Project/Area Number |
23K00065
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 01030:Religious studies-related
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
亀山 隆彦 京都大学, 人と社会の未来研究院, 特定准教授 (10790230)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,810,000 (Direct Cost: ¥3,700,000、Indirect Cost: ¥1,110,000)
Fiscal Year 2027: ¥520,000 (Direct Cost: ¥400,000、Indirect Cost: ¥120,000)
Fiscal Year 2026: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
Fiscal Year 2025: ¥1,040,000 (Direct Cost: ¥800,000、Indirect Cost: ¥240,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,170,000 (Direct Cost: ¥900,000、Indirect Cost: ¥270,000)
Fiscal Year 2023: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
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Keywords | 真言密教 / 日本仏教 / 身体論 / 五蔵曼荼羅 / 真如論 |
Outline of Research at the Start |
本研究では、真言密教の社会思想的意義の解明を目的に、その教えと実践の根幹となっている行者の身体観を考察する。 真言密教は、西洋から見た仮想的東洋の智である以前に、東アジアの共同体の中でも、具体的な日本の社会関係から発生した「学知」であるといえる。 本研究では、その真言密教の社会思想的側面を明らかにするために、日本の密教僧が議論を重ねた身体マンダラ論である「五蔵曼荼羅」を精密に検討する。具体的には、五蔵曼荼羅の構成要素が、古代中国の医学・哲学に由来することを示した上で、各要素が、平安時代以降の日本仏教社会の中で凝集し、組織的なマンダラ論へ段階的に発達・成熟していった過程を提示する。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画では、真言密教の理論的焦点と目される身体に関する教説、すなわち、日本の密教僧が、複雑な議論を重ねた身の曼荼羅論に注目する。具体的には、中世期の密教文献に頻出する「五蔵曼荼羅」と呼ばれる教説の分析に取り組む。 研究計画1年目にあたる2023年度は、主に系譜の視点から、五蔵曼荼羅の考察を進めた。拙著『平安期密教思想の展開:安然の真如論から覚鑁の身体論へ』(臨川書店、2023年)で、五蔵曼荼羅の理論的基盤の一つに、平安初期の天台僧安然が展開した真如論があると仮説的に指摘した。2023年度は、その仮説を証明するために文献学と思想史研究を進めた。研究実績は次の通りである。 安然は、『教時問答』と呼ばれる著書の中、独自の真如論を集中的に説き示す。論文「高山寺蔵『教時問答』巻三の基礎的研究」(単著、査読無、『令和5年度高山寺典籍文書綜合調査団研究報告論集』、2024年)では、高山寺(京都)に所蔵される『教時問答』の古写本の分析に基づき、同書の原形解明に努めた。 この基礎研究に基づき、口頭発表「安然後期の思想と真如論」(2023年度密教研究会学術大会、2023年)と論文「真理と存在:安然における「真如」の哲学」(単著、査読無、『未来哲学』7、2024年)では、安然の真如論を精査し、「一」「多」の概念が激しく入れ替わるダイナミックな構造を改めて解明した。その上で、論文「安然『教時問答』における三密身」(単著、査読有、『密教文化』251-252、2024年刊行予定)で、安然の身に関する議論を検討し、それが、真如論から派生した教説であることを解明した。 最後に、口頭発表「中世禅における安然教学の意義:聖一派の十識理解を中心に」(日本印度学仏教学会第74回学術大会、2023年)では、安然の真如論の中世における受容実態を詳しく議論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
真言密教は、古代から近世まで、各時代に生きた仏教僧の知的活動と社会的営為から生まれた。その発生にあたり、真言宗の開祖空海が重要なのは、いうまでもない。しかし、空海が、真言密教のすべてを作り出したわけではない。真言の教えそれ自体が、具体的かつダイナミックな日本の社会の産物であり、文化現象そのものでもある。本研究計画では、この真言密教の教義と実践を含む「思想」を、理解社会学的思想研究の視座から考察し、その構造的特質と歴史・社会的意義の解明を目指す。 以上の研究計画を進めるにあたり、本研究計画では、中世真言密教文献に頻出する五蔵曼荼羅と呼ばれる教説の考察を試みる。同曼荼羅説は、真言密教の理論的焦点と目される身の曼荼羅論の一部でもある。その社会思想的結節点の分析を通じて、真言密教の動的変容のプロセスとその基盤となる構造を同時に明らかにする。 具体的な研究計画としては、1年目に平安時代の資料を集中的に検討し、その時代の日本社会の中、どういう過程で五蔵曼荼羅が組織されたか、また、何がその基盤になったか詳しく解明することを予定していた。 先にも述べた通り、その計画1年目にあたる2023年度、主に系譜の観点から五蔵曼荼羅の分析を進めた。具体的には、平安初期の天台僧安然が展開した真如論と身体論を、文献学と思想史学の方法で詳しく分析し、それらが、五蔵曼荼羅の理論的基盤の一つであることを改めて証明した。その研究成果として、3本の論文を発表し、2度の口頭発表を行った。加えて、この結果は、2年目以降の研究計画の重要な下地ともなる。 以上の研究内容から判断するに、現在までの進捗状況は、おおむね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定として、研究計画2・3年目に、五蔵曼荼羅に対する中世真言僧の理解を詳しく検討し、それがどのように発達・成熟していったか明らかにするつもりだった。すなわち、平安末から室町期に活躍した覚鑁や我宝といった真言僧が残した五蔵曼荼羅に関する主張と、それらを包摂する中世の社会状況を総合的に分析し、五蔵曼荼羅の展開が生じた因果関係と動機を仮説的に提示する予定だった。 また、その成果を踏まえ、研究計画4年目に、14世紀以降の真言僧達が執筆した資料を検討し、室町から江戸期に、五蔵曼荼羅がどのように普及したか考察する予定だった。特に、中世と全く違う江戸期の日本社会の中で、五蔵曼荼羅が、より幅広い社会層にいかに受容され、伝承されていった。その思想的展開を精密に叙述するつもりだった。 しかしながら、ここまでの研究の進捗を考慮すると、計画と期間の短縮が可能と考えられる。すなわち、計画1年目、五蔵曼荼羅の理論的基盤と考えられる安然の真如論・身体論の詳細な実態を明らかにした。そこで、五蔵曼荼羅を理解する上で有益な思想フレーム「不変真如」を構想した。そのフレームを活用することで、覚鑁と我宝それぞれの五蔵曼荼羅理解の構造と意義を速やかに解明できるだろう。すなわち、計画2年目に、五蔵曼荼羅の同曼荼羅理解への展開を検討し、その社会・文化的実態を明らかにできると考える。 さらに、その成果に基づくなら、計画3年目に、江戸期の五蔵曼荼羅に関する考察を開始することも可能だろう。また、計画5年目ではなく4年目に、それまでの成果を総合し、古代~近世真言密教の五蔵曼荼羅史、身体観史をまとめる予定を立てている。以上の新たな研究計画に則って、古代、中世、近世各時代の真言僧が遺した五蔵曼荼羅を検討し、その形成と発達・成熟、普及各段階の詳細を解明する。
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