回転型ケルビンプローブ法を用いた有機薄膜の自発配向分極の解明と新規制御法の開発
Project/Area Number |
22KJ0487
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Project/Area Number (Other) |
22J21883 (2022)
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Multi-year Fund (2023) Single-year Grants (2022) |
Section | 国内 |
Review Section |
Basic Section 35030:Organic functional materials-related
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
大原 正裕 千葉大学, 融合理工学府, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥2,500,000 (Direct Cost: ¥2,500,000)
Fiscal Year 2024: ¥800,000 (Direct Cost: ¥800,000)
Fiscal Year 2023: ¥800,000 (Direct Cost: ¥800,000)
Fiscal Year 2022: ¥900,000 (Direct Cost: ¥900,000)
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Keywords | 自発配向分極 / 間欠蒸着 / 回転型Kelvin probe / 有機EL / 巨大表面電位 / Giant Surface Potential / Orientation Polarization / Rotary Kelvin probe / Orientation Relaxation |
Outline of Research at the Start |
有機デバイスにおいて、分子配向とそれに伴う分極の制御は、現在、デバイス性能を向上させるために不可欠な技術となっている。従来は、基板温度と蒸着レートの制御で分子配向を制御するのが一般的であった。 本研究では、新たな制御法として、蒸着中に間欠的な成膜を行い、分極の方向と大きさを制御する方法を提案する。 実際に蒸着シャッターを一定間隔で開閉する間欠的な成膜を繰り返すことで、Alq3膜内の分極が反転することを発見した。これを他の分子群においても適用していくことで、有機デバイスの性能向上や新規デバイスの作製を目指す。
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Outline of Annual Research Achievements |
かねてから有機ELの性能向上を目指した研究を、独自に製作した測定装置を用いることで進めている。有機分子を真空蒸着(高真空中で物質を加熱して気化させ、基板に薄膜として堆積させるプロセス)する際にあえて蒸着を一時停止して“待ち時間”を導入し、その時間に分子の配向が変化していく様子を調べることで、有機ELの特性に直結する分子配向を任意に制御する新手法を開発してきた。 具体的には、新たな測定装置(回転型Kelvin probe)を開発し、従来は困難だった蒸着中のサンプルの表面電位をリアルタイムで測定し、配向変化の観測を実現することに成功した。また、この装置で代表的な有機EL材料であるAlq3分子を測定した結果、蒸着中や直後はある一定の配向度で分子が並ぶ一方、蒸着を一時停止すると配向が徐々にランダム化(=緩和)していくことも発見した。さらに、蒸着条件を変えることで、分子の頭尾の向きを逆転できることも実証した。これによって、Alq3単一の薄膜内に「V」字型のポテンシャルを形成できることを実証した。この結果は、同一の物質でできた層であるにもかかわらず、あたかも異なる材料を貼り合わせたかのような特性を持たせられることを示唆している。また、V字だけでなくより複雑なポテンシャルを任意に形成するための基礎技術となり、新しい電気的特性を持つデバイスの構築につながる可能性がある。 成果は学術誌ACS Applied Materials & Interfacesで公開され、日刊工業新聞をはじめとする国内外の様々なメディアで取り上げられた。その結果、当該論文のAltmetrics (論文の影響度の評価指標)は2024年2月時点で102と、Altmetricsによって追跡された全ての研究成果の上位2%に入っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は間欠蒸着法による配向分極制御を確立することに成功した。代表的な有機EL材料であるAlq3では分極の方向さえも反転することを実証し、ほかの分子においても配向がある程度緩和することを示した。 さらに当該年度中にドイツ・アウクスブルク大学へ3か月滞在し、共同研究を行った。現地では、角度分解蛍光発光測定法という別の方法を用いて分子の配向を評価した。その結果、Kelvin probeで評価された配向度を裏付けるようなデータを得ることに成功した。これにより、間欠蒸着による分子配向制御が、遷移双極子モーメントの配列による発光効率の向上に寄与する可能性があることが分かった。
また、回転型Kelvin probe装置は配向分極の測定のみならず、金属/有機・有機/有機界面で生じる界面双極子やバンドベンディングの測定にも非常に適している。蒸着中のリアルタイム測定によって、稠密な電位プロファイルが得られる(従来の手法と比較して10倍以上のデータ点数)。これによって理論的な界面エネルギー接続モデルと実測データをより詳細に比較でき、従来提案されている「有機界面でのFermi準位の一致」が本当に達成されるのか?といった根源的な問いに踏み込んでいくこともできる。本装置はその普遍性から、企業と協力し市販化へ向け進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
配向を制御しV字型のポテンシャルを内蔵した有機膜は、通常の膜とは異なる伝導特性を持ったり、電荷の蓄積によるメモリ特性を持ったりすることが期待されるが、現状ではそのような電気的特性の検証は行えていない。主な要因は、現状の回転型Kelvin probe装置が、基板に対する一様な成膜にしか対応しておらず、金属電極の形成ができないことにある。通常電気特性を測定する素子を製作する際には、一様な有機膜の上にメタルマスクを真空中で取り付けドット状に金属を蒸着する。現状の装置はこのマスクの取り付けに対応していないため、一旦試料を大気中に取り出してマスクを再度取り付ける必要があり、この際に有機膜表面が汚染されてしまう。 そこで回転型Kelvin probe装置を改造することにより、測定に使用する電極をマスクとしても使うことを考える。片方の電極にドット状の穴あけ加工した部品を作製する。穴が空いていない電極で有機膜の表面電位測定を行い、金属電極を蒸着する際には穴あき電極を基板の直上に移動させることでマスク代わりにする。このような改良により真空一貫でデバイスの作製が可能になる。膜中に複雑なポテンシャルを内蔵した素子の電気特性の測定例は今までになく、ポテンシャル形状と素子性能を比較して検証することで、有機エレクトロニクスにおける新たな素子作成プロセスを構築できると考えている。
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Report
(2 results)
Research Products
(13 results)