Project/Area Number |
22K19271
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Research (Exploratory)
|
Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
Medium-sized Section 43:Biology at molecular to cellular levels, and related fields
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
茶竹 俊行 京都大学, 複合原子力科学研究所, 准教授 (30383475)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤原 悟 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子生命科学研究所, 専門業務員 (10354888)
田中 伊知朗 茨城大学, 理工学研究科(工学野), 教授 (20354889)
角南 智子 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子生命科学研究所, 主幹研究員 (50554648)
|
Project Period (FY) |
2022-06-30 – 2025-03-31
|
Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
|
Budget Amount *help |
¥6,500,000 (Direct Cost: ¥5,000,000、Indirect Cost: ¥1,500,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,950,000 (Direct Cost: ¥1,500,000、Indirect Cost: ¥450,000)
Fiscal Year 2023: ¥2,080,000 (Direct Cost: ¥1,600,000、Indirect Cost: ¥480,000)
Fiscal Year 2022: ¥2,470,000 (Direct Cost: ¥1,900,000、Indirect Cost: ¥570,000)
|
Keywords | 水和 / 中性子 / 構造解析 / 蛋白質 / D/Hコントラスト / タンパク質 |
Outline of Research at the Start |
蛋白質を取り囲む水和水はバルク水とは異なり、動きの大きさが違う水分子が混在した構造を持つ。しかし、構造解析の主流であるX線結晶解析では動きが大きい水分子を捉えることが困難であり、水和水の完全な姿は未だ明らかになっていない。 我々は、中性子線を駆使して蛋白質結晶の水和水中の全ての水分子の配置と運動を決定する。中性子線の軽水素と重水素の散乱長の違い利用した実空間中性子D/Hコントラスト法によって高感度で水分子の配置を決定し、結晶内の水分子の動きを中性子準弾性散乱で決定する。この二つの手法を組み合わせることで、動きの大きさが違う水分子が水和水混在した水和水の全貌解明を目指す。
|
Outline of Annual Research Achievements |
水和水は蛋白質が正しく働くためには必要不可欠な存在であるにもかかわらず、その完全な姿は未だ明らかにされていない。何故ならば、蛋白質表面がもつ多様な性質を反映して、水和水内には動きが大きい水分子と動きが小さい水分子が混在しているためである。この複雑な構造を明らかにすれば、蛋白質水和の全貌解明の大きな糸口となり、さらには生体分子設計など応用分野への波及効果が期待される。本研究では、中性子線を用いて水和水の構造を明らかにする。中性子D/Hコントラスト解析で、中性子線は弾性散乱と非弾性散乱の両方において、水素 (H) と重水素 (D) で散乱長が大きく異なる。これを利用して、弾性散乱で水分子の位置を、準弾性散乱で水分子の運動を決定する。これを実現するために、以下の三つの実験を進めている。 (1)中性子D/Hコントラスト解析: この実験では中性子結晶解析 (弾性散乱) によって、実空間D/Hコントラストを計算して水分子の水素位置を詳細に決定する。22年度は D/Hコントラスト図から、既存の解析を上回る数の水分子を決定することに成功した。23年度は分子動力学法で計算した水和水の構造と比較、検証を行った。この結果、我々の水和水の構造解析が合理的な結果をもたらすことの確証が得られた。 (2)低温下での中性子D/Hコントラスト解析: 低温で熱振動を抑制すると、より高精度での水和水の構造解析が可能となる。当初は結晶の凍結を高圧凍結法で実現する予定であったが、諸事情により、別の凍結法を試行することに変更した。予備実験で確認は取れており、24年度に凍結と中性子実験を予定している。 (3)中性子準弾性散乱測定: 実験に必要な結晶の作成と結晶密閉用セルの検討を行い、中性子実験の申請をJ-PARCに行った。リザーブの評価であったため、より高い優先順位を得るために、(1)の結果を反映した再申請を予定している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の根幹である (1)中性子D/Hコントラスト解析は予想以上の進展があった。22年度には, 実空間D/Hコントラスト図を探索して、数多くの水分子を同定した。23年度は、研究計画にしたがい、計算科学でこの結果を検証した。分子動力学法による生体分子結晶の水分子のシミュレーション (研究分担者: 角南) を行い、専用のPythonスクリプトを作成して中性子解析との比較検討を行った。その結果、蛋白質表面からのD/Hコントラスト密度の分布は、分子動力学計算の結果と相同性があり、差分も合理的な説明が可能であった。これにより、我々の開発した方法で、従来を凌駕するD/H原子の同定が可能なことを確認できた。以上をもって、中性子D/Hコントラスト解析法は水和水解析の手法として確立したと結論できる。また、その検証過程で得られた科学計算の結果から、より深い水和水の考察に成功した。今後は追加研究を進める予定である。 (2)低温下での中性子D/Hコントラスト解析は、23年度には結晶凍結を高圧凍結法 (研究分担者: 田中) で実施する計画であった。予定していた結晶準備は行うことができた。しかし、凍結装置の一部が故障してしまい、装置の修理と別方法の模索を並行した。この結果、結晶凍結はコーティング剤を用いた凍結法に変更して、24年度に行うこととなった。 (3)中性子準弾性散乱測定は、 中性子散乱の専門家 (研究分担者: 藤原など)と共にJ-PARCの共同利用の申請を行い、24年度上半期はリザーブ (ビームタイムに余裕ができた場合には、実施の可能性あり) の結果を得た。確実に実験を実施するために、改良した申請書を再度提出する予定である。 以上をまとめると、メインの(1)が想定以上の進展をしている一方で、これをサポートする(2)(3)は予定より少々遅延している。総合するとおおむね順調に進展していると結論できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究実施計画に記載した三つの研究目的について、推進方策を記載する。 (1)中性子D/Hコントラスト解析: これは、非常に順調に推移している。24年度は論文発表、学会発表を進めると同時に、追加研究を進める。我々は現在使用しているリゾチーム結晶以外にも、リボヌクレアーゼ結晶についても実空間D/Hコントラスト解析に必要な中性子データを有している。このデータについても解析を試みる。さらに、(3) の中性子準弾性散乱測定の結果が得られた場合には、弾性散乱 (位置解析) と準弾性散乱 (運動解析) の統合的な考察を試みていく。 (2) 低温下での中性子D/Hコントラスト解析: 23年度は実験に用いるリゾチーム結晶を作成した。一方で、高圧凍結法による結晶凍結は装置の一部の故障により、最終的に凍結方法を変更することで解決することにした。研究分担者 (田中) は、高圧凍結法に加えて、コーティング剤を使用した凍結法を有している。この方法では凍結前にコーティング剤で結晶周辺を覆い、凍結時の結晶の破壊・劣化を防ぐ方法である。分担者はリゾチーム結晶でこの方法による凍結と放射光実験に成功しており、本研究でも適用可能であると考えられる。24年度はこの方法で結晶凍結を試みる。また、これに際しては試行実験が必要と予想されるため追加の結晶作成を行う。 (3) 中性子準弾性散乱測定: 23年度は事前準備を終了して、J-PARCへの申請を行った。一方で、研究分担者 (藤原) が、所属機関を23年度末で退職し、科研費の応募資格を喪失するために、研究体制を変更する必要が生じた。24年度は、研究代表者と同所属の井上倫太郎准教授に研究協力者として参画していただき、研究代表者ともに進めていく予定。井上准教授は中性子散乱の専門家であり、準弾性散乱の経験も豊富である。また、研究代表者との共同研究の実績もあり、研究に支障はない。
|