Project/Area Number |
22K14171
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Early-Career Scientists
|
Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
Basic Section 18040:Machine elements and tribology-related
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山下 直輝 京都大学, 工学研究科, 特定助教 (50847746)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
|
Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
|
Budget Amount *help |
¥4,550,000 (Direct Cost: ¥3,500,000、Indirect Cost: ¥1,050,000)
Fiscal Year 2023: ¥2,210,000 (Direct Cost: ¥1,700,000、Indirect Cost: ¥510,000)
Fiscal Year 2022: ¥2,340,000 (Direct Cost: ¥1,800,000、Indirect Cost: ¥540,000)
|
Keywords | トライボロジー / 金属石鹸 / 脂肪酸 / 原子間力顕微鏡 / 中性子反射率測定 / 添加剤 / 潤滑 / 中性子反射率法 |
Outline of Research at the Start |
有機系の潤滑添加剤は金属表面に「吸着分子膜」を形成し,「金属石鹸膜」へと変化するが,詳細な現象解明には至っていない.本研究では,この膜の状態変化における摩擦や温度の影響を詳細に評価する.そのために,原子間力顕微鏡を使った吸着力や摩擦力の測定によって添加剤と金属間に働く結合力の温度/時間依存性を明らかにして,物理吸着から化学吸着,および金属石鹸への状態変化について摩擦特性と関連させた評価を行う.また,中性子反射率測定を利用して金属表面の腐食をサブナノメートルレベルで測定することによって,高温環境で金属石鹸膜が生じる際の金属最表面と吸着分子膜の状態変化を詳細に分析する.
|
Outline of Annual Research Achievements |
有機系の潤滑添加剤は,金属表面に「吸着分子膜」を形成して摩擦を抑制する.この分子膜は,連続的な摩擦やそれに伴う発熱の影響で低せん断特性を持つ「金属石鹸膜」へと変化するが,詳細な現象解明には至っていない.本研究では,吸着分子膜が金属石鹸膜へと変化する過程での摩擦や温度の影響を調査し,それぞれの膜状態とトライボロジー特性を関連づけることを目指す. この実現のため,2022年度は,脂肪酸が金属石鹸へと変化する時間変化に着目した研究を主に実施した.中性子反射率測定を利用した実験では,金属表面の腐食をサブナノメートルレベルで測定することによって,時間に応じて金属石鹸膜が生じる際の金属最表面と吸着分子膜の状態変化を詳細に分析した.その結果,銅薄膜の腐食は潤滑油に浸漬直後に生じ,その後常温静置した場合には腐食が進行しないことがわかった.一方で,周波数変調型の原子間力顕微鏡(AFM)を使用した脂肪酸由来の吸着分子膜または金属石鹸膜の膜厚測定では,20nm程度の層が形成されていることを確認した.また,ステンレス微粒子を接着したAFMカンチレバーを基油中で基板へ押し付けた後に引き離す動作を与えたときに,押し付けた時間が長いほど引き離す際に大きな力が必要となる傾向がみられた. 本研究で得られる成果は,高温環境においても低摩擦を発揮できる高性能な添加剤や,摺動部での腐食摩耗の影響が少ない添加剤を設計するための指針となり,機械や金属加工における摩擦ロスの抑制につながることが期待される.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は,銅表面に形成された脂肪酸の吸着分子膜が金属石鹸膜へと変化する過程の分析を中心に行った.中性子反射率測定には,銅薄膜を成膜した基板と脂肪酸を添加剤として含む複数種類の潤滑油を使用した.その結果,潤滑油中に浸漬後10時間以内に銅薄膜はナノメートルレベルで腐食するが,その後10日間常温で放置しても同等の膜厚を維持していた.一般に銅は酸によって腐食するため,銅薄膜は時間経過に伴って膜厚が減少するものと考えていたが,その予想は覆された.現在,得られた反射率プロファイルに対してフィッティング解析を行っている段階であり,減少した膜厚を明らかにしていく予定である.一方で,周波数変調型原子間力顕微鏡を使って脂肪酸を含む潤滑油中での観察を実施した結果,滴下数時間後の観察では分子鎖長に概ね対応する2nm程度の分子膜の形成が確認されたが,数日間常温放置した場合には,20nm程度に厚膜化することを確認した.以上の結果をまとめると,銅表面は潤滑油に浸漬して1日以内にナノメートルレベルで腐食するが,その表面には数十ナノメートルの厚さで金属石鹸膜が堆積している.この厚膜の金属石鹸膜は中性子反射率測定において明瞭に確認できなかったことから,金属石鹸膜中には銅薄膜から溶出した銅原子が濃縮されている様子はなく,中性子反射率測定では判別しにくい脂肪酸分子が多くの割合を占めているものと予想された.また,シリコンチップ上にカルボン酸末端を持つシランカップリング剤の分子膜を形成し,ステンレス微粒子を接着したAFMカンチレバーを基油中で基板へ押し付けた後に引き離す動作を与えてフォースカーブ測定を行った.試行段階ではあるが,押し付けてから引き離すまでの静置時間が長いほど引き離す際に大きな力が必要となる傾向がみられた.これは,基板上のカルボン酸とステンレスとの間で化学結合が進行した可能性を示唆している.
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は脂肪酸が銅表面に吸着して石鹸へと変化していく時間過程について調査した.次年度も引き続き調査を行うとともに,温度の影響に注目した評価も進める.具体的には,まずは温度を室温から100℃程度まで昇温しながらAFMを使った表面観察と摩擦測定を行う.AFMでの実験に使用する基板は,シリコン上に銅薄膜のラインパターンが形成されたものを用意することによって,添加剤が形成する膜の厚さを摩擦と同時に測定できるため,両者の関係を探ることが可能である.また,AFMによるフォースカーブ測定を行って添加剤が形成する膜の弾性率測定や,凝着力などの物性評価に取り組む.摩擦測定と同様にして温度制御しながら実験を行うことによって膜状態と温度の関連付けを行う.吸着力や摩擦力の測定によって添加剤と金属間に働く結合力の温度/時間依存性を明らかにして,物理吸着から化学吸着,および金属石鹸への状態変化について摩擦特性と関連させた評価を行う.また状況に応じてマクロ摩擦試験も実施する. 中性子反射率測定では,金属と重水素化した試料が高感度検出されるため,重水素化していない通常の潤滑油を使用すれば,吸着分子膜やバルクの基油層は検出されず,金属最表面の腐食のみを可視化できる.一方で,重水素化した基油と重水素化していない添加剤の組み合わせによる従来手法での測定も別途行う.これらの測定を加熱を行いながら実施することによって,前者の実験で見積もった金属の腐食量を,後者の従来測定でのフィッティング解析時のモデルに組み込み,これまで実現できなかった腐食環境下で添加剤分子が形成する膜構造の精密分析を実施する.
|