野外ミジンコ個体群の長期共存を支える休眠卵生産の分子基盤の解明
Project/Area Number |
22KJ0443
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Project/Area Number (Other) |
22J00738 (2022)
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Multi-year Fund (2023) Single-year Grants (2022) |
Section | 国内 |
Review Section |
Basic Section 45040:Ecology and environment-related
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
丸岡 奈津美 宇都宮大学, バイオサイエンス教育研究センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2026-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,420,000 (Direct Cost: ¥3,400,000、Indirect Cost: ¥1,020,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,430,000 (Direct Cost: ¥1,100,000、Indirect Cost: ¥330,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,430,000 (Direct Cost: ¥1,100,000、Indirect Cost: ¥330,000)
Fiscal Year 2022: ¥1,560,000 (Direct Cost: ¥1,200,000、Indirect Cost: ¥360,000)
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Keywords | ミジンコ / 休眠 / 競争 / 共存 / ゲノム編集 / 幼若ホルモン / 共存機構 / 絶対単為生殖 / 種内競争 |
Outline of Research at the Start |
生物の多種共存は生物学共通の重要課題である。日本に広く生息する絶対単為生殖型ミジンコ (Daphnia pulex) では、複数クローナル個体群の共存に、休眠卵が重要な役割を果たすことが示唆された。餌をめぐる競争に劣位な個体群は、競争者の増殖を察知し休眠卵を多く生産することで競争優位な個体群との競争を回避し、個体群を維持している。しかし、休眠卵生産を制御する分子基盤は未解明であり、どのような遺伝子(群)が休眠卵生産の頻度やタイミングを支配しているのかわかっていない。本研究では絶対単為生殖型ミジンコの休眠卵生産の鍵となる遺伝子を特定し、野外でのミジンコ個体群維持機構を分子レベルでも明らかにする。
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Outline of Annual Research Achievements |
報告者は、山地湖に生息する絶対単為生殖型ミジンコ2系統は、餌をめぐる競争に優劣があるが、競争劣位な系統では休眠卵生産頻度が高いことを示し、この形質が競争劣位系統の個体群維持に重要であることを明らかにした。本課題の目的は、休眠卵生産の分子基盤および系統間の休眠卵生産の違いを生む分子基盤を明らかにすることである。 ミジンコ属は環境に応答して急発卵と休眠卵を産み分けるが、運命決定がいつ、どのような分子機構で起こるのかわかっていない。これまで報告者は、幼若ホルモン(JH)が、休眠卵生産を正に制御すること、JH暴露の影響が系統間で異なることを発見した。 2023年度は第一に、ミジンコ2系統を用いて、JH暴露前後の個体からRNAを抽出し、休眠卵生産が誘導される系統特異的に、暴露前後で発現変動する遺伝子を探索することで、休眠卵生産に関連してJHの下流で働く遺伝子を解析した。系統特異的にJH暴露後に発現が有意に変動する遺伝子を258個見つけ出し、中にはホルモン分泌に関わる遺伝子も含まれていた。次年度には有力な候補遺伝子の機能解析を行い、休眠卵生産に関わるかどうか確認する。 第二に、これまで得られていた休眠卵生産に関わると予想される候補遺伝子について、発現定量および機能解析を行った。qPCRにより候補遺伝子を選抜し、本年度は2つの遺伝子の機能解析を実施した。1つ目の候補遺伝子は、CRISPR/Cas9法によるヘテロおよびホモでのノックアウト個体の作製に成功した。次いで、ノックアウト個体を用いた飼育実験によって休眠卵生産に影響が出るのか調べたが、結果、休眠卵生産は変化しなかった。2つ目の候補遺伝子は阻害剤による機能解析を試みた。阻害剤を高濃度で暴露すると多くの個体が死亡してしまったが、一定の濃度で飼育すると、休眠卵誘導条件でも急発卵が生産された。引き続き、休眠卵生産への影響を検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、本年度は、休眠卵生産時特異的に発現変動している遺伝子を解析したRNA-seqにより得られた、休眠卵生産に関わる候補遺伝子の機能解析を実施した。候補遺伝子はミジンコ属において機能未知であるものが多かったが、qPCRによる発現定量やキイロショウジョウバエにおけるオーソログ遺伝子の機能から、有力な候補遺伝子を2つ選抜した。1つ目の候補遺伝子はミジンコ卵へのマイクロインジェクションによるCRISPR/Cas9法により、ノックアウト個体の作出に成功した。ヘテロおよびホモでのノックアウト個体を作出でき、急発卵・休眠卵を誘導する条件での卵生産、雄生産の観察を行った。結果、卵生産と雄生産ともに野生型と同様であり、個体や休眠卵の表現型にも差は見られなかった。2つ目の候補遺伝子はキイロショウジョウバエでのオーソログ遺伝子から機能が推定されたため、阻害剤による機能解析を実施した。高濃度の阻害剤暴露では多くの個体が死亡したが、死亡率の低くなる特定の濃度において休眠卵誘導条件で急発卵を生産する個体が出現した。ただし、阻害剤暴露での死亡率が高いことから、異なる経路で休眠卵生産が阻害された可能性も否定できない。 一方、昨年度、幼若ホルモン(JH)が休眠卵生産を誘導するという実験結果が得られている。このことから、JH暴露前後の個体を用いたRNA-seq解析によって、JHの下流で休眠卵生産のために働く遺伝子の探索を新たに実施した。すでに、候補遺伝子の中から、先に実施した解析と共通して得られた候補遺伝子や、ホルモンの分泌に関わることが他の生物から予測される遺伝子などを選抜しており、今後、機能解析を実施し休眠卵生産との関連を調査する。 このように、報告者は当初の計画以上の研究活動を行っており、研究はおおむね順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
休眠卵生産に関わる遺伝子の機能解析については、新たな機能未知遺伝子のCRISPR/Cas9法を用いたノックアウトを実施し、次年度も継続する。休眠卵生産頻度の高い、競争劣位系統において休眠卵を作らない変異型が作製できた場合には、同所的に生息する競争優位系統の野生型と混合して飼育する競争実験を実施し、競争劣位系統の休眠卵生産頻度が変わることで競争の結果が変化するかどうか観察したい。 また、阻害剤での機能解析を実施している候補遺伝子は、阻害剤の濃度を調整して再度、飼育実験をおこなう。さらに、この候補遺伝子は、JH暴露前後の個体を用いたRNA-seq解析においては、JH暴露後に発現が有意に上昇していたことから、JHの下流で働く遺伝子であることも予想されている。このことから、今後、急発卵誘導条件においてJHを添加すると休眠卵生産が誘導されることを利用し、さらに阻害剤を添加することで休眠卵生産の誘導が停止するかどうかを確認したい。
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Report
(2 results)
Research Products
(7 results)