Fundamental and historical research on "Gukansho"
Project/Area Number |
22K20025
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
0102:Literature, linguistics, and related fields
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Research Institution | Hyogo University of Teacher Education |
Principal Investigator |
児島 啓祐 兵庫教育大学, 学校教育研究科, 講師 (90963439)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
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Budget Amount *help |
¥2,860,000 (Direct Cost: ¥2,200,000、Indirect Cost: ¥660,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,430,000 (Direct Cost: ¥1,100,000、Indirect Cost: ¥330,000)
Fiscal Year 2022: ¥1,430,000 (Direct Cost: ¥1,100,000、Indirect Cost: ¥330,000)
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Keywords | 愚管抄 / 徳川光圀 / 青蓮院 / 多武峰 / 慈円 / 松平忠房 / 林鵞峰 |
Outline of Research at the Start |
本研究は、日本中世天台宗の僧侶・慈円著述の歴史書『愚管抄』の諸本分類を通じて善本を見出す基礎的研究であるとともに、本文史・伝来史を解明する享受史的研究でもある。『愚管抄』の内容分析においては、豊富な研究蓄積があるものの、基礎的かつ享受史的研究に限っては半世紀余りほとんど進展が見られない上に、見過ごしがたい根本的な誤りも認められる。すなわち本研究は『愚管抄』研究の基盤を固めつつ、中近世における読者の歴史をも見出すものである。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究では新出の和田琢磨氏蔵本『愚管抄』(以下、和田本)の紹介とその諸本における位置づけ及び伝来史的意義について考察した。諸本比較を通じ和田本が天理本と近似する本文を有していることを指摘した。その上で両本の書写態度の違いから天理本と和田本は一部巻が入れ替わって伝来しており、それらは多武峰の学僧が行取りまで意識して書写した光栄本(天理本巻一~五・七、和田本巻六)と行取りは意識しておらず一層漢字表記を増やした重本(和田本巻五・天理本巻六)に整理できることを明らかにした。光栄本及び重本の原本注記(傍記・貼紙)に注目し両本が共通の親本を持つ兄弟関係にあることを示した。両本が底本としているのが、坂口太郎氏(高野山大学)よりご教示いただいた、尊証親王に寄進された光圀本(成簣堂文庫所蔵)である。この二本の比較対照により表記や行取りは残しているものの親本の光圀本を積極的に校訂し本文を改変しているのが光栄本であり、表記は変更しているものの光圀本の本文を忠実に写しているのが重本であることが判明した。この二本の意義は『愚管抄』の校訂研究に益するというよりは、光圀本を基に同一形態の写本が同じ場所で複数回作られていたことになり、近世中期の青蓮院や多武峰における光圀本を尊重する態度がうかがえる点において伝来史的意義が認められることを指摘した。さらに光圀本が贈られた尊証に関して、『華頂要略』を中心に光圀との関係を考察した。江戸前期においては希世の書であり、青蓮院にゆかりの深い慈円著述の『愚管抄』が、慈円を心より慕い敬い、没後は慈円を顕彰する塔の側に埋葬してほしいと願う尊証親王に贈られるということ、それ自体が、光圀と尊証の親密な交流を物語るものであると論じた。光圀本の影響力を伝える光栄本や重本は、近世における『愚管抄』享受の実態を探る上で不可欠な本であると位置づけた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
拙稿「光圀本系『愚管抄』伝来考――成簣堂文庫本・天理本・新出写本の関係をめぐって」(『國學院雑誌』124巻1号 2023年1月)の81・82頁及び拙稿「『愚管抄』本文再考―島原本の性格と意義―」(『中世文学』67 2022年6月)44頁内でとりあげた成簣堂文庫本の『愚管抄』に関して坂口太郎氏(高野山大学)にご教示いただいたことや、和田琢磨氏(早稲田大学)から新出の『愚管抄』零本をお示しいただいたことが実に大きく、光圀本系『愚管抄』の調査が進展し、成簣堂文庫本・新出本、天理図書館本の関係が明らかになり、当該年度においては前述の拙稿(2023年)を公刊することができたため、おおむね研究計画は順調に進展しているものと考えられる。坂口氏、和田氏の御学恩に心より感謝申し上げたい。特に坂口氏からは、新出の『愚管抄』断簡資料(古筆切)に関しても、ご提示いただいており、その恩義は計り知れないところである。お示しいただいた新出資料についても検討が進んでいることもあり、当該年度の研究は問題なく進行しているものと捉えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は坂口太郎氏(高野山大学)にご教示いただいた愚管抄切2点を含む、現在知られる『愚管抄』の古筆切7点(鎌倉時代~南北朝時代)の本文比較を進め、改めて従来善本として知られる島原本『愚管抄』の異なる評価を見出したい。既に坂口太郎氏が「『愚管抄』校訂私考」(『古代文化』68-2 2016年9月)において文明本系の再評価を行い、島原本に疑義を呈しているように、本研究においてもその視点を継承しつつ、青蓮院門跡における慈円の権威化の視点から尊円周辺写本としての伝来史的意義が見出せるものとして、島原本や同系統の阿波本『愚管抄』を位置づける研究を実施していきたい。なお、拙稿「『愚管抄』本文再考―島原本の性格と意義―」(『中世文学』67 2022年6月)の88頁における古筆切に関する言及(殊に「南北朝」という情報の記載)は坂口氏にご教示いただいた新出資料に基づいた情報である。氏の多大な御学恩に心より感謝しつつ、それに応えられるように研究のさらなる進展を目指したい。
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Report
(1 results)
Research Products
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