共生細菌と宿主のせめぎ合いが生み出す性決定カスケードの多様化
Project/Area Number |
22K19166
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Research (Exploratory)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
Medium-sized Section 39:Agricultural and environmental biology and related fields
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鈴木 雅京 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (30360572)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中 秀司 鳥取大学, 農学部, 准教授 (00443846)
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Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
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Budget Amount *help |
¥6,500,000 (Direct Cost: ¥5,000,000、Indirect Cost: ¥1,500,000)
Fiscal Year 2023: ¥2,600,000 (Direct Cost: ¥2,000,000、Indirect Cost: ¥600,000)
Fiscal Year 2022: ¥3,900,000 (Direct Cost: ¥3,000,000、Indirect Cost: ¥900,000)
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Keywords | 性決定 / 性分化 / 雄決定遺伝子 / 雌決定遺伝子 / piRNA / W染色体 / マイマイガ / embryonic RNAi / 共生細菌 / 進化 / 有性生殖 |
Outline of Research at the Start |
生物間で普遍的なプロセスに関わるメカニズムやその責任遺伝子には強固な保存性がみられる。一方、性はあらゆる多細胞生物において普遍的にみられるにも関わらず、性決定プロセスには驚異的な多様性がみられる。有性生殖の根幹に関わるプロセスになぜ多様性が生じるのか、様々な仮説が立てられてきたが、実証されたケースは稀である。この謎の解明に挑戦すべく、本研究課題では申請者が今までの研究を通して辿り着いた「共生細菌と宿主のせめぎ合いが性決定プロセスに多様化をもたらす」との仮説を検証する。本研究が成功すれば、共生細菌に対抗するためも宿主が進化させた性決定機構の多様化プロセスを解明できる。
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Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度はマイマイガの性決定遺伝子を同定することに専念した。本申請課題が始動した時点で、我々はいくつかの鱗翅目昆虫において雄化に関わることが知られる遺伝子MasculinizerのマイマイガオルソログLdMascを同定し、この遺伝子が性決定時期において雄で高発現することを既に明らかにしていた。そこで令和4年度はLdMascがマイマイガの雄化遺伝子として機能しうるか機能解析を行うことから始めた。マイマイガ産下卵を対象とした顕微注射法を確立し、dsRNAを卵に注入することによりembryonic RNAiを可能にした。この手法を用いて性決定時期(産下後3日目の卵)におけるLdMascの発現を抑制したところ、雄において性分化制御遺伝子dsxの発現が雌型にシフトすることが判明した。LdMascをカイコの卵巣由来培養細胞で過剰発現させたところ、雄型dsxの発現が誘導された。以上の結果から、LdMascはマイマイガの雄化遺伝子であると結論した。次に雌化遺伝子を同定するため、複数の組織において雌でのみ発現し、雌ゲノムにしか存在しない遺伝子をスクリーニングした結果、4つのunigeneを得ることができた。これらは互いによくにた塩基配列をコードしており、雌ゲノムの特定の領域において推定で107コピーから成るタンデムリピートを形成していた。そこでこれらのunigeneをFet-W名付け、その発現を解析したところ、性決定時期において雌特異的な発現を示すことがわかった。embryonic RNAiによりFet-Wの発現を抑制すると、雌におけるLdMascの発現量が増加し、dsxの発現が雄型にシフトすることが判明した。Fet-WはLdMascに相補的な21 ntの配列をコードしていたことから、カイコのFem同様piRNAを介してLdMasc mRNAを分解することで雌化を誘導すると予想された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マイマイガの性決定機構が多様化の途上にあることを示唆するいくつかの証拠に基づき、その多様化の様相を分子レベルで解明し、性決定機構の多様化がもつ適応的意義を明らかにすることが本研究の目的である。研究開始時点で雄決定遺伝子の候補として、既にLdMascを同定していたが、機能解析には至っておらず、雌決定遺伝子については候補すら得られていなかった。しかも、公開されたゲノム情報は整備途上の段階にあり、RNAiなどの機能解析ツールも存在せず、独自に開発する必要があった。我々は先ずこれらの問題を克服することにした。ロングリードシーケンサーを用いてゲノムリシーケンスを行い、平均鎖長数Mbpの341個のcontigからなるWGSを得ることができた。独自に取得したW染色体特異的PCRマーカーを利用し、総塩基長約8Mbpに及ぶW染色体由来ゲノム配列を決定した。これにより、W染色体に座乗する雌決定遺伝子の同定への道が拓くことができた。さらにマイマイガ卵への顕微注射法を確立し、embryonic RNAiを用いた機能解析を可能にした。 以上の基盤技術の整備を行った上で、雌決定遺伝子及び雄決定遺伝子の同定を行った。複数の組織についてRNA-seqを行い、発現量に有意な性差を示す遺伝子群を同定した。これらの中からメス特異的に発現する遺伝子を同定し、さらにW染色体に座乗する遺伝子を同定したところ、W染色体の特定の領域に104コピーからなるタンデムリピートを形成するユニークな構造を有する遺伝子(Fet-W)を特定できた。embryonic RNAiによりLdMascとFet-Wがそれぞれ雄分化、雌分化に関わることを明らかにできた。わずか1年間のうちにマイマイガの雄化遺伝子と雌決定遺伝子の両方を同定することに成功した。以上の理由から本研究は順調に進んでいると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの成果により、マイマイガの雌決定遺伝子と雄決定遺伝子として、Fet-WとLdMascを同定することができた。マイマイガの性決定様式は雌へテロ型を採用することから、Fet-Wが性決定のマスター制御因子として働くと予想される。同様の性決定様式を採用するカイコでは、雌決定遺伝子Feminizer(Fem)から産生されるPIWI-interacting RNA(piRNA)が雄決定遺伝子Mascから産生されるmRNAを分解することで、雌決定のマスターとして働く。前年度の成果により、Fet-WがpiRNAクラスター様の構造を示すこと、さらにLdMascに相補的な68塩基程度の塩基配列をコードすることが明らかとなった。このことはFet-WがpiRNAを介してLdMascの働きを阻害する可能性を示唆する。そこで今年度はFet-WからpiRNAが産生されていることを明らかにするため、性決定時期の雄及び雌胚子におけるsmall RNA-seqを行う。その結果同定されたpiRNAにより、実際にLdMasc mRNAが切断を受けることを実証するため、modified RACEを行い、切断部位のマッピングを行う。 過去の研究によると、北海道北見市産のマイマイガ雌と青森県野辺地町産のマイマイガ雄を交配すると、F1が全て雄になると記載されている。その原因として、北見産マイマイガの雌決定遺伝子の活性が低い(野辺地産が強い)との考察がなされている。そこでマイマイガ地域集団間で性決定遺伝子に違いがみられるか明らかにするため、北海道北見市、青森県野辺地町に生息するマイマイガを捕獲し、それらにおけるFet-WとLdMascの遺伝子構造やそれらの発現パターンを明らかにする。また、北見産、野辺地産の間で交配実験を行い、実際にF1が全て雄になるのか、雄になるとするならその原因は何かを特定する。
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Report
(1 results)
Research Products
(10 results)