薬剤投与による副作用発症は、血中濃度依存型と非依存型(アレルギー反応等)に分類される。血中濃度依存型のうち、血中濃度の治療域と副作用域が近いものでは頻回な血中濃度モニタリングを行うことで投与量を調節し、副作用を回避することができる。しかし治療域と副作用域の区分が不明瞭な薬剤については、通常血中濃度モニタリングは実施されず、標準量の投与後に副作用と治療効果をモニタリングし、必要に応じて投与量の調節が行われている。そのため、患者によっては投与開始後の数日間で著しい血中濃度上昇をみとめ、副作用発症により当該薬剤による治療を延期もしくは中止せざるを得ないこともある。本研究では、通常血中濃度モニタリングが実施されない薬剤のうち、筋緊張緩和剤である塩酸チザニジン(Tz)をモデル薬剤として、副作用強度の定量的予測式の構築を目指した。Tzの代謝経路は薬物代謝酵素であるCYPIA2のみと報告されており、CYPIA2阻害薬を併用することで血中濃度上昇とそれにともなう副作用(血圧・脈拍低下、眠気等)が発症することが知られている。本研究では、Tzの副作用の中でも血圧低下に着目し、健常被験者におけるTz投与後の血圧低下量の予測を試みた。まず初めにTzとCYPIA2阻害薬の併用試験を文献的に調査し、これらの結果より得られたTzの血中濃度上昇率とTz投与後の血圧の推移からTz投与後の血圧低下量を予測する式を構築した。本予測式の精度検証を目的として健常被験者を対象としたTzとCYPIA2阻害薬であるノルフロキサシン(Nx)の併用投与試験を実施した。この投与試験によりTzは、Nxの併用により単独投与時と比べて血中濃度が1.9倍に上昇することが確認された。この血中濃度の上昇率を上述の式に代入したところ、Tz単独投与時の血圧低下量とNx併用時の血圧低下量の差は平均1mmHg未満であると算出された。実際の投与試験により確認された血圧低下量の差は平均2.5mmHgであり、本予測式は精度良くTz投与後の副作用である血圧低下量を予測できることが明らかとなった。
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