Project/Area Number |
22K18458
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Research (Exploratory)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
Medium-sized Section 1:Philosophy, art, and related fields
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Research Institution | Akita University of Art |
Principal Investigator |
唐澤 太輔 秋田公立美術大学, 大学院, 准教授 (90609017)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石倉 敏明 秋田公立美術大学, 大学院, 准教授 (90649310)
萩原 健一 秋田公立美術大学, 大学院, 准教授 (30512628)
林 文洲 秋田公立美術大学, 大学院, 助手 (80914580)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥6,370,000 (Direct Cost: ¥4,900,000、Indirect Cost: ¥1,470,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,560,000 (Direct Cost: ¥1,200,000、Indirect Cost: ¥360,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,560,000 (Direct Cost: ¥1,200,000、Indirect Cost: ¥360,000)
Fiscal Year 2022: ¥3,250,000 (Direct Cost: ¥2,500,000、Indirect Cost: ¥750,000)
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Keywords | 粘菌 / 変形菌 / 原形質流動 / 心臓音 / リズム / 渦 / 同期 / 環世界 / 心拍 |
Outline of Research at the Start |
本研究の特色は、粘菌への視座から粘菌の視座への転回にある。本研究では、粘菌という原初的生命体を、いかにして「内側」から知る(直観する)ことができるかに挑戦する。そこで、本研究では、人間と粘菌との同期(シンクロ)について考察を深めていく。そして、人間の基本リズムである心拍と粘菌の基本リズムである原形質流動のシンクロによって生まれる感覚をアートとして表現し、さらにそれを言語化していく。 本研究では、種の壁を越える同期法の可能性を示すことで、人間の「環世界」を揺るがすことを目指す。そして、その成果(作品および記録冊子)は、バイオアートの分野の基礎資料にもなり得るものだと考えている。
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Outline of Annual Research Achievements |
2023年5月に人間の心臓音の収録を学内においてワークショップ形式で実施した。山川冬樹(本学大学院准教授)に協力を仰ぎ、教員・助手・学生18名の心臓音を収録した。その後、うまく整音できた10名の心臓音をランダムにつなぎ、これを変形体の脈動を表現するアートとして昇華した。具体的には、粘菌(Fuligo septica)をモチーフとしたインスタレーション作品〈NENKIN!!!!〉内で使用した(秋田公立美術大学開学10周年記念展、秋田市文化創造館、7月6日-8月7日)。これは、縦6.7m、横4.0m、高さ3.4mあり、微小な粘菌をあり得ないほど巨大化することで、観賞者の感覚を揺るがすことを目的に制作された。作品はステージ状になっており、観賞者はそこに上がることができる。床下には振動スピーカーを仕込み、収録・整音した心臓音が鳴り響くよう設計した。通常人間には感じることのできない粘菌の脈動を模した心臓音を、足元から全身に響き渡るようにすることで、粘菌と人間とのシンクロを図った。制作は、本学の学生・教職員の有志で結成された粘菌研究クラブで行なった。展示は約1ヶ月間行われ、その間多くの来場者が訪れ、不思議な観賞体験を提供することができた。 その他「かみこあにプロジェクト2023」(秋田県上小阿仁村、8月27日-9月18日)、H∞L Gallery(八戸学院大学短期大学部、11月10日-29日)、「あそびのはじまり2023」(秋田市文化創造館、9月30日-10月1日)等で展示を行った他、樹脂粘土を使用したワークショップ(南方熊楠記念館、6月11日)や粘菌研究者の川上新一氏を招聘し、粘菌採集観察会2023(9月23日)等を実施した。 以上の成果は、秋田公立美術大学粘菌研究クラブ2023活動記録冊子『Cosmographia』vol.4に掲載した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2023年度は、非常に順調に研究および制作を進めることができた。特に、人間の心臓と粘菌の原形質流動の脈動を探求したアート作品を制作し公開することができたことは大きな成果であった。〈NENKIN!!!!〉内の音源制作は、心臓音や骨伝導音を使用するアーティストでもある山川冬樹の協力が大きい。2022年度は、心臓音収録機材の操作に慣れず研究がなかなか進まなかったが、2023年度は、山川による協力によりその遅れを取り戻すことができた。また本作品においては、修士課程2年生の呉芸舟(現在本学大学院博士課程1年生)がマケット制作、学部卒業生でアーティストの早坂葉と研究分担者の林文洲がステージ制作を中心的役割を担った。全体を彩る黄色のラグマットのカットやウェットフェルティングの制作などは、学部4年生の後藤那月(現在本学研究生)を中心に進められた。 心臓の脈動と原形質流動は全く同じものではない。しかしながら、この微小な生物が活動する律動を擬似的にでも可聴化あるいは体感化させることは、ヒューマンスケールを覆し、人間以外の生物へ眼差しを向けさせる一歩となるはずである。その意味で、本研究の目的の一つでもある「種の壁を越える同期法の可能性を示すこと」に大きく寄与できるものとなったのではないかと思われる。 また、研究実績の概要でも示したが、南方熊楠記念館でワークショップ(〈ぺたぺた・もにょもにょ in 紀南〉)を開催した。これはカラフルな樹脂粘土を捏ね、変形体を模しながら窓ガラスに貼り付けていくというものである。興味深いことに、渦巻き模様を作る参加者が多かった。そこで、古来、人間の心の深層には渦巻き(スパイラル)がセットされているのではないかという仮説に至った。その後、ユングの『元型論』などの文献を調査し、また粘菌以外のプライマルな生物の形についても考察を深めていくことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度の研究で新たに見出した「渦」というプライマルな形について、粘菌と関連させながら考察をしていく。「渦」に関しては、研究代表者の唐澤とニットクリエイターの蓮沼千紘によるクロストークイベントでも議論を深めることができた。 これまで、細胞性粘菌は渦を形成すること知られてきたが、真正粘菌の場合はどうであろうか。この疑問について、実際に野生種の粘菌を採取・観察しながら研究していく。同時に、生物に共通する可能性のある根源的リズム、つまり前進と後進あるいは上昇と下降による独特な律動について考察していく。その成果は、秋田公立美術大学粘菌研究クラブ2024記録冊子『Cosmographia』vol.5で広く公開していく。研究代表者は、引き続き南方熊楠による粘菌に関する言説を調査し、その成果の一部を論文などで公開する予定である。 変形体の動態の撮影は、夏季に集中的に実施し、研究分担者と協力しながら記録・編集していく。また、樹脂粘土や毛糸等を使用したワークショップを継続的に実施していく予定である。これらは、粘菌を知らない人々に、興味を持ってその存在を知ってもらう効果的な手法であると考えている。 代表者の所属大学では、粘菌研究クラブが学際的あるいは領域横断的な研究プラットフォームとして機能しており、今後の研究でも引き続き本クラブをベースに活動を行なっていく。研究分担者は、引き続き国内外の粘菌とアートの動向を調査も行う。
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