Project/Area Number |
23H00409
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (A)
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Allocation Type | Single-year Grants |
Section | 一般 |
Review Section |
Medium-sized Section 50:Oncology and related fields
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
三木 裕明 京都大学, 工学研究科, 教授 (80302602)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2024)
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Budget Amount *help |
¥45,890,000 (Direct Cost: ¥35,300,000、Indirect Cost: ¥10,590,000)
Fiscal Year 2024: ¥11,440,000 (Direct Cost: ¥8,800,000、Indirect Cost: ¥2,640,000)
Fiscal Year 2023: ¥12,090,000 (Direct Cost: ¥9,300,000、Indirect Cost: ¥2,790,000)
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Keywords | シグナル伝達 |
Outline of Research at the Start |
生体内のpHは通常7.4前後で厳密に維持されているが、悪性化したがん組織では酸性化しており、pHが6.5くらいにまで低下していることが知られる。このような過酷な酸性環境の中でがん細胞がどのように応答しているのかを理解することは、がんの悪性化進展機序を明らかにするために非常に重要である。私たちは発がん因子PRLの働きによって、細胞が酸性環境の中で選択的に増殖する酸性環境適応現象を見つけた。また、この現象がリソソームが細胞膜と融合するlysosomal exocytosisで引き起こされることも明らかにしており、本研究ではその具体的な分子機構や調節機構の究明を目指している。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではリソソームと細胞膜が融合するlysosomal exocytosisが起こる分子機構や、その調節の仕組みに関して詳細な解析を進め、これまで私たちが取り組んできた細胞の酸性環境への適応現象やがん悪性化進展における役割を明確にすることを目的として研究を実施している。研究の初年度である2023年度においては、まずTGFbetaシグナル伝達とlysosomal exocytosisの関連についての解析を行った。TGFbetaシグナル伝達は、受容体ALK5の下流でSmadなどのシグナル伝達因子がリン酸化・複合体形成を起こし、核内に移行して特定の遺伝子発現を引き起こすことで起こる。Smad2、Smad3、Smad4の安定的ノックダウン細胞株を作成したところ、PRL高発現誘導性の酸性環境適応現象が部分的にキャンセルされていた。また、リソソーム内腔に蓄積した酵素の分泌でlysosomal exocytosisの度合いを経時的に調べたところ、TGFbeta刺激から数時間という短いタイムスケールで明確な分泌増加が観察されていた。これらの実験結果は、TGFbeta受容体下流でSmadを介しながらも、核内での標的遺伝子発現とは異なる仕組みでlysosomal exocytosisが活性化していることを示唆している。Lysosomal exocytosisにおける亜鉛イオンの役割を追究するため、細胞内で亜鉛イオンの近傍に存在するタンパク質をラベリングできる化学物質のAIZinを用いて、亜鉛イオン応答性の候補タンパク質を質量分析により網羅的に解析した。その結果、PRL高発現によってlysosomal exocytosisを活性化した状態では多くのタンパク質がAIZinでラベルされていることが分かった。その中には細胞内小胞輸送に関わるタンパク質など、機能的な面でlysosomal exocytosis活性化に関わりうる興味深い候補分子も含まれていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度はこの研究のスタートの年として、最重要課題としてのTGFbetaシグナル伝達とlysosomal exocytosisの関わりについて、さらに亜鉛イオンとlysosomal exocytosisとの関わりについての解析をそれぞれ重点的に進めた。特に興味深い研究成果として、TGFbetaの受容体ALK5の下流で機能するシグナル伝達因子として有名な各種Smadタンパク質のRNAiノックダウン実験によって、それらの重要性を検証することができた。さらにTGFbeta刺激してから数時間という短いタイムスケールでリソソーム内腔からの酵素分泌が起こることも示された。一般にTGFbetaシグナル伝達は受容体ALK5やその下流のシグナル伝達因子Smadを経て、核内で標的遺伝子の発現誘導を介して起こることが知られている。しかし、上記の実験結果はSmadの活性化を経ながらも、核内での遺伝子発現ではなく、細胞質での直接的な作用によってlysosomal exocytosisが活性化している可能性を示唆している。また、亜鉛イオン近傍のタンパク質をラベルする新しい化学的な実験技術を利用することによって、lysosomal exocytosis活性化時に特異的な亜鉛イオン結合候補タンパク質をいくつか見つけることができ、今年度以降の研究の発展の礎となる成果が得られたと考えている。これらの理由で、本研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度の重要な研究成果の一つとして、TGFbeta刺激に応答して起こるlysosomal exocytosisがシグナル伝達因子Smadを介するものの、核内での遺伝子発現とは異なる仕組みであることが示唆された。これを解き明かすことは、がん悪性化に重要なTGFbetaシグナルの新たなシグナル伝達機構の解明に至る重要な課題と考えられる。よって、この点に関してはSmadの刺激応答性の結合タンパク質の解析を行い、lysosomal exocytosisに至る新規のシグナル経路の発見・同定を目指して研究を進めてゆく。Smadの結合タンパク質に関してはこれまでいくつかのプロテオーム解析が行われており、それら既存のデータを活用する。また、細胞のタンパク質抽出物から核成分を除いた細胞質画分を用いた結合(共沈)タンパク質の解析を独自に実施するなどして、複合的な観点から解析を進める。また2023年度の成果として、lysosomal exocytosis活性化時に亜鉛イオンに特異的に結合するタンパク質もいくつか得られているので、その機能的重要性や亜鉛イオンの調節を介したシグナルネットワークの解明に向けて解析を進める。
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