Project/Area Number |
22KJ0435
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Project/Area Number (Other) |
22J21168 (2022)
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Multi-year Fund (2023) Single-year Grants (2022) |
Section | 国内 |
Review Section |
Basic Section 16010:Astronomy-related
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
尾形 絵梨花 筑波大学, 理工情報生命学術院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥3,400,000 (Direct Cost: ¥3,400,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,100,000 (Direct Cost: ¥1,100,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,100,000 (Direct Cost: ¥1,100,000)
Fiscal Year 2022: ¥1,200,000 (Direct Cost: ¥1,200,000)
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Keywords | ブラックホール / 輻射流体シミュレーション / 超巨大ブラックホール / 銀河進化 / 超大質量ブラックホール形成 / 降着円盤 / 数値シミュレーション |
Outline of Research at the Start |
太陽の数億倍以上の質量をもつ超大質量ブラックホール(BH)の形成過程の途中では、比較的質量の小さな中質量BHが銀河内を漂いながらガスを吸い込み成長することが有力視されている(Bondi-Hoyle-Lyttleton降着)。この降着過程において、BH降着円盤が生成する非等方的な輻射が周囲のガスに与える影響はまだよく分かっていない。本研究では、3次元輻射流体力学シミュレーションを駆使し、非等方輻射場を考慮したBondi-Hoyle-Lyttletonスケールのガスの運動を、その数億分の1のスケールのBH降着円盤の構造と自己矛盾なく解き、中質量BHの成長率を明らかにする。
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Outline of Annual Research Achievements |
超巨大ブラックホール形成過程の解明への第一歩として、中間質量ブラックホールが星間物質中を浮遊しながら周囲の物質を吸い込み進化するシナリオに着目し、その成長率を調べるための空間3次元放射流体シミュレーションを行った。これは、浮遊する中間質量ブラックホールの周囲のガス円盤が生成する非等方な放射場と、星間物質中に含まれる固体微粒子の昇華過程という現実的な状況を取り入れた世界で初めてのシミュレーションである。 シミュレーションの結果、降着円盤の回転軸付近では物質はブラックホールから離れる方向に運動し、逆に、円盤面に沿った方向の物質は効率的にブラックホールに吸い込まれることが分かった。回転軸周辺には、プラズマ領域が現れる。星間物質はもともと中性原子や分子から構成されるが、円盤からの強力な紫外線放射によって光電離するのである。また、物質中の固体微粒子に働く甚大な放射の力(気体の1000倍の大きさ)によって、ブラックホールから遠ざかる流れも現れる。ただし、プラズマ領域の中心部では、回転軸付近であってもガスはブラックホールに吸い込まれることが分かった。これは、固体微粒子が昇華することで、ガスが放射の力をほぼ受けないためである。ただし、この回転軸付近に現れる昇華領域から降着する物質の量は円盤面付近からの降着量のたかだか10分の1である。円盤面付近では、放射の影響は限定的であり、重力による物質の効率的な吸い込みが実現する。物質吸い込みが円盤面付近に制限されることで、ブラックホールに吸い込まれる物質の量は、放射を考慮せずに重力だけで換算した従来の理論予想の約100分の1となることを突き止めた。さらに、中間質量ブラックホールが超巨大ブラックホールに進化するためには、星間物質の密度が1e6/cm^3以上である必要があることも解明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究成果が査読付き学術学会誌であるMonthly Notices of the Royal Astronomical Societyに筆頭著者として受理された(Ogata et al. 2024a)。その成果が評価され、6件の査読付き国際会議(口頭発表)、7件の国内会議(口頭発表5件, ポスター発表2件)での発表に繋がった。今年度は、昨年度改良した計算コードを用いて、中間質量ブラックホールの周囲のガス円盤が生成する非等方な放射場と、星間物質中の固体微粒子の昇華過程という現実的な状況を取り入れた3次元放射流体シミュレーションに世界で初めて成功した。その結果、星間物質がブラックホールの周囲の円盤からの非等方な放射によって受ける影響を考慮しつつ、ブラックホールが物質を吸い込む様子を明らかにした。さらに、中間質量ブラックホールが超巨大ブラックホールへと進化できる星間物質の密度の条件の大規模調査も行った。その結果、物質による放射の遮蔽効果が顕著となる高密度な環境(1e6/cm^3)では、中間質量ブラックホールは大量の物質を吸い込んで超巨大ブラックホールへと急成長できることを明らかにした。これらは、現代天文学の最重要課題の一つである超巨大ブラックホールの形成過程の解明に直結する重要な成果である。この超巨大ブラックホールの形成条件に関する成果は現在論文にまとめている最中で、近々投稿予定となっている。以上のように、これまでの研究成果が論文および学会発表に結びついており、また、新たな研究も順調に進展していることから概ね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
放射輸送計算による中間質量ブラックホールの模擬観測を実施する。模擬観測データをTMTやJWSTによる将来観測と比較することで、放射流体シミュレーションによる中間質量BHの理論モデルの妥当性を検証する。具体的には、本年度実施した計算で得られた中間質量ブラックホール周囲の流体場に対して、降着円盤で生成された光子の星間物質による吸収・散乱・放射を考慮しつつ、観測者のもとに届く光子を計測することで、放射スペクトルを計算する。使用する放射輸送コードは、すでに独自で開発が終了しており、計算の実行から解析まで速やかに行うことができる。
また、本年度実施した計算で得られた中間質量ブラックホール周囲の流体場を、降着円盤の構造を解く一般相対論的放射流体計算コード(Asahina et al. 2020)の外部境界条件として組み込んだ計算を実施する。これにより、放射流体シミュレーションで内部境界条件として仮定していた降着円盤の放射分布の詳細を明らかにする。すでに、共同研究者の朝比奈氏(筑波大学)や大須賀氏(筑波大学)とともに、実装に向けた密な議論を始めており、採用終了時までに計算は終了する予定である。当初の研究計画では、採用終了時までに論文執筆・出版も行う予定であったが、空間スケールが約10桁も異なる一般相対論放射流体シミュレーションと放射流体シミュレーションの融合研究の難易度の高さや計算コストの大きさを踏まえ、論文の執筆は採用終了後に取り掛かる予定とする。ただし、これまで誰も成し得なかった幅広い空間スケールの天体現象を自己無矛盾に繋ぐ本計画が成功した暁には、ブラックホール理論天文学に大きなインパクトを与える確信がある。時間をかけて計算・解析を行う意義は十分にあると考えている。
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