ語資料を所有していることが明らかになった。そのため今年度の渡航においても引き続き彼の書庫を訪れ、書誌情報や論文の一部の複写を行なった。アルファベット順に並べられたそれらの文献資料を一通り最後まで閲覧することができたため、概ね目標通りの進捗状況である。翌年度中には、これらの文献資料の目録整理を終えたいと予定している。 レーゼ氏はドイツ語圏における浄瑠璃研究の先駆的存在と考えられるが、そのアプローチは、日本の音楽学者からの資料提供や日本でのフィールドワークに基づいている。そのため先行研究に、それ以前に書かれた独語文献はほとんど使用していないと述べており、実際に彼の所蔵する独語資料のうち特に浄瑠璃についての資料を中心的に探索したが、断片的な記述が見つかったのみである。その中で発見されたアドルフ・フィッシャーの論考は、20世紀初頭に書かれた内容としては当時の状況がよく観察され記述されているため、慎重に解読を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
①『日本音楽論著解題目録』[Tsuge 1986 Japanese Music : An Annotated Bibliography. New York: Garland Pub.]に掲載された独語文献、及び、レーゼ氏の所蔵する資料を体系的に整理し目録の完成を目指す。②上記文献を解読し論文にまとめる。③ケルン日本文化会館、ウィーン大学、ドイツ国立図書館、大英図書館、ロンドン大学(SOAS)、ドイツ東洋文化研究協会(OAG)等にも調査範囲を拡大し、日本音楽に関する独語文献を収集する。 調査の過程で、フィッシャーの論考のように舞台芸術としての文楽を扱った文献は見つかるものの、ドイツ語圏における浄瑠璃の音楽学的研究はほとんどないことが明らかになった。レーゼ氏への聞き取り調査において、それ故に自身の義太夫節研究が難航したことを伺い、1979年に彼が執筆した未完の修士論文を複写させていただいた。出版こそされていないものの、この分析の成果はドイツ語圏における先駆的な浄瑠璃研究として取り上げるべき内容だと考える。これは調査の過程で派生的に目にした資料であるが、結果的に今年度の渡航のハイライトとなり、「西洋音楽の語法を文化土壌とする欧州、とりわけ、比較音楽学の起点であるドイツ語圏において、日本の伝統的な音楽種目が、どのように伝達されてきたのか」という研究テーマの問いに合致する重要な資料と位置付けられる。 今後はこの論文の執筆過程について聞き取り調査を実施しながら、彼の日本音楽の理解方法について詳細に紐解きたいと考えていた。しかしながら、レーゼ氏は不慮の出来事で2024年2月に急逝された。今後は資料収集などの協力も得られなくなり調査の難航が予想されるが、次年度以降も今までの氏のご協力に報いるべく、まずは既存資料からの展開を模索したい。
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Report
(2 results)
Research Products
(1 results)