肥満状態の脂肪細胞におけるβ-アドレナリンシグナル減弱機構の解明と食品科学的応用
Project/Area Number |
22K20572
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Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
0601:Agricultural chemistry and related fields
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川原崎 聡子 京都大学, 農学研究科, 特定研究員 (60965169)
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Project Period (FY) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
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Budget Amount *help |
¥2,860,000 (Direct Cost: ¥2,200,000、Indirect Cost: ¥660,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,430,000 (Direct Cost: ¥1,100,000、Indirect Cost: ¥330,000)
Fiscal Year 2022: ¥1,430,000 (Direct Cost: ¥1,100,000、Indirect Cost: ¥330,000)
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Keywords | UCP1 / HCAR1 / β-アドレナリンシグナル / 乳酸 / 3-hydroxybutyrate |
Outline of Research at the Start |
β-アドレナリン受容体 (β-AR) 刺激により発現が誘導される脱共役タンパク質1 (UCP1) はエネルギー消費の亢進を介した肥満解消への貢献が期待されている。しかし、肥満によりβ-ARシグナルが減弱することが知られており、その分子機構は不明である。本研究では独自の検討により見出したβ-ARシグナル調節分子hydroxylic acid receptor 1 (HCAR1) とその内因性アゴニスト乳酸に着目し、肥満によるβ-ARシグナル減弱機構の解明を目指す。さらに内因性HCAR1アンタゴニスト3-hydroxybutyrateの肥満予防・治療に対する応用の可能性を探る。
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Outline of Annual Research Achievements |
細胞実験においては、褐色脂肪組織由来細胞株に対してβ-アドレナリン受容体 (β-AR) アゴニストisoproterenol (iso) およびHCAR1アゴニスト3,5-dihydroxybenzoic acid (DBA) を共添加したところ、iso添加時のUCP1発現量がDBAにより有意に減少した。さらにisoにより上昇する細胞破砕液中のcAMPがDBA添加により有意に減少した。また、β-ARシグナルを介したUcp1発現誘導に寄与する転写因子cAMP response element binding protein (CREB) の活性を示すリン酸化レベルを評価したところ、iso添加により亢進したリン酸化がDBAにより有意に抑制された。これらの結果はHCAR1がGi共役型のGPCRとしてβ-ARシグナル経路の活性調節に寄与し、Ucp1発現調節能を示すことを支持するものである。加えて、HCAR1アゴニストとして作用する代謝産物である乳酸もDBA同様にiso添加時のUcp1発現量を有意に減少させた。また内因性の乳酸による効果を検証するため、乳酸産生を亢進する低酸素条件でiso添加を行ったところ、通常酸素条件と比較してUcp1発現量が有意に減少した。この結果から、脂肪細胞が産生する乳酸もβ-ARシグナルを介したUcp1発現誘導調節に寄与する可能性が見出された。 動物実験においては、脂肪細胞特異的lactate dehydrogenase A (LDHA) ノックアウトマウスに対して寒冷刺激を行った。その結果、通常食負荷条件下では褐色脂肪組織において、高脂肪食負荷条件下では鼠径部白色脂肪組織においてUcp1発現量が増加する傾向が見られた。しかし、組織内乳酸濃度も含めてノックアウトによる影響が顕著ではなかったため、より適した実験条件を検討する必要があると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は①脂肪細胞を用いたHCAR1およびそのアゴニスト乳酸のUcp1発現調節能およびそのメカニズムの検証、②脂肪細胞特異的LDHAノックアウトマウスを用いた乳酸のβ-ARシグナル調節能の検証、の2点を計画していた。①に関しては合成アゴニストを用いた検討によりHCAR1がβ-ARシグナル活性化によるUcp1発現誘導効果を減弱させること、そのメカニズムとしてcAMP濃度の減少を介したCREBの活性抑制が寄与していることが明らかになった。さらに乳酸添加によりβ-AR刺激時のUcp1発現量が減少すること、低酸素条件で乳酸産生が亢進するとβ-AR刺激時のUcp1発現量が減少することを見出した。これらの結果から、HCAR1がβ-ARシグナル抑制作用を持つことが示唆された。乳酸についても合成アゴニスト同様にUcp1発現調節に寄与する結果が得られたが、この効果がHCAR1を介するものであるかは今後評価する必要がある。②に関しては、脂肪細胞特異的LDHAノックアウトマウスに対して寒冷刺激を与えることで乳酸のβ-ARシグナルに対する抑制効果の検証を試みた。その結果、通常食負荷時、高脂肪食負荷時ともに一部の脂肪組織においてノックアウトマウスのUcp1発現量が上昇する傾向が見られた。しかし、組織内乳酸濃度の差が確認できず、Ucp1発現量に対する効果も顕著なものではなかったことから、より適切な実験条件を検討する必要があると考えられる。以上より、一部検討の余地は残されているが、概ね期待通りの成果が得られていると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度も引き続きHCAR1および乳酸のβ-ARシグナルに対する効果を細胞および動物実験系で検証する。細胞実験系では、HCAR1のβ-ARシグナルおよびUcp1発現に対する影響をレポーターアッセイなどの手法を用いてより詳細に評価するとともに、乳酸がUcp1発現に対して及ぼした効果がHCAR1を介していることをHCAR1のノックダウン・ノックアウトにより確認する。これらの検討をはじめとして、HCAR1および乳酸のβ-ARシグナル活性調節を介するUcp1発現調節への寄与を解明するための検討を行う。加えて、HCAR1アンタゴニストとしての報告がある3-hydroxybutyrateを用いた検証を通じてHCAR1の活性抑制を介したβ-AR刺激応答性Ucp1発現誘導増強効果が得られるか検証する。動物実験系では、2022年度に顕著な結果が得られなかった脂肪細胞特異的LDHAノックアウトマウスに対するβ-AR刺激実験の最適な条件を検討し、その条件で脂肪細胞由来の乳酸がUcp1発現に及ぼす影響を検証する。Ucp1発現に影響を及ぼすことが確認された後には、β-AR刺激下での熱産生能やエネルギー消費量に対する影響などの評価を通じて脂肪細胞由来の乳酸が全身のエネルギー代謝に及ぼす影響を総合的に評価する。さらに当初の研究計画に加え、HCAR1の合成アゴニスト投与下でのβ-AR刺激応答性のUcp1発現量や熱産生能などを評価し、HCAR1の活性調節がUcp1発現をはじめとする全身の熱産生能やエネルギー代謝に及ぼす影響を検証する。
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Report
(1 results)
Research Products
(3 results)