Project/Area Number |
23K00166
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 01060:History of arts-related
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Research Institution | Kyoto Tachibana University |
Principal Investigator |
小林 裕子 京都橘大学, 文学部, 教授 (30409601)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,680,000 (Direct Cost: ¥3,600,000、Indirect Cost: ¥1,080,000)
Fiscal Year 2026: ¥260,000 (Direct Cost: ¥200,000、Indirect Cost: ¥60,000)
Fiscal Year 2025: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
Fiscal Year 2024: ¥1,690,000 (Direct Cost: ¥1,300,000、Indirect Cost: ¥390,000)
Fiscal Year 2023: ¥1,430,000 (Direct Cost: ¥1,100,000、Indirect Cost: ¥330,000)
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Keywords | 官営造仏所 / 奈良時代 / 写真計測 / 天平彫刻 / 山西省の古建築 / 寺院造営 / 造寺司 / 法量 |
Outline of Research at the Start |
古代寺院の巨大木造建築が仏像と連動した空間なのは、当然古代人が両者を綿密に計算し、礼拝者の仰角を含めて設計していたからであろう。経典には仏像の高さ(像高)しか記載されておらず設計の実態もわかっていないが、研究実施者のこれまでの研究で建築と仏像の関係は高さが優先されることが掴めてきた。つまり古代人は、高さを第一基準としてものづくりをしていた可能性がある。そこで本研究では、像高が寺院全体の規格にどこまで影響したのかを明らかにしてみたい。こうした本研究の成果によって美術史学のみならず、建築史学、文献史学とも絡み合って、古代日本人の効率的かつ合理的なものづくりを多角的に掴むことが期待できるのである。
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Outline of Annual Research Achievements |
法隆寺金堂や唐招提寺金堂では、堂宇正面に立つと安置仏が柱間におさまってみえる。報告者は本研究において、巨大木造建築が仏像と連動した空間芸術となっているのは古代人が諸条件を見通す軸となる数値をもとに綿密に設計していたと仮定し、その実態を明らかにしたいと考えている。そもそも経典には「仏身一丈六尺」と像高(仏像の高さ)の規定のみが多々記されているが、一方で資財帳をはじめ奈良時代の文書では寺院建築の規模を「長(桁行)」・「広(梁間・奥行)」・高の3点で記すほか、高さを省略する場合がある。報告者のこれまでの研究によると、古代人が高さを第一基準としてものづくりをしていたことが掴めてきた。おそらく寺院の本尊級の仏像はほぼ丈六(一丈六尺)仏であるため、記さなくてもわかっていた、ということになろう。しかしながら丈六というサイズをどのように建築に取り込んでいたのか、古代仏教建築においては礼拝者が堂宇の外から礼拝していたために基準点をどこに設定していたのかわかり難い。そこで本研究では像高が寺院全体の規格にどこまで影響したのかを解明すべく、まずは令和五年度においては、礼拝者の視点探索をおこなった。 報告者は科研費基盤研究(C)課題番号18K00195「天平彫刻における造形的共通規範とその運用に関する研究」において、コロナ禍のために海外調査ができずに予定通りの成果を出すことに苦しんできた。そのため本研究ではまずは現地に赴くべく、令和五年度は山西省の華厳寺や南禅寺などの木造建築を対象に予備調査として撮影・スケッチ・調書作成をおこなった。対象の建築はかなりの修理や改変が加えられているが、建築と仏像の関係においては想定通りのデータを得ることができた。本予備調査をもとに、令和七年度の本調査では図化のための撮影をおこなうべく準備を進めているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画当初は研究スタート年度として令和五年度は、韓国石窟庵と唐招提寺の調査を予定していた。しかしながら、海外調査については実施可能な時期に行っておかねば取り返しがつかなくなるため、山西省にのこる木造建築の予備調査を優先することとした。 山西省では、鎮国寺、洪福寺、南禅寺、仏光寺でいずれ本格的な機材を用いた撮影に先立ち、通常一眼レフ撮影・スケッチ・調書作成をおこなった。五台山の南禅寺大仏殿は墨書銘によれば唐建中三年(782)の造立で、中国屈指の木造建築である。仏壇には十数躯の塑像が所狭しと並んでいる。塑像群は倒壊しないように仏壇に心木を貫通させているため、群像の配置は建築造営当初と大きく変わらないとされる。後世の修理がかなり入っているとはいえ、南禅寺の位置が五台山中心地から外れているために廃仏を逃れて貴重な唐代建築の作例が伝わっている。すでに梁思成氏らによって堂内空間の緻密な設計が図化分析されているが、現地に立つことで礼拝者の視点をどこに置いていたか目視でもわかるくらいであった。 仏光寺の東大殿も墨書銘によって造営年代が判明しており、唐大中十一年(857)に建てられた。会昌の廃仏後に再建されたというが、仏光寺仏壇にも南禅寺大仏殿と同様に三十数躯の塑像群が安置されている。ともに多数の塑像群を安置しているが、すべての像を見渡すパノラミックビューを設定していたことは建築と仏像の関係性から理解できる。このことは中国では脈々と受け継がれ、清朝の文献にも記されているくらいである。日本の仏教寺院造営にも当然考え得ることであるが、現状では明確な根拠資史料がないために今後は予定通り電動カメラスライダーといった機材を用いた調査を展開することとなろう。
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Strategy for Future Research Activity |
令和五年度の山西省における予備調査によって、パノラミックビューを想定した礼拝者の位置を確認することができた。この事実をもとにして、令和六年度は国内作例である法隆寺、東大寺法華堂、唐招提寺、室生寺金堂、平等院鳳凰堂を研究対象とする。いずれの寺院も電動カメラスライダーでの撮影許可は下りないと考えられるので、図面から3次元データ構築をすることで「礼拝者の視点」を視覚化していく。 令和六年度にとくに留意したいのは、古代寺院では礼拝者は入堂せずにほとけと向きあっていたことである。山岸常人氏がかつて、平安時代に密教が日本に到来して堂内で修法や礼拝をするようになってから仏教建築が「金堂」から「本堂」へ変化したとまとめており、この点はすでに定説となっている。すなわち、古代人は入堂しない仏殿の荘厳をいかに考えていたのかが問題となる。先のパノラミックビューを日本の古代建築に置き換えることができれば、この疑問を解くことができよう。さらには仏像安置位置と礼拝者の位置を厳然と区切った双堂建築の例もある。したがって今年度は日本の現存作例としっかり向き合い、ひとつの歴史観を確定させたいと考えている。 令和六年度は国内での研究活動を進め、その成果をもとに令和七年度に再度山西省の南禅寺と仏光寺でのデータ収集にあたりたい。南禅寺と仏光寺はすでに中国の建築史研究者によってかなりの研究が蓄積されており、あらためて報告者の視点でどのような解釈ができるか意見交換をもおこないたいと思っている。
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