魔法数をまたぐ領域での断面積測定による核半径異常増大現象のメカニズム解明
Project/Area Number |
22KJ2193
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Project/Area Number (Other) |
22J20549 (2022)
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Multi-year Fund (2023) Single-year Grants (2022) |
Section | 国内 |
Review Section |
Basic Section 15020:Experimental studies related to particle-, nuclear-, cosmic ray and astro-physics
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
福留 美樹 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥2,500,000 (Direct Cost: ¥2,500,000)
Fiscal Year 2024: ¥800,000 (Direct Cost: ¥800,000)
Fiscal Year 2023: ¥800,000 (Direct Cost: ¥800,000)
Fiscal Year 2022: ¥900,000 (Direct Cost: ¥900,000)
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Keywords | 核物質状態方程式 / 中性子スキン / 相互作用断面積 / 荷電変化断面積 / 中性子魔法数 / プラスチックシンチレーションカウンター / 時間分解能 / 光電子増倍管 |
Outline of Research at the Start |
原子核は原子と同様に殻構造があるため、殻が完全に占有されると安定する。殻が占有される陽子数・中性子数は魔法数と呼ばれる。近年、中性子魔法数を境に荷電半径が急激に増大するという研究結果が多くの同位体で観測された。しかし、そのメカニズムは未だ解明されておらず、本研究では、それを中性子スキン、あるいは中性子の情報を含む核物質半径の測定によって明らかにしようとしている。
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Outline of Annual Research Achievements |
理想気体の圧力を温度と密度で表した理想気体の状態方程式があるように、中性子と陽子からなる核物質にも状態方程式が存在する。核物質は陽子と中性子から構成されるため、方程式には両者の密度の違いに依存する項を持ち、これを対称エネルギーと呼ぶ。 宇宙物理において、超新星爆発のメカニズムや中性子星(中性子が主な成分であり、恒星が超新星爆発を起こした後に残されると知られている)の構造は未だ完全には解明されていないが、これは中性子星のような陽子・中性子数が極端に非対称な系における核物質状態方程式の対称エネルギー係数の密度依存係数 L に不定性があることに起因する。非対称な核物質の性質をよく反映するという意味で、中性子過剰核の表面に存在すると考えられている中性子スキンは中性子星を調べるのに非常に良いプローブとなる。Lは中性子スキン厚の陽子・中性子非対称度依存性の傾きから直接決定することが可能であり、これまでにいくつかの方法で測定が行われている。しかし、これまでの実験値は安定核近傍の陽子と中性子の非対称度が小さい領域でしか測定されておらず、その値は測定方法によってばらつきがあるため、Lを一意的に決定することができていない。 上記の問題を解決するために、陽子と中性子の非対称度が大きい中性子過剰核での中性子スキン厚の測定を試みた。非対称度が大きい領域の実験値は中性子スキンの傾きに対して大きな感度があるため、Lを精度良く決定することが可能である。 核物質状態方程式は核物質内部の状態を表すので、体積に対する表面積の寄与が小さい中重核以上の原子核で測定を行う必要がある。そこで本研究では、核子あたり270MeVにおいて、質量数が58から78までのNi同位体の相互作用断面積、荷電変化断面積を系統的に測定した。実験は理化学研究所RIBFで行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、核子あたり270MeVにおいて、質量数が58から78までのNi同位体の相互作用断面積、荷電変化断面積を系統的に測定した。実験は理化学研究所RIBFで行った。現在の解析段階によって明らかになった結果を以下で報告する。 まず、相互作用断面積の実験結果と、Ni同位体の安定核の質量数に対する荷電半径の傾向を中性子過剰領域まで拡張して核半径を計算した理論値との比較を行った。しかし、その計算値は実験結果を再現しなかったので、先行研究で求められたハートリーフォック計算の物質半径に基づくグラウバー計算との比較を行ったところ、実験結果をよく再現した。これにより安定核に基づく核子密度の計算よりもハートリーフォック計算の方が優れていることが分かった。 次に、荷電変化断面積の実験結果と理論値との比較について説明する。質量数70までの荷電半径はレーザー分光により測定されているので、その領域ではレーザー分光の実験値との比較を行った。一方で、質量数71以降に関しては、中性子依存数が隣接核のCu同位体(荷電半径が既知である)と同様であると仮定して荷電半径の予測値を見積もった。先行研究(M. Tanaka et al., PRC106,014617(2022))により、荷電変化断面積から荷電半径を導出する過程において、安定核近傍の領域では中性子除去に伴う荷電粒子蒸発の影響により、荷電変化断面積を小さく見積もってしまうことが分かっている。しかし、質量数71以降の実験値と荷電粒子蒸発効果を考慮せずに計算した理論値は誤差の範囲内で一致した。これにより、質量数71以降の超中性子過剰な領域では、中性子が剥がれた時の荷電粒子の蒸発の効果はほぼ無視できるということが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
中性子スキン厚は原子核の中性子分布半径と陽子分布半径の差から導出する。そこで、相互作用断面積、荷電変化断面積という2つの物理量を用いて、中性子と陽子の分布半径を測定した。断面積とは物質に入射した粒子が物質中の原子核と反応を起こす確率のことである。相互作用断面積は入射粒子の核種が変化する総反応確率を示すため、衝突する2つの原子核の核半径(原子核全体の分布半径)をよく反映する。標的に核半径が既知である原子核を用いることで、入射粒子の核半径を調べることができ、後述する荷電変化断面積測定によって得られた陽子分布半径と組み合わせることで、中性子分布半径が導出できる。一方で、荷電変化断面積は入射粒子の陽子数が変化する総反応率を示すため、陽子分布半径を調べることができる。 進捗状況で述べたように、荷電半径が既知でない中性子過剰領域においても荷電変化断面積から荷電半径を導出できる準備ができたので、今後、中性子過剰領域での中性子スキン厚の導出を進めていく。最終的には、陽子と中性子の非対称度が非常に広い領域における中性子スキン厚の同一手法による系統的測定から対称エネルギー係数の密度依存係数Lを明らかにする予定である。
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Report
(2 results)
Research Products
(13 results)