Project/Area Number |
22K20194
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
0108:Sociology and related fields
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Research Institution | Independent Administrative Institution National Institutes for Cultural Heritage Tokyo National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
大川 柚佳 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 文化遺産国際協力センター, アソシエイトフェロー (10952070)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
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Budget Amount *help |
¥1,430,000 (Direct Cost: ¥1,100,000、Indirect Cost: ¥330,000)
Fiscal Year 2023: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
Fiscal Year 2022: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
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Keywords | 計量テキスト分析 / 言説分析 / 保存修復 / 修復倫理 / 専門職倫理 / 概念メタファー / 文化財保存 / メタファー / 医療倫理 |
Outline of Research at the Start |
文化財保存修復の語りにおいて「修復家は文化財の医者である」という比喩が慣例的に用いられる。また、西洋圏における近現代保存修復学の発展は医学分野の科学技術や専門職倫理の成果に負うところが大きい。こうした両学術分野の類比構造に着目し、本研究は、保存修復家の職業像の形成機序が医療の比喩によってどのように方向付けられてきたかを明らかにする。そのために、20世紀以降の修復関連文献を対象として医療の比喩表現を収集分類し、作品や所有者と修復家の間にある関係と責任について言説分析を行う。本研究によって、例えばトリアージのような医療概念や制度の修復分野への応用可能性を検討するための道具立てを提供する。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、文化財保存修復家像の形成機序の一端を明らかにすることである。そのために、概念メタファー理論に基づいて「保存修復家は文化財の医者である」というメタファーに着目する。20世紀後期から今日にかけての保存修復学文献中にみられる医療のメタファーを調査することで、医療概念がどのように保存修復概念の形成に影響を与えてきたかを考察する。全体的な計画として、まず対象となる文献を収集、テキスト化し、医療のメタファーを示す単語の出現傾向を計量的に分析する。その後、個別のテキストに対し、メタファーの構造を保存修復学・医学両分野における倫理制度の制定時期などに照らしつつ考察する。 2022年度の半年間では上記の量的・質的分析に先立ち、先行文献調査及び分析データの収集整理を行った。 先行文献調査では、①本研究が依拠する概念メタファー理論の研究動向を把握した。②保存修復以外の学術分野における、医療のメタファーを主眼とする研究動向の検討を行った。これにより、メタファーとして使用されてきた医療関連単語を洗い出した。③保存修復学の文献を対象に、これまで保存修復と医療との関連を論じた記述を整理し分類した。②で洗い出したメタファー単語リストおよび③で得た記述分類は、計量分析時に使用する予定である。 分析データの収集整理では、1975年~2021年の間にICOM-CC(国際博物館会議保存国際委員会)大会のTheory, History, and Ethics of Conservationワーキンググループ内で発表された論文のうち英文120件のPDFデータをテキスト化した。分析の事前準備として、表記ゆれや誤字の修正を行いエクセルデータにまとめた。また計量テキスト分析ソフトウェアKH Coderを用いるための作業環境を整備した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
保存修復理論・歴史・倫理をテーマとする文献からテキストデータを収集し、分析可能なエクセルファイルにまとめた。また、医療のメタファーとして用いられうる単語のリスト作成および、保存修復学における医療のメタファーへの言及の分類を行った。これにより2023年度以降に実施する分析に必要なデータを準備できたため、概ね順調に進んでいると判断した。ただしメタファーの特定方法には複数の議論があるため、今後リストを基に計量分析を進めるにあたって、本研究でどの範囲までメタファーを拾えるかには課題が残る。コウビルド英英辞書を活用しつつ、必要に応じて専門家の助言を仰ぎながら引き続きリスト内容を検討する。また計量分析と並行して言説分析の手法を固める。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目となる2023年度上半期には、KH Coderを用いた計量分析を行い、保存修復学文献中に見られる医療のメタファーの出現傾向を明らかにする。結果をマッピングし、9月に開催されるICOM-CC第30回大会にて発表する。先行研究調査において、他専門分野では医療のメタファーが初学者教育に活用されていることが分かったため、分析結果や進捗状況によってはICOM-CC内のTraining in Conservation and Restorationワーキンググループの論文も分析対象として視野に入れている。 下半期には、保存修復家像の形成における医学の影響を明らかにするため、上記マッピングをもとに個別のテキストを分析する。医療のメタファーによって保存修復のどの側面が、どの話題の時、どのような評価に基づいて強化されてきたかを明らかにするため、分析を2段階に分ける。まず〈保存修復家は医者である〉に着目し、修復家の社会的意義の確立と発信が医学の社会的地位ならびに方法論に依拠するという仮説について考察する。この際、保存修復が分野ごとに外科・整形・臨床などになぞらえられてきた経緯や効果についても検討する。次に〈ものは患者である〉に焦点を当てる。制作物と人間の存在の差異、特に意思決定の自律性を問題とし、修復家がものとステークホルダーに対してとるアプローチの変化を、医師と患者の関係性の変化と比較する。本成果を論文として執筆し所属学会誌へ投稿する。
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