脳と大腸を機能連関させる神経回路のリモデリングとその排便異常への関与
Project/Area Number |
23H00360
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (A)
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Allocation Type | Single-year Grants |
Section | 一般 |
Review Section |
Medium-sized Section 42:Veterinary medical science, animal science, and related fields
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
志水 泰武 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (40243802)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山口 裕嗣 名古屋大学, 環境医学研究所, 特任助教 (10542970)
伊藤 直人 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (20334922)
土井 謙太郎 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20378798)
内藤 清惟 鹿児島大学, 農水産獣医学域獣医学系, 准教授 (30794903)
宮脇 慎吾 岐阜大学, 応用生物科学部, 准教授 (70756759)
任 書晃 岐阜大学, 大学院医学系研究科, 教授 (80644905)
海野 年弘 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (90252121)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2024)
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Budget Amount *help |
¥46,800,000 (Direct Cost: ¥36,000,000、Indirect Cost: ¥10,800,000)
Fiscal Year 2024: ¥10,140,000 (Direct Cost: ¥7,800,000、Indirect Cost: ¥2,340,000)
Fiscal Year 2023: ¥12,870,000 (Direct Cost: ¥9,900,000、Indirect Cost: ¥2,970,000)
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Keywords | 消化管 / 排便 / 大腸運動 / 脊髄 / 下行性疼痛抑制経路 / 下行性疼痛制御経路 / ストレス |
Outline of Research at the Start |
睡眠障害、うつ病、不安神経症など脳の機能障害では、下痢や便秘などの排便異常が高頻度に併発するがその機序は不明である。本研究では、独自に開発したin vivoの実験系と先端技術を融合することにより、大腸運動が生体システムとして駆動するための脳と大腸の機能連関の解析基盤を確立する。具体的には、脳と大腸を機能的につなぐ制御回路の実態を解明し、この生体システムが動的に再構築(リモデリング)されることで様々な排便異常が生じることを立証する。本課題の達成により、中枢神経系の関与する排便異常の病態を解明するとともに、中枢神経をターゲットとする新しい治療戦略への道が拓けると期待できる。
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Outline of Annual Research Achievements |
睡眠障害、うつ病、不安神経症など脳の機能障害では、下痢や便秘などの排便異常が高頻度に併発するがその機序は不明である。本研究では、脳と大腸を機能的につなぐ神経回路の実態を解明し、この生体システムが動的に再構築(リモデリング)されることによって、様々な排便異常が生じるという病態生理学的な概念の立証を目的とする。 アデノ随伴ウイルスを2重感染させる方法で、延髄縫線核あるいは視床下部A11領域から脊髄排便中枢へ下行する神経に人工受容体DREADD(Designer Receptor Exclusively Activated by Designer Drugs)を発現させたラットを作出した。促進性のDREADDを発現させたラットに人工リガンド(CNO)を投与すると、大腸運動が亢進した。その亢進応答は脊髄内にモノアミンブロッカーを投与することによって消失した。同じ下行性神経を抑制性DREADDで機能抑制した場合には、侵害刺激を与えても大腸運動は亢進することがなく、水回避ストレスで誘発される排便も起こらなくなった。これらの結果から、縫線核とA11領域が大腸運動を制御する上位中枢であることが示された。 次に、線条体のドパミン神経を破壊してパーキンソンモデル動物を作成したところ、大腸内に侵害刺激を与えても大腸運動が亢進しないことが明らかとなった。正常動物では、侵害刺激に対して下行性セロトニン神経とドパミン神経からモノアミンが脊髄排便中枢で放出され、これらが大腸運動を促進する骨盤神経を活性化する。一方、パーキンソンモデル動物では、侵害刺激に対してGABA神経が活性化するようにリモデリングが起こるため、モノアミンの促進効果が打ち消され、結果的に大腸運動を亢進させる作用が発揮されないことがわかった。下行性神経系のリモデリングが、便秘の機序のひとつとなり得ることを示せたと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究のひとつの目的は、脳と大腸を機能的につなぐ神経回路を解明することである。本年度はアデノ随伴ウイルスを活用した機能的な実験によって、脳の縫線核とA11領域から脊髄腰仙髄部へ下行する神経が大腸運動制御に重要であることが明らかになった。この成果は論文として公表できたので、順調に研究を進展できたと言える。一方で、狂犬病ウイルスを経シナプス性トレーサーとして活用するプランについては、まだ完成していない。この実験を実施するためには、実験者が狂犬病ワクチンの接種を受ける必要があったため、実際に実験を行うまでに時間がかかったが、現在は問題なく進んでおり全体の計画を遅延させることはない。無意識下で大腸運動を記録するための手技を確立することにも取り組んだが、腸電図を利用した実験に目処が立った。絶食後に摂食をさせたときの大腸運動亢進やグレリンアゴニストを投与したときの大腸運動亢進が、無麻酔無拘束のラットで記録できるようになっており、2年目以降の実験で活用できる状況ができた。その他、GABA神経にCreが導入されているラット、オキシトシン神経にDREADDを発現するラットを導入し、脳と大腸を機能連関する神経路の解明を深化させる実験が進行中である。 もうひとつの目標は、脳と大腸を機能連関させる神経路のリモデリングが大腸運動の異常を誘発するという仮説を実験的に証明することである。いくつかのモデルを並行して進めているが、パーキンソン病モデルラットを用いた実験が完了し、論文として公表することができた。現在、足底部にアジュバントを投与する痛覚過敏モデル、大腸炎モデル、膀胱炎モデル、脊髄への薬物投与による痛覚過敏モデル、抗精神病薬の慢性投与モデルなどを並行して進めており、2年目以降に成果が挙がることが期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、脳と大腸を機能連関する神経路の解明をさらに進展させるため、経シナプス性トレーサーとして狂犬病ウイルスを活用する実験を進める。これまでに、感染した神経で蛍光タンパク質GFPを発現するように遺伝子改変した狂犬病ウイルスを大腸壁に注入した後、経時的にサンプリングする実験を行い、脳へ伝わるプロセスを確かめ実験条件を概ね固めた。今後は、大腸への侵害刺激やストレス不可など、各種刺激を与えたときのc-Fos発現を調べる。GFPとc-Fosに二重染色される神経核を同定し、刺激に応じて活性化する部位と大腸からの上行性経路の接点を解明する。 これまでの研究で、大腸運動を調節する脳神経核として延髄縫線核と視床下部A11領域が同定できたので、これらの神経核の上流に位置しストレスや精神活動の乱れの影響を仲介する脳領域を調べる。ストレス応答に関わる脳部位としては視床下部背内側核を候補とし、この部位を刺激したときに大腸運動は亢進するか、亢進するとすれば縫線核やA11領域を介するかを検討する。また、痛みや情動を処理する中脳水道周囲灰白質についても同様に実験を進める。 脳幹部から下行するオキシトシン神経は、痛み情報の入力を制御する下行性疼痛制御系を構成する神経のひとつである。私たちはこれまでに下行性疼痛制御系の神経が脊髄排便中枢にも働き、大腸運動を変化させることを見出してきたので、オキシトシン神経にも同様な効果があるかを検証する。具体的には、人工ホルモンであるCNOを投与し、オキシトシン神経を活性化させた際に、大腸運動が亢進あるいは抑制されるかを検討する。 その他に、腸電図を用いて意識下でストレスや痛みに対する大腸運動応答を評価する実験を実施する。また現在進行中の各種モデル動物を用いた脳と大腸を機能連関させる神経路のリモデリングに関する実験をそれぞれ完成させ、論文として公表することを進める。
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Report
(2 results)
Research Products
(21 results)